先月、書的独話で「気球の北極探検隊」を書きました。
1897年、スウェーデンのアンドレー探検隊が、人類初となる気球での北極点到達を目指して出発しました。当時の気球は最先端の科学。大いに期待されましたが、音信不通に陥ってしまいます。
1909年、アメリカのロバート・E・ピアリーが北極点に到達。アンドレー探検隊は行方不明のまま。
1930年、偶然、キャンプ跡と遺骨が発見されました。アンドレー探検隊は、なぜ生還できなかったのか? 今でも謎が残っています。
当時の北極が未知なら、南極もしかり。
そちらでも冒険が繰り広げられています。
1911年、ノルウェーのロアルド・アムンゼンが、南極点到達一番乗りを果たします。
イギリスのロバート・F・スコットが南極点に到達したのは1ヶ月後。しかもスコットは、壊血病で命を落として帰らぬ人となってしまいます。イギリスの落胆はいかばかりか。
そんなとき、サー・アーネスト・シャクルトンが南極大陸横断に挑戦することを発表します。いまだ誰も成し遂げていない大事業。イギリス待望の大冒険でした。
結果は、失敗。
氷の海に太刀打ちできず、シャクルトン探検隊は南極大陸に上陸することもできませんでした。それどころか、船を失ってしまいます。それでも隊員たち全員が生還しました。
そんな冒険を、ひとつの物語としてまとめたのが本書。
アルフレッド・ランシング
『エンデュアランス号漂流』
アムンゼンvsスコットの南極点到達の戦いに続いてイギリス人探検家シャクルトンは南極大陸横断に挑戦した。しかしその途上で船は氷に押し潰され、絶望的な状況での漂流が始まる。食料不足、極寒、疲労、そして、病気。過酷な試練を乗り越えながら、前向きで陽気な28人の隊員たちは、17ヶ月に及ぶ極限の旅を経て、ついに奇跡的な生還を果たす―。その旅の全貌。故星野道夫の座右の書・待望の完訳。
内容(「BOOK」データベースより)
シャクルトンにとって南極大陸の冒険は、はじめてではありません。
1901年、スコット率いる南極探検隊に加わり、南極点まで745マイルに接近。
1907年、シャクルトンがリーダーとなって南極点を目指したものの97マイルで断念。帰路は想像を絶する死との闘いになり、祖国の英雄となる。ナイトの称号授与。
このころからシャクルトンは、南極点到達は時間の問題だと考え、それなら自分は南極大陸横断をしてやろうと、準備を進めます。
1914年、ついに準備が整い、シャクルトン探検隊が南極大陸横断に挑みます。エンデュアランス号に乗り込んだのは、28人の男たちと、69頭のそり用ハスキー犬たち。
ところで、1914年がどういう年だったか、記憶にありませんか?
第一次世界大戦が勃発した年です。
6月28日、オーストリア皇太子の暗殺。
7月28日、オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告。戦争がはじまります。
8月1日、ドイツがロシアに宣戦布告。
8月3日、ドイツがフランスに宣戦布告。
8月4日、イギリスがドイツに宣戦布告。
(8月23日、日本がドイツに宣戦布告)
イギリス参戦のまさにその日、シャクルトンは国王ジョージ5世から探検隊用のユニオン・ジャックを授かります。とはいえ、戦争がはじまっているのに、このまま出発していいものかどうか。
大いに迷ったシャクルトンは、国の上のほうにお伺いを立てました。その結果、海軍大臣ウィンストン・チャーチルから電報を受けとります。これで政府の承認を得られました。
10月26日、エンデュアランス号はアルゼンチンのブエノスアイレス港を出航。最後の寄港地となるサウスジョージア島へ向かいます。サウスジョージア島は、南アメリカ大陸の南端からぽつんと離れた孤島です。捕鯨基地があります。
11月5日、サウスジョージア島に到着。
12月4日、出航。ウェッデル海に船を進めます。
ウェッデル海は、南極大陸、パーマー半島、サウスサンドイッチ諸島に囲まれています。パーマー半島の反対側のバーゼル湾から南極大陸に上陸する計画でした。
なお、南極の真夏は1月です。
1月18日、流氷帯を迂回しながら進んでいたエンデュアランス号は、流氷群に巻き込まれ、閉じ込められてしまいます。そのまま氷とともに漂い続け、冬至を過ぎ、8月になると氷の圧迫がはじまり、危機的状況に陥ります。
10月27日、シャクルトンはエンデュアランス号を放棄することを決断します。数々の物資、3隻のボート、もちろん犬たちも船を脱出しました。
こうして氷盤でのキャンプがはじまります。
ボートが使えるようになるまで待機して、氷盤が氷のない海に出たら、ボートで救助の期待できそうな陸地へと航海する。それ以外に道はありませんでした。
それがいかに難しく、どうやって困難を乗り越えたか。
ランシングの『エンデュアランス号漂流』では、隊員たちが残した記録と証言をベースに、冒険小説のように読むことができます。
念のため捕足しておきますが、人間は全員生還したものの、そこに犬は含まれていません。途中で子犬が生まれたりもしましたが……。
犬好きさんは覚悟の上でお読みください。
実は、海に沈んだエンデュアランス号は、つい最近になって発見されてます。2022年3月5日のことです。
ナショナルジオグラフィック日本語版
(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/)
の「Photo Stories 撮影ストーリー」コーナーで紹介されてます。動画もありますので、ぜひご覧下さい。(会員にならなくてもアクセス可能)
「南極探検船エンデュアランス号をついに発見、水深3千mの海底で、沈没から107年」
(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/photo/stories/22/031100020/)