2021年の目標は、月に10冊は読む、でした。
この目標も3年目。波はありましたが、最終的に110タイトル読みました。ここ数年は毎年100タイトルでしたから、少しだけ多かった、ということになります。実は、複数巻のタイトルが少なかっただけで、読んでいる冊数としてはほぼ同じですけど。
そして2021年は、児童書をかなり読んでいた年でした。
ミヒャエル・エンデ『モモ』の再読にはじまり、古代が舞台のミシェル・ペイヴァー《クロニクル 千古の闇》六部作、ベストにしたナオミ・ノヴィクの『銀をつむぐ者』、ダークなガース・ニクス《古王国記》三部作、などなどなど。
児童だったころに読んだらどう受けとめたか。あのころに戻りたくもあり、今だから気がつくこともあり。今後も読んでいきたいです。
そんな中から、2021年に読んだベスト本をご紹介します。
ロイス・マクマスター・ビジョルド
『魔術師ペンリック』
ペンリックは、貧乏な田舎貴族の末っ子。19歳のとき、偶然にも神殿魔術師から〈魔〉を譲り受けた。それまで庶子神とは関わりがなく一般的な知識しかないペンリックは〈魔〉をデスデモーナと名づける。馬とライオンと10人の女性を経てきた〈魔〉にとっても、名前を贈られるのははじめてだった。
正式に訓練を受けたペンリックは、神殿魔術師になるが……。
《五神教》シリーズの中篇集。はじまりの「ペンリックと魔」、逃亡した王認巫師を追跡する「ペンリックと巫師」、殺された神殿魔術師の〈魔〉を捜索する「ペンリックと狐」の3篇収録。
続編に『魔術師ペンリックの使命』があり
ペンリックの育ちのよさが、読んでいて心地いいシリーズ。育ちはいいけれど金には苦労してきたので、上の方の階級の嫌みな雰囲気もないです。
主人公が神殿魔術師であるため、当然、本作を語るうえで宗教は外せません。ところが《五神教》シリーズに所属しているためか、あえてそうしたのか、独特の宗教に関する説明は限定的です。
シリーズの他作品での予備知識が大いに役立ちました。説明が少ない分、物語に入りやすかったように思います。中編なので、もっとじっくり読みたい気持ちはあります。この物足りなさは、次も読みたい意欲になりました。
ニール・ゲイマン&テリー・プラチェット
『グッド・オーメンズ』
悪魔のクローリーと天使のアジラフェールは、6000年来の友人同士。
20世紀になってハルマゲドンが迫っていることを知り、ふたりは狼狽する。世界が終わって地獄になったら、ひどいことになる。かといって天国がいいとも限らない。ふたりは現状維持をもくろみ、 人間界に送りこまれた反キリストに接近する。まだ子供の反キリストを、悪魔流に、あるいは天使流に教育しようとするが……。
イギリス流のブラック・ユーモア・ファンタジー。読了後、映像化作品も視聴しました。目で見て理解が深まったところもあり、文字世界のおもしろさを再確認したところもあり。
小ネタ満載なうえ脚注は59項目。読了直後は、ちょっとリズムが合わなかったな……と思ってました。
しばらく時間がたって思い返すと、読むのが楽しかったな、と。最初は、なにを読んでいるのか分かりませんでした。読み終わるころには、いろいろ分かってきます。
後からじわじわくるタイプの物語でした。
ハードカバー版で読みましたが、どうしても場所塞ぎになってしまうため、保存用に文庫版で買い直しました。
ナオミ・ノヴィク
『銀をつむぐ者』
ミリエム・マンデルスタムは、金貸しの娘。16歳になったとき決心した。心根がやさしすぎる父に代わって、自分が借金の取り立てをする。心を鬼にして、冷酷に、法に訴えると脅しながら。 ミリエルは商売上手な金貸しとなり、自分は銀を金に変えられる娘だと自負するようになった。
そんなミリエルの元に、異界の恐ろしいスターリクが銀貨を6枚置いていった。金貨に変えるように求められているのだ。
ミリエルはスターリクの挑戦を受けて立つが……。
中世東欧を舞台にしたファンタジー。
ミリエルのほか、ミリエルが雇う農民の娘ワンダ、スターリクの血をひいている公爵令嬢イリーナの3人が中心人物。彼女らの背後にあるものが分厚いです。
ミリエルは被差別民族の生まれ。ワンダは父親から虐待を受けている。イリーナは隅に追いやられていた。
この3人以外にも、いろんな人物に視点が切り替わっていきます。それぞれに、それぞれの人生がありました。
盛りだくさんすぎて、お腹いっぱい。
アフマド・サアダーウィー
『バグダードのフランケンシュタイン』
イラク戦争から2年。バグダードではいまだに爆弾テロが繰り返されている。古物商のハーディは、爆破テロの犠牲者の、バラバラに飛び散った遺体を少しずつ集め、ひとりの人間をつくりあげた。
ハーディに目的はなかったが、醜く奇怪な身体には犠牲者の魂が入り、勝手に動きはじめる。そして、自身を構成する者たちのために復讐をはじめるが……。
バグダードが舞台の群像劇。
アッシリア東方教会信徒の老婆イリーシュワーと、隣人のハーディ、ハーディの造った〈名無しさん〉、〈名無しさん〉の事件を追う、ジャーナリストのサワーディー。その他もろもろの、バグダードで生きている人たち。
ことさらにイスラムっぽさを強調することがなく、それがまたリアルに感じられました。もしかすると、イラク人作家の本ってはじめてだったかもしれません。そうした点からも興味深かったです。
ルシアン・ネイハム
『シャドー81』
ロサンゼルス国際空港から、747ジャンボ旅客機が飛び立った。パシフィックグローバル航空(PGA)81便だ。乗員乗客201名が、ハワイに向かう。
離陸直後、PGA81便は、ハイジャックの通告を受けた。完全武装したジェット戦闘機が、いつでも撃墜できる位置で追尾しているという。コール・サインは、シャドー81。
犯人との駆け引きがはじまるが……。
本書のウリは、最新鋭の戦闘爆撃機がジャンボジェット機をハイジャックする、という点。でも、本当は、なんの事前情報もなしに読みたかった……。
第一部は、なにが起ころうとしているのか、まったく分からないようになってます。ハイジャックの準備をしていても、ことさら計画について考えることはありません。そのため読者は手探り状態に置かれます。
第二部で、ついに事件発生。
なにも知らずに読んでいたら、さぞかし驚いただろうな、と。でも、知らなかったら読まなかっただろうし、難しいですね。