今回のテーマは、遭難。
海に、無人島に、宇宙に、切り離されてしまった人たちの物語。フィクション、ノンフィクション、その中間。それなりに読んでます。
出発点はなんといっても、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』。小説というものが書かれ始めた時代の物語。どこかにひとり取り残されてサバイバルする……というジャンルの代名詞となりました。
付記したコメントは、記憶を元に書いてます。ただ、ここ数年、ロビンソン・クルーソーものを意識して読んだり読み返したりしてきたため、それなりに覚えているうえでのコメントです。
以上、3種にまとめてあります。
■■■遭難もの
出発点になっている物語と、それらの派生物。最近のものまで。
ダニエル・デフォー
『ロビンソン・クルーソー』
1719年発表。
ロビンソン・クルーソーものといえば、無人島にひとり取り残されてサバイバルする話。実際に読んでみると、それだけではありませんでした。
親元から飛び出して貿易商になり、奴隷にされて農園経営者となり、遭難して無人島に流れつく。そこでサバイバルがはじまりますが、壊れた船と一緒だったので意外と物資は豊富。サバイバルの後にもさらなる展開があります。
おそらく、小説という表現スタイルが確立されていない時代のため、導入部がどうの、山場がどうの……という概念がなかったのでしょうね。
その後の時代に書かれた冒険ものは、本書がネタ元になっていることが少なくないです。一度は読んでおくべき、などと義務感から読みましたが、今でもおもしろいです。
ジュール・ヴェルヌ
『十五少年漂流記』
1888年発表。
寄宿学校の8〜14歳までの少年たち14人が、航海中の嵐によって無人島に流されてしまいます。子供たちの集団漂流ものは、たいてい本書が引き合いに出されます。
『ロビンソン・クルーソー』とは違って、無人島生活がメイン。それから、集団ゆえの軋轢も語られます。そのあたりは独自のものとなりますが、展開に『ロビンソン・クルーソー』を彷彿とさせられることもありました。(こちらを先に読んでいるので、思い返せば……ですが)
ウィリアム・ゴールディング
『蠅の王』
1954年発表。
子供たちの集団漂流もののため、よく『十五少年漂流記』と比べられてます。『十五少年漂流記』はその当時の現代が舞台でした。こちらの背景は架空のもの。
世界は戦争状態にあり、疎開するため飛行機に搭乗していた少年たちが、飛行機の事故によって無人島に置き去りにされてしまいます。壊れた飛行機は嵐に持ち去られたらしく、『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』と違って、持ちこまれた物資はありません。着の身着のまま。ただし、苦労せずに果実が手に入る環境です。
遭難したのは、最年長でも12歳の幼い子供たち。知識も経験も忍耐もなんにもないです。サバイバル云々よりも、深層心理がクローズアップされてます。
レックス・ゴードン
『宇宙人フライデイ』
1956年発表。
宇宙のロビンソン・クルーソーもの。
ロケットのトラブルにより、主人公は火星に島流し状態になります。
発表当時には、火星がどういう世界か分かっていませんでした。今となっては荒唐無稽な作り話、といったところ。火星人なども登場します。その古びたところも楽しさのひとつになるかと思います。
ジェフリー・A・ランディス
『火星縦断』
2000年発表。
第三次有人火星探査隊が、帰還用宇宙船のトラブルによって火星で立往生してしまいます。希望の光は、第一次探査隊が遺した帰還用宇宙船。当時の探査隊が全滅したため使われなかったのです。問題は、6000キロ彼方であること。
というわけで、遭難ものではありますが、火星を旅する冒険ものの色合いが強いです。
売り文句は、作者がNASAの現役研究者であるところ。ただし、ドロドロした人間関係が展開されるパートが多いので、火星の大自然に立ち向かう人類を期待すると、ちょっと違うかな、と。
ところで「帰還用宇宙船のトラブルによって取り残されてしまった」といえば、ジョン・W・キャンベル・ジュニア『月は地獄だ!』も読んでます。地球からの救援を待って、酸素や食料をやりくりして生きのびようとする物語でした。
アンディ・ウィアー
『火星の人』
2011年発表。
宇宙のロビンソン・クルーソーもの。
2011年は自費出版で、2014年に商業出版、2015年に映画化されました。
火星探検隊のうちのひとりが、死亡と誤認されて火星にひとり取り残されてしまいます。大自然を相手に生き延びようと試みます。
登場人物が優秀な人ばかりで足を引っ張る人がいない、というのが特色。
半世紀ほど前に書かれた『宇宙人フライデイ』と比べると、どれほど人類の科学知識が豊かになったかが窺えます。
■■■漂流もの
世界から切り離されてしまったものの、島などで遭難生活を送ることなく漂う人たち。
クリス・ヴィック
『少女と少年と海の物語』
少年は15歳。仲間たちとヨットで航行中に嵐に遭遇しますが、救命ボートに乗り移るのに失敗してしまいます。そのため、ひとりでボートに乗り込みます。途中、樽に乗って漂流していた少女を救出します。
ほぼ、漂流。ずっと漂流してます。
島にたどり着きもしますが、わけあって定着することはありません。船出します。そして、どこまでも続く漂流……。
タイトル通り、海の物語でした。
ヤン・マーテル
『パイの物語』
漂流の相棒がベンガル虎だった、という衝撃の漂流もの。
インドで動物園を経営していた一家が店じまいをし、売却した動物たちと同じ貨物船でカナダに向かいます。貨物船が沈没してしまい、混乱の中、少年はベンガル虎と一緒に救命ボートで漂流するはめに陥ります。
少年には虎を調教する知識があり、虎は動物園育ち。さまざまな幸運が重なってきます。
漂流ものですが、それまでの話がすごく長いので、じりじりしながら読みました。
■■■実話+実話ベース
実際にあった事件を取り上げたものと、実際にあった事件をベースに創作したもの。
ジェラルディン・マコックラン
『世界のはての少年』
18世紀の事件を題材にしたもの。
3人の大人と9人の子供が離れ岩に渡って海鳥の捕獲作業に従事しますが、約束していた迎えの船が、4週間たっても現れません。そこは無人島ですらなく、ただの岩。過酷なサバイバルが始まります。
14歳の少年を主人公にした児童書です。詳しい記録が残っておらず、創作部分が多いようです。
須川邦彦
『無人島に生きる十六人』
明治時代の事件を題材にしたもの。
太平洋へと乗りだした龍睡丸が座礁して、16人の乗組員が無人島に上陸します。木が一本も生えていないような島で、生き延びるための試練がはじまります。
龍睡丸の船長が生還して46年後に語った話を、児童向けにまとめた体裁になってます。実話ですが、都合の悪いことを隠している印象はぬぐえず。
最初から密猟目的の計画遭難(迎えの船を手配済)だったのではないか、という疑惑があるのです。
近代日本の海洋進出についての知識を仕入れておくと見方が変わります。本書については、平岡昭利『アホウドリを追った日本人』(書的独話「絶海の無人島」)で知りました。
ベア・ウースマ
『気球の北極探検隊の謎を追って』
(書的独話「気球の北極探検隊」)
1897年の遭難事件が題材。
北極点を目指し、当時の最先端科学である気球でもって旅立ったアンドレー探検隊について調査したノンフィクション。
アンドレー探検隊が生還できなかったのはなぜか?
この謎を解き明かします。出発してすぐに消息不明に陥り、発見されたのは33年後。偶然、白骨化した遺体と野営地跡が見つかったのです。
遭難した原因ははっきりしていますが、死因は不明なまま今日にいたります。
アルフレッド・ランシング
『エンデュアランス号漂流』
(書的独話「不屈の南極探検隊」)
1914年の遭難事件が題材。
南極大陸横断に挑んだシャクルトン探検隊が、南極の海に阻まれ遭難してしまいます。
シャクルトン探検隊は全員帰還しました。そのため当時の記録だけでなく、当事者にもインタビューしてノンフィクションとしてまとめられてます。
南極大陸横断どころか上陸すらできなかったわけですが、南極圏で船を失いながらも全員生還できたのは快挙。
過酷な状況とはいえ、生還できるのが分かっていて読めると安心感があります。