書的独話

 
2022年のひとりごと
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03月22日 気球の北極探検隊
04月22日 不屈の南極探検隊
05月15日 合言葉は【遭難】
06月28日 一族の歴史
06月30日 中間報告、2022年
07月10日 世界の複数性
08月28日 19世紀アメリカ
09月15日 17世紀、ほぼ海賊の日常
10月21日 書籍誕生
11月11日 芸術品の価値
12月20日 合言葉は【ドラゴン】
12月31日 総括、2022年
 

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2022年月日
17世紀、ほぼ海賊の日常
 

 まずは「海賊」がどういう人たちか書いておきます。手許の新明解国語辞典(第七版)によると……

 船を利用して、商船や沿岸地方を襲い略奪をほしいままにする者

 ディズニーや娯楽映画の絡みで「カリブの海賊」の知名度が高くなっているように思います。実際、カリブ海には海賊たちがいました。それに私掠船も。

 1655年にカリブ海のジャマイカを占拠したイングランドは、ジャマイカ総督としてトマス・モディフェードを任命します。モディフェードは積極的に私掠船を公認し、敵性船を拿捕する権限委任状〈コミッション〉を発行しました。

 政府のお墨付きである私掠船は、海賊とは違います。利益の分配先に政府が入ってきますし、積み荷にスポンサーがついてたりします。とはいうものの、被害者側からすればやってることは同じ。
 そんなわけで、両者はまとめて〈バッカニア〉と呼ばれました。

 そんな〈バッカニア〉のひとりが、ウィリアム・ダンピアです。
 ダンピアは知りたがり屋。知識欲に飢えてます。私掠行為の傍ら、自然、風土、民俗、動植物などの観察に精をだし、記録を残し、それらをまとめて手記を出版しました。
 記録は克明。自分で見聞きしたこと、人から聞きかじったことを区別して書いてます。
 著作物のひとつが、

ウィリアム・ダンピア
『最新世界周航記』
上下巻
 一七世紀末の海賊が残した驚くべき手記。カリブ海、南米、フィリピン、中国など世界の海を渡り歩き、敵船拿捕、都市襲撃といった私掠活動を重ねる。つねに危険と背中合わせの航海の様子と、寄港した土地の自然や風俗を、厳密な観察眼でつぶさに記す。(上巻「BOOK」データベースより)
 一七世紀の海賊の驚くべき手記。グアム諸島からフィリピン、中国へ、故国イギリスを遠く離れ、一攫千金を夢見て船は進む。焼き討ちや略奪を重ね、嵐や伝染病に苦しむ航海、その途中で間近に接した動植物や言語風俗等、貴重な記録も満載。 (下巻「BOOK」データベースより)

 1679年。
 ダンピア26歳。新婚で、妻を置いてジャマイカに向けて出航します。このときはまだ船客。年内には帰国するつもりでした。

 ジャマイカのポート・ロイヤルに到着すると交易で利益を上げ、気を良くして当初の計画を変更します。もっと有利な話が舞い込んでくるのに期待して、年末までジャマイカにとどまることにしたのです。
 クリスマスごろに、ようやく帰国……となる寸前、モスキート族の国への交易に誘われます。そのころには持ち金を使い果たしており、ひと稼ぎしたい気持ちがありました。
 またもや帰国をのばし、交易の航海に出ます。目的地につく前、島の西端のネグリル湾で投錨したとき、停泊中の私掠船団と出会います。かれらは、遠征を計画中でした。

 私掠船のグループに誘われて、ダンピアはバッカニアになります。
 あちらこちらで、船を拿捕したり、嵐に見舞われたり、略奪したり、交易したり、船員の反乱に巻きこまれたり、捕虜をとったり、置き去りにされたりしました。帰国したのは、1691年。39歳になってました。
 まったく言及のなかった妻は、どうしてたんでしょうねぇ。

 本書では、1679年〜1691年に立ち寄った土地でのあれこれが綴られてます。どういうものを主食にしているとか、特有の植物とか、調理法とか。食品以外のことも、こまごまと書かれてます。
 上巻では、イギリスを出発してバッカニアになり、西インディーズを航行します。だいたい中米のあたりです。
 下巻ではグアム諸島からはじまり、東インディーズをうろつきます。中国も出てきます。そして、紆余曲折を経てイギリスへと帰ってきて終わります。

 聞き慣れない〈東インディーズ〉がどこなのか、分からず調べました。
 大航海時代(1415年〜1648年)の歴史物語で使用される用語で〈イーストインディーズ〉というものがあります。
 東半球、特にインド洋とその周辺で発見された島々と海岸地帯。マレーシア、インドネシア諸島、フィリピン諸島。
 そのあたりのようです。
 もちろん、ヨーロッパから見て東側、という意味です。

 東インディーズの原住民に対しても〈インディアン〉と呼んでいるのが印象的でした。(西インディーズの原住民も、同様に呼んでます)
 主な舞台が東インディーズである下巻の方が、とっつきやすく、読みやすいです。中央アメリカより東南アジアの方が身近、という主観的な問題かもしれません。
 上巻で挫折しそうになっても、下巻も読んでみてほしいと思います。バッカニアと呼ばれた人の日常を垣間見られます。

 なお、イギリスに帰国後のダンピアは、豊富な経験を買われて英海軍艦船の指揮を委ねられたりしてます。ただ、うまくいかず、私掠船でキャプテンとなるものの、そっちもだめ。観察眼はあるものの、人を動かす適性はなかったようです。

 実は、ダンピアはロビンソン・クルーソーと関わりがあります。

 デフォー『ロビンソン・クルーソー』は1719年出版。アレグザンダー・セルカークという船員をロビンソン・クルーソーのモデルとした、とされてます。
 セルカークは私掠船に乗っていて、1709年に、フアン・フェルナンデス諸島中の無人島に置き去りにされました。そのとき、ダンピアもいました。
 ちなみに、4年4ヶ月後に救出してます。そのときも、ダンピアはいました。

 こんなところでつながっているのですね。

 ところで、漫画化されているらしいです。
 読んでいないので、どういう内容になっているのか分かりかねますが、ご紹介だけ。

トマトスープ
『ダンピアのおいしい冒険』イースト・プレス
(Kindle版もあり)

 タイトルからすると、食べ物がクローズ・アップされているのでしょうか。5月に第四巻が発売されてます。


 

 
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