《トリポッド》シリーズ第一巻。
(第二巻『脱出』第三巻『潜入』第四巻『凱歌』)
ローリー・コードレイは、イギリスの少年。祖母、父、継母、義妹の5人暮らしだ。
ローリーは、親友アンディと共に参加したオリエンテーリングで、道に迷ってしまった。オリエンテーリングでは、他人の助力は御法度。2人はこっそり農場の納屋に潜りこみ、一夜を明かすことに……。
明け方、ローリーとアンディは、とんでもない光景を目の当たりにする。20メートル以上はあろうかという三本足の巨大機械が、地響きと共にやってきたのだ。
破壊される農場の母屋。母屋から逃げだした男は捕らえられ、機械へと連れこまれた。機械は触手でもって家具や犬を放り投げていく。響いていた女性の悲鳴は途切れ、身の危険を感じる二人。納屋が攻撃される前に、巨大機械は戦闘爆撃機によって破壊された。
マスコミはこの巨大機械をトリポッドと命名した。地球は3機のトリポッドによって襲われたが、イギリスとソ連は破壊し、アメリカのものは自爆した。
彼らはなにものなのか? その目的は?
ほどなく、テレビで「トリッピー・ショー」の放映がはじまる。ローリーはつまらないものとして片付けるが、ローリーの義妹アンジェラは熱中し、気も狂わんばかり。そして、それはアンジェラだけではなかった。老若男女を問わず、多くの人々か夢中になったのだ。
街にトリッピー・ファンたちが溢れ、そこへ、ふたたびトリポッドが現れて……。
イギリスのジュブナイル。
地球は、トリポッドや彼らの信奉者によって乗っ取られ、ローリーたち一家は逃げ惑います。子供の目線からとはいえ、淡々と書かれる侵略のようすのおそろしいこと……。
世界は、どのように崩壊していくのか?
それが本作で書かれることです。
情け容赦ない侵略者というと、H・G・ウェルズ『宇宙戦争』を連想します。特に、侵略者の機械が三本足でキラキラ輝く触手を持っているところはおんなじ。やはり意識して書かれたのでしょうか。結末は全然ちがいますが。
《トリポッド》シリーズ第二巻。
(第一巻『襲来』第三巻『潜入』第四巻『凱歌』)
地球にトリポッドが君臨して、およそ100年。
トリポッドは、三本足の巨大機械。人々はかれらを崇拝し、科学技術を忘れ、大都市を遺棄してきた。
ウィル・パーカーは、ウィンチェスターの郊外に住む少年。従兄のジャック・リーパーを慕っている。ジャックは、トリポッドの支配に疑問を抱いていた。しかし、そのジャックも14歳。戴帽式を迎える年齢となった。
戴帽式で人は、トリボッドの機内に収容され、頭にキャップをつけて出てくる。キャップは、ワイヤーでできた網だ。それが蜘蛛の巣のように頭にはりつき、死ぬまでとることはできない。
戴帽式を終えたジャックは、人が変わっていた。ジャックのトリポッドに対する態度が変わり、とまどうウィル。ジャックは大人の仲間入りを果たしたのだ。
ウィルは、ジャック以外の親友もなく、孤独に陥る。そこへ、はぐれ者のオジマンディアスがやってきた。はぐれ者は、キャップの装着に失敗した人々。数は少ないが、精神に異常をきたし、村々を旅している。
実は、オジマンディアスははぐれ者ではなかった。頭のキャップはにせもの。トリポッドに立ち向かう自由市民の一員で、ウィルのような、まだキャップを装着していない年頃の少年たちを勧誘してまわっていたのだ。
ウィルは、オジマンディアスから地図とコンパスを渡され、旅たつことを決意する。そして決行の日。準備万端整えたウィルだったが、仲の悪い従弟ヘンリー・パーカーに見つかってしまう。ウィルは、ヘンリーに連れて行ってくれと懇願され、共に村を後にするが……。
ウィルが、トリポッドの存在に疑問を抱き、さまざまな苦難を乗り越えて自由市民となるまでが本作。前作とは時代がちがうので、当然、登場人物も一新。
ウィルは、やや軽卒な、でも人間味あふれた男の子。淡い恋物語もあります。そして、恐怖の瞬間も。
《トリポッド》シリーズ第三巻。
(第一巻『襲来』第二巻『脱出』第四巻『凱歌』)
地球にトリポッドが君臨して、およそ100年。
トリポッドは、三本足の巨大機械。人々はかれらを崇拝し、科学技術を忘れ、大都市を遺棄してきた。そして、トリポッドの支配に屈することのない自由市民たちもいた。
ウィル・パーカーは、困難を乗り越えて自由市民となった少年。今は、自由市民たちの砦〈白い山脈〉で訓練を受けているところだ。少年たちの訓練は、指導者ユリウスの立案だった。
ドイツで開かれるスポーツ大会に優勝すると、トリポッドたちの都市へと奉仕のために送られる。それを利用して、都市に侵入しようというのだ。トリポッドを倒すには、なんとしても情報が必要。ウィルたち候補生たちは訓練に励む。優勝するために。しかし、トリポッドの都市につれていかれた若者で、帰ってきたものはいない。
ウィルと、親友のジャン=ポール・ドゥリエ(ビーンポール)、そして無口なフリッツ・イーガー、三人は選手として選ばれ、ドイツへと旅たつ。会場へは川を下っていくが、ウィルは持ち前の軽率な行動から、船長の怒りをかってしまった。そのために、寄港地に置き去りにされてしまう。
2人はスポーツ大会に間に合うのか?
タイトルからすると、都市への“潜入”がメインとなるのですが、スポーツ大会に行くまでもすんなりとはいかない……。“潜入”を果たした後も、順調とは言いがたい……。ジュブナイルですが、視点が少年ウィルのもの、というだけで、もう深いです。
《トリポッド》シリーズ最終巻。
(第一巻『襲来』第二巻『脱出』第三巻『潜入』)
地球にトリポッドが君臨して、およそ100年。
トリポッドは、三本足の巨大機械。人々はかれらを崇拝し、科学技術を忘れ、大都市を遺棄してきた。トリポッドの支配を逃れた自由市民たちは、敵のことを知るために、トリポッドの都市に潜入調査を行う。そして重要な情報がもたらされた。
人類に残された時間は4年。
4年後には、トリポッドの主人たちの母星から、新たな船が到着する。かれらは、地球を母星のような環境に作り替える腹づもりなのだ。そうなれば、動植物の絶滅は避けられない。
自由市民の指導者ユリウスは、もっと仲間を増やす計画を推し進める。また、敵を壊滅させるための研究も必要だった。自由市民たちはユリウスの指導に従って、方々に散っていくことに。
ウィル・パーカーは、トリポッドたちの都市に潜入し生還した少年。このたびウィルは、商人に扮して勧誘の旅をすることに……。しかし、ウィルの軽率で短気な性格を悲観したユリウスは、旅立ちを遅らせ、さらに同行者をつけることを決める。
反発するウィルだったが……。
ついにシリーズ完結。完結とはいえ、たんなるめでたし、めでたしで終わらないところが、イギリスというお国柄か。シリーズを通じて、きびしい現実に直面させられる内容でした。だからこそ、伝わるものがあるんでしょうね。
名作。
惑星イマキュラータに人類が植民してから7000年。その長きにわたって人々を支配してきたのが、コルフ国代々のヘプタルク王だった。
あるとき、世界中の賢者たちが呼び声を聞いた。それは、異種民族ゲブリングの都市クラニングへと誘うもの。賢者たちがことごとく消え失せると、国は立ち行かなくなり、七つに分裂してしまった。そして、ヘプタルク王朝も倒れた。
それからおよそ50年。
ペイシェンスは、ピース卿の娘。幼少のころより、外交官としての訓練、暗殺者としての鍛錬を積まされてきた。テストは日常茶飯事。贅沢は許されず、13歳にして、教育係エンジェルから一人前と認められる。
ある日ペイシェンスは、コルフ国オルフに呼び出された。
オルフの娘ライラが、縁組みをすることになった。お相手は、タッサーリの王子プレケプトール。ペイシェンスは通訳として選ばれたのだ。それがテストだと見抜くペイシェンス。自分が王に忠誠を誓っているか、オルフに試されているのだ。
タッサーリ人たちは、第七の七の七代目の娘が、救い主(クリストス)の母になると信じている。
実は、ペイシェンスの祖父はヘプタルク王。ピース卿はコルフ国王オルフに忠誠を誓っているが、オルフは半信半疑でいる。ピース卿の信条は、真のヘプタルク王はつねに全世界の利益のために行動すべし。そのために、オルフを王として奉っているのだが……。
ペイシェンスは密かに武装し、ライラとプレケプトール王子との会見の場に、通訳として同席する。間者の耳を意識して。そんなペイシェンスにプレケプトール王子は、ヘプタルク王の娘として、いずれは神を産む予言の娘として呼びかけてしまう。
ペイシェンスにとって、自身が正当なヘプタルク王の娘であるなどと認めては、生きることをも許されない。しかし、今はただの通訳。王子を殺して口を封じることもできない。そこでペイシェンスは、隠し持った暗殺用ループで自分の首を絞め、自殺をよそおう。
オルフのテストになんとか合格したペイシェンス。外交官、そして刺客として選ばれたのだ。しかし、高齢だったピース卿が死に至ると、ペイシェンスの元に刺客が送り込まれてくる。
ペイシェンスは首都を脱出し、クラニングへと向かうことを決意した。人類の敵と対決するために。
徐々に見えてくる世界と、少しずつ明かされる謎。複雑ですが、なんとかついていくこができました。それにしても、ペイシェンスの精神年齢の高さといったら……。
人類が火と石器を使い始めていたころ、男と女は明確に区分されていた。男は成人すると狩人となり、女たちを識別することもなく隷属させる。女たちは集団で暮らし、男たちの狩ってくる獣や魚をとって食べ、子供を育てる。そんな中、ランだけば、狩人となることもなく、一族の例外としての地位を固めていた。
ランは、槍作り。狩人たちのために武器をつくることで部族に貢献していた。賢さの点でも一目を置かれており、さまざまなことを考えながら一日をすごしている。
ある日ランは、男たちのリーダー格であるハープスに相談をもちかけられた。実は、部族にはもう一人、狩りをしない男がいる。それが、フォルウ。なんの役にもたたない彼を、狩人たちは持て余していた。
ランは、自身の特殊な立場を守るためにも、フォルウを始末することに賛同する。そして、女たちの耳に入れば噂はたちまち広がり、フォルウは隠れてしまうだろうと忠告する。はたして、フォルウはどこかに姿を消してしまっていた。
ジャングルの夜はおそろしいところ。ランもハープスも、フォルウの命は獣たちがどうにかしたものと考えた。しかし、数日後にフォルウが現れる。
フォルウは、一族のものたちに“森の力”についてはなし、奇蹟をおこすことで、彼らを震撼させる。狩人たちはフォルウをどのように扱えばいいのか分からない。ふたたびランに助言を求めるが……。
内容紹介に“現代の聖書”とあるとおり、原始時代に芽生えた宗教が中心。とはいえ、既存宗教を上書きしたような感じで、ちょっと物足りない。
まず言葉ありき。フォルウがなんの説明もなく使う単語を一族のものたちは理解しようとするのですが、読んでいて、どうもしっくりこない。順序が逆じゃないかと思って。
そんなこんなで、堪能することはできませんでした。
2005年07月24日
コニー・ウィリス(大森 望/訳)
『ドゥームズデイ・ブック』上下巻・ハヤカワ文庫SF
《オックスフォード大学史学部》シリーズ
オックスフォード大学のジェイムズ・ダンワージーは、ベイリアル・カレッジの教授。20世紀専門の歴史家で、この40年、中世の研究からは遠ざかっている。
そんなダンワージーに、非公式な指導教授として白羽の矢をたてたのが、ブレイズノーズ・カレッジ中世史科の学生キヴリン・エングルだった。ダンワージーは、ブレイズノーズ・カレッジのスタッフに反感を抱いており、キヴリンに手を貸すことに同意する。
キヴリンの望みは、実際に中世におもむくこと。すでにタイムトラベル技術は確立していたが、中世は、十段階の危険度レベルで10。黒死病、コレラ、戦争、その他もろもろがつまっている世紀だ。ダンワージーにも実地研究は反対されるが、実現する日を夢見て準備に怠りない。
ギルクリストは、出世欲の旺盛なブレイズノーズ・カレッジの中世史科教授。史学部の学部長ベイジンゲームがクリスマス休暇で不在になると、学部長代理としてやりたい放題。危険度レベルの見直しを行い、中世史科に、タイムトラベルを承知させてしまう。そしてキヴリンを送りこむ手はずを整えてしまった。
ダンワージーは、ギルクリストに反発する。ギルクリストは、ベイジンゲームが不在の間にことを運ぼうと、おざなりな事前準備しかしていなかったのだ。しかも、クリスマス休暇で技術者のほとんどは不在。ダンワージーはギルクリストを説得し、信頼を寄せる技術者バートリを送りこむことには成功する。しかし、できたのはそこまでだった。
キヴリンは、送り出された。
目指すは、1320年。
技術者バートリは、キヴリンがきちんと到着したか、座標の確認を行う。そして、「なにかがおかしい」の言葉を残して病に倒れてしまった。バートリの病が伝染性のある危険な疾病であることが確認され、バートリは隔離。一帯も封鎖される。
ダンワージーは、キヴリンがきちんとついたかどうか心配で仕方ない。確認しようにも、バートリとは会話できず、別の技術者も不在。連絡はとれても、伝染病に尻込みされてしまう始末。
バートリが口にした「なにかがおかしい」はいったいどういう意味なのか?
バートリの感染源は?
一方、14世紀に出現したキヴリンは、やはり病に倒れていた。幸い、追いはぎにも遭わず、現地人に助けられる。しかし、運ばれる間に意識を失ったために、到着地点が分からなくなってしまった。会話もうまくいかず、八方ふさがり。
キヴリンは帰還できるのか?
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を受賞した名作。
登場するタイムトラベル技術はやや眉唾ものですが、21世紀と14世紀双方で発生する危機がからまりあって、長さを感じさせない傑作でした。他の結末もありえる書き方だったのもよかった〜。
否定的な意見も耳にしますが、気に入りました。
アンジェロ・ディ・ネグリは“天使のアンジー”の異名を持つ、マフィアの暗殺者。マンハッタンで狙撃され、死にいたった。死体は事前に手配してあった通り、冷凍保存され、やがて子孫たちによって復活する。
子孫たちは、合法的にコーサ株式会社を運営していた。しかし、どうしても殺さねばならない敵がおり、アンジーは“仕事”を持ちかけられる。
惑星アルヴォのハーバート・スタイラー。彼は、コーサ株式会社が外世界に進出するのをはばんでいるのだ。スタイラーは、地球では非合法な実験的神経中枢胆略措置を施され、コンピュータと一体化した存在。アンジーは最新の武器を得て、暗殺に向かう。
アルヴォについたアンジーに、通信機器を通じてスタイラーが語りかけてきた。アンジーは無視を決めこむ。スタイラーは、地球で戦争があり、人類の大半は死滅したと告げる。わずかな生存者たちは《ハウス》へと避難。もはやアンジーの行為に意味はない。
アンジーは、スタイラーの言葉を聞きながらも“仕事”を果たした。しかし、スタイラーが語った通り、もはや組織は存在しない。アンジーは、スタイラーの遺した装置を用い、生き残った人類を論理進化させようと考える。
アンジーは《ウイング・ヌル》でクローンを制作し、分身たちに、こっそりと人類社会を操作し保護させようとする。アンジー自身は、装置の所定の位置にピン1を差込み、ひとまず表舞台から姿を消した。ふたたびピンが抜かれるその日まで。
その後、ピンは7本まで増えていった。
アンジーのクローンから構成される〈一族〉だったが、彼らの分身が一人ずつ殺されていく事件が起こる。
いったい誰が、なんのために?
新たに結節点(ネクサス)となったポール・ケイラブは、《ウイング・ヌル》へと到達し、謎の暗殺者に対峙するため、ピンを抜いていくが……。
舞台背景が語られないので理解に手間取りましたが、分かってしまえば、あとは楽しむだけ。けっこうスムーズに読み進めることができました。そこまで到達するのにかなりの時間を要しましたけどね。過剰に書かれるよりは、謎を秘めた社会の方がおもしろいです。
イスラム教が世界を席巻している時代。人類は宇宙に進出し、アルファ・ケンタウリやガンマ・ヴィルギニスを手に入れていた。
アブドル・ハミード=ジョーンズは、火星首長国のクローニング技師。王立厩舎のクローンマスターであるハッジャージュ卿にかわいがられているが、所詮は、アングロ=アラブ人。生粋のアラブ人ほどの昇進は望み薄。ハッジャージュ卿の娘ララ姫に恋いこがれているが、相手はハレムの中。こっそり様子をうかがうことしかできない。
ある日首長は、自身の打首を発表する。日没から3日間の祭日が布告され、ハミード=ジョーンズも帰宅させられてしまった。
この時代、首から下を新しい身体と交換する技術が確立されていたが、首長は30年前に打首したばかり。あと20年はもつはずなのに、なぜこの時期に突然?
汎イスラム・サミットを来年にひかえ、ずっと空位であった教主の座を、首長は狙っていた。最大のライバルは、アルファ・ケンタウリの帝王(スルタン)。首長は、新しい身体でメッカに巡礼し、優位に立つ腹づもりなのでは、と人々は憶測した。
ハミード=ジョーンズは、首長の打首式に、証人として列席する栄誉を賜る。呼ばれた証人たちは、新しい身体を得た首長が、まちがいなく首長であると証明するのだ。クローンマスターにつれられ、王宮へと入るハミード=ジョーンズ。手術はつつがなくはじまるが、首長の首が切られたとき、証人たちに混じっていたテロリストたちが一斉蜂起。会場は大混乱に陥った。
反抗に及んだのは、ケンタウリ人たちか、前王朝の復活を望む王党派か、あるいは、切支丹聖戦団、イスラエル解放組織、アサシン教団、さまざまな組織がとりざたされる中、クローンマスターが逮捕される。代わって昇進したハミード=ジョーンズだったが、大政大臣ルビンシュタインと宦官長官兼宮廷長官イスマイールの対立に巻き込まれてしまう。
アラブ世界を主題にした作品。絢爛たる装飾文句であふれているのかと思いきや、ときどき、忘れたころにでてくる程度。ハミード=ジョーンズには、もう少し目上を敬ってほしかったなぁ。
モフィットの作品は前半がつまらないことが多いのですが、今作ではそれに付け加え、完結すらしてません。続編『星々の教主』とセットで語られるべき一冊。
『星々の聖典』続編。
アラブ人たちは、オイル・マネーを背景に宇宙に進出し、イスラム教が人類世界を席巻するにいたった。
アブドル・ハミード=ジョーンズは、火星首長国大政大臣ルビンシュタインの部下。大出世を果たしたものの、ルビンシュタインが失脚すると懸賞金をかけられ、アルファ・ケンタウリへと亡命した。
アルファ・ケンタウリへは、主観時間で2年、実時間で5年の歳月がかかる。道中、アサシン教徒の暗殺者との対決をなんとかやり過ごし、無事にアルファ・ケンタウリに到着したハミード=ジョーンズ。帝王(スルタン)に会見し、火星首長国の王宮内についての情報をもたらす。見返りに仕事を得るが、クローニング技師としての腕前を発揮する場ではなかった。
やがてハミード=ジョーンズは、切支丹聖戦団の接触を受ける。火星の首長の首打式で蜂起したのは、彼らだったのだ。そしてハミード=ジョーンズは、スルタンが火星を破壊する計画をもっていると教えられる。亡命してきたものの、火星には、愛するララ姫がいる。ハミード=ジョーンズは、スルタンの野望を打ち砕くべく、行動を起こすが……。
前作『星々の聖典』を読んでないと理解できないだろう作品。スケールは広がり、ハミード=ジョーンズの“冒険”にハラハラ・ドキドキさせられるものの、どうも物足りない。たぶん、原因は、ハミード=ジョーンズが愛してやまない(くせに、ときどき忘れられてるかに思える)ララ姫。
ハミード=ジョーンズは、ララ姫のために無謀な行動を起こすけれど、肝心のララ姫が魅力的とは言いがたい。慎みはないし、まるで娼婦のよう。妖艶な美女ならそれでもいいでしょうが、ララ姫はそういうタイプではありません。
ストーリー上必要だから、で動かされているような感じで、醒めてしまいました。