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2005年の記録
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このページの本たち
ソーラー・フェニックス』リチャード・S・マッケンロー
ガラパゴスの方舟』カート・ヴォネガット
わが愛しき娘たちよ』コニー・ウィリス
裏切りの日日』逢坂 剛
百舌の叫ぶ夜』逢坂 剛
 
幻の翼』逢坂 剛
砕かれた鍵』逢坂 剛
よみがえる百舌』逢坂 剛
ノスリの巣』逢坂 剛
聖なる予言』ジェームズ・レッドフィールド

 
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2005年08月15日
リチャード・S・マッケンロー(斎藤伯好/訳)
『ソーラー・フェニックス』ハヤカワ文庫SF

 モーゼス・キャラハンは、宇宙貨物船〈ワイルド・グース〉の船長。船に乗っているときは生き生きとしているが、陸に降りると、意気消沈。大手運送会社の進出で仕事が減り、ツケに悩まされている。
 ミツコ・タムラは、モーゼスの元で働く機関士。モーゼスにも秘密にしているが、実はテレパス。勝手に心の中に侵入してくる他人の心を恐れている。
 船は惑星ハイブリージルに降り立ち、モーゼスは一人酒場で飲んでいた。じり貧状態に変わりはない。そんなモーゼスに、運送保管会社社長のジャクポウスキーが接近してくる。持ちかけられたのが、あやしげなチャーター契約だった。ある貨物を三日以内に送り出す、急ぎの仕事だ。目的地は惑星アヴァロン。
 背に腹はかえられないモーゼスは、積荷の正体を知らないまま、仕事を引き受ける。そして、欠員となっていた操縦士を雇うべく、船員会館へ……。
 唯一求職中の操縦士が、ディーコン・ハローハン。かつて連邦軍特殊部隊に所属していた男だった。ハローハンは軍隊で身につけた技能を生かし、積荷の正体をさぐりだす。それは、ベータ・トリガーだった。ベータ・トリガーは、あらゆる物質を爆弾に変えてしまう、究極の兵器。連邦軍の厳重な監視下にあるはずなのだが……。
 一方、 ハローハンに引き合わせられたミツコは、その心の声が聞こえないことに動揺していた。なぜそのようなことが起こるのか? ハローハンの正体とは?

 かる〜い読み物。話の筋も、荷物を積んで惑星アヴァロンにむかうだけ。出発前にジャクポウスキーが殺されたり、予定外の乗客がやってきたり、ミツコが敵の超能力者とやりあったり、ハローハンの過去があったり、といろいろあるものの、いたってシンプルで分かりやすい構成。
 挿絵がイメージと全然ちがうので、やっぱり挿絵の入ってる本は苦手だなぁ、と認識を新たにしました。


 
 
 
 
2005年08月17日
カート・ヴォネガット(浅倉久志/訳)
『ガラパゴスの方舟』ハヤカワ文庫SF

 1986年から流れた年月100万年。人類は進化をとげ、大きな、大きすぎる脳を捨て去っていた。そうしたことを見守ってきた“わたし”は、100万年前、豪華客船バイア・デ・ダーウィン号を造船中に事故で命を落とした、巨大脳の一人。
 1986年当時、南米エクアドルは破産状態。エクアドルに限らず、経済危機は世界的規模で進行中だった。大半の紙幣に価値がなくなり、人々は餓えに苦しんでいた。エクアドルの隣国ペルーは飢餓状態が長期間つづき、不穏な情勢となっている。
 開戦間際と思われるころ、バイア・デ・ダーウィン号は処女航海に旅立とうとしていた。大々的なキャンペーンで有名人を集めたガラパゴス諸島の観光ツアー“世紀の大自然クルーズ”だ。しかし、乗客たちは相次いでキャンセル。集合場所のホテル・エルドラドに集まったのはごく少数の人間たちだった。
 未亡人のメアリー・ヘップバーン。
 結婚詐欺師のジェイムズ・ウェイト。
 コンピュータの天才ゼンジ・ヒログチとその妻ヒサコ。
 実業家アンドルー・マッキントッシュとその娘セリーナ。
 いろんな出来事の後、生き残った人々はバイア・デ・ダーウィン号で出航する。形だけの船長だったアドルフ・フォン・クライストは船を導くことができず、ようやくたどりついたのはサンタ・ロサリア島。自分たちが、崩壊した世界の生き残りであるとは知らずに上陸し……。

 行きつ戻りつしながら書き進められるので、まどろっこしいことこの上なし。乗客たちの過去にふれ、未来を少し紹介し、語り手の思い出が語られ、本筋に戻り……。
 1つ1つはおもしろいんですけど、全体として一向に展開していきません。世界が滅びること、人類が異質な方向に進化すること、ある人物が死んでしまうこと、そういったことは初期の段階から明らかにされてます。長いこと伏せられていたのは“わたし”の正体くらい。
 なかなかたどりつかないゴールに、いらいらしてしまいました。


 
 
 
 
2005年08月19日
コニー・ウィリス
(高林慧子/大森望/小野田和子/酒井昭伸/訳)
『わが愛しき娘たちよ』ハヤカワ文庫SF

「見張り」(高林慧子/訳)
 タイムトラベルもの。研修のため、空襲下のロンドンに送られた学生バーソロミュー。セント・ポール大聖堂を訪ね、焼失させないように力をつくすが……。
 当作品は、ヒューゴー・ネビュラ両賞受賞作。『ドゥームズデイ・ブック』で主役をつとめたイヴリンとダンワージイがでてきます。とはいえ、この2つの作品はきちんとつながってないので、知っていることで混乱してしまいました。

「埋葬式」(高林慧子/訳)
 エリオットの葬式に出席したアンだったが、まるで針のむしろ。町の人たちの頭の中は分からない。アンが殺したと思っているのか、それとも? いたたまれないアンは葬儀を抜け出す。そこへ、死んだはずのエリオットがやってきて……。

「失われ、見出されしもの」(高林慧子/訳)
 世界は破滅していた。政府は組織的略奪を行っており、フィニーが身を寄せる聖ヨハネ教会が標的になるのも時間の問題。同僚のミセス・アンドヴァーは、どうやらスパイらしいのだが……。

「わが愛しき娘たちよ」(大森望/訳)
 オクテイヴィアは、信託子。両親はなく、モウルトン・カレッジの寄宿舎暮らし。新学期になり、久しぶりにボーイフレンドのブラウンに会うが、なにかを隠している様子。その秘密とは?

「花嫁の父」(小野田和子/訳)
 ねむり姫と共に目覚めた父王だったが、時代の変化についていけずに……。

「クリアリー家からの手紙」(大森望/訳)
 リンは、愛犬ステッチをお供に、郵便局へとでかけた。ミセス・タルボットの雑誌を手に入れるためだったが、そこでクリアリー家からの手紙を見つける。帰宅したリンはみんなに披露するが……。

「遠路はるばる」(小野田和子/訳)
 メグは、まだ幼い娘レイニーの面倒を見つつ、リッチ、パロウズと共に、モンタナへと向かっていた。皆既日食を見るためだ。モンタナでメグは、奇妙な科学者たちを目撃して……。 

「鏡の中のシドン」(酒井昭伸/訳)
 恒星ベイレイへ、ルビーと名付けられた新入りのピアノボード弾きがやってきた。ルビーは、人間を映しとるミラー。他人の癖や思考や技術を完璧に写し取ることができる。ただし、誰を写し取るか、選択肢はない。ルビーをベイレイへと送り込んだのは叔父。叔父と雇用主ジュエルは、かつてソルファターラにいた。当時、ある事件が起こっていて……。
 当作品は、SFだけどミステリ。ルビーは誰を写し取っているのか? ソルファターラから続く“事件”の結末は? 楽しめました。

「デイジー、日だまりの中で」(大森望/訳)
 破滅テーマSF。 

「通販クローン」(大森望/訳)
 雑誌に、クローンの通販広告が載っていた。クローンは、送料込みで12ドル95セント。“おれ”が注文すると、やがてクローンであると主張する人物がやってくるが……。

「サマリア人」(小野田和子/訳)
 ホイト師は、牧師補ナタリーの訪問を受けた。ナタリーはオランウータンのエサウを伴っていた。エサウは手話で人間と会話することができる。ナタリーが主張するには、エサウが洗礼をうけたがっているというのだが……。
 当作品は、宗教テーマ。思慮深いホイト師、思い込みのはげしいナタリー、純真なエサウ……。短い作品ですが、とても印象に残りました。

「月がとっても青いから」(酒井昭伸/訳)
 モーウェン・ケミカル社では、廃棄物である炭化水素性化合物の画期的な処分法を開発した。とはいえ、社長のモーウェンはこの技術に懐疑的。しかし、研究所が暴走し、計画は走り出してしまう。
 研究所の責任者ブラッドは、ある野心を内に秘めていた。それは社長の娘サリーを籠絡し、自身が社長となること。ブラッドのルームメイト・アルリックは、サリーをブラッドから守ろうとするが……。
 当作品は、生成言語がキーポイント。言語学者アルリックはブラッドや彼の婚約者たちが使う生成言語にうんざり。うんざりくるのが分かるくらい、ヘンテコな言葉が溢れ出てます。それがコミカルで、楽しめました。

 各短編に、作者自身による前説がついてます。
 短編集の宿命ですが、印象に残らない作品あり、楽しめた作品あり、のごった煮状態。


 
 
 
 
2005年08月20日
逢坂 剛
『裏切りの日日』
集英社文庫

 桂田渉は、警視庁公安部特務一課の刑事。捜査に独断専行をいとわないこともあり、凄腕ながら、同僚からは敬遠されている。
 浅見誠也は、桂田の新しいパートナー。捜査二課に在籍中から桂田の噂は聞き及んでおり、警戒感を持っていた。接してみれば、無愛想ではあるもののそれほどひどい人物ではない。浅見は、桂田に好意を抱き始める。
 ある日、右翼の大物・遠山源四郎に殺害予告が届いた。差出人は“東方の赤き獅子”。無差別テロで知られる極左暴力集団だ。これまでに東方の赤き獅子が予告状を送りつけてきたことはない。そのため特務一課長は、いたずらとして片付ける。しかし、遠山と癒着していた桂田が食い下がり、浅見は共に張り込むことに……。
 遠山の身辺警護が続けられる中、ある男が浅見をたずねてきた。警察庁警務局の特別監察官、津城俊輔だ。特別監察官は、警察官による不祥事や犯罪の内定調査を行う役どころ。津城は、桂田にある疑いを抱いていた。浅見は、スパイ行為を持ちかけられて反発する。その場で拒絶するものの、徐々に不信感が芽生えてきて……。
 数ヶ月がたち、遠山の警備は打ち切られた。桂田と浅見は日常業務にもどる。そんな最中、桂田と浅見が巡回中の丸東商事ビルで、人質事件が発生した。最上階に閉じこもった男は“隼”と名乗り、身代金3000万円と逃走用タクシーを要求。半蔵門署の刑事たちがかけつけ、桂田と浅見も協力する。
 ほどなく要求は満たされた。隼は人質と共にエレベーターで降りてくる。ところが一階についたとき、エレベーター内に隼の姿はなかった。
 隼はどこに消えたのか?
 同じころ、遠山源四郎は愛人のマンションで射殺されていた。人々は丸東商事ビルの人質事件に気を取られ、目撃証言はまったくない。
 東方の赤き獅子の犯行なのか?

 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第一作。
 癒着している桂田の視点も取り入れつつ、事件の真相へと迫っていきます。隼が登場するのは、中盤に入ってから。ようやく事件が起こったか〜という感じで、それまで重要な伏線が張り巡らされていたとはいえ、ちょっと待たされたような。


 
 
 
 
2005年08月24日
逢坂 剛
『百舌の叫ぶ夜』
集英社文庫

 新宿。
 路上で爆弾事件が起こり、2人の人間が死んだ。1人は、ボストンバックに爆弾を隠していた筧俊三。そしてもう1人は、通りがかりの主婦、倉木珠枝。
 倉木尚武は、警視庁公安部特務一課の警部。珠枝の夫だ。そのために捜査から外されるが、憤懣やるかたなく、独自に事件の真相を追う。
 なぜ、珠枝は死にいたったのか?
 警視庁公安部公安第三課の明星美希巡査部長は、事件現場に居合わせていた。負傷し、担当刑事から事情聴取されることに。相手は、新宿中央署捜査一課の大杉良太警部補。大杉は、美希が筧を尾行していたのではないかと、疑っていた。美希は否定するが、倉木に呼び出されて真相を語る。
 当時、美希は任務遂行中だった。ただし、尾行の対象は筧ではない。マークしていたテロリスト・新谷和彦が筧を尾行していたのだ。新谷は、パブ・リビエラの店長。リビエラは、極右団体・大日本極誠会の資金源のひとつ豊明興業に所属している。新谷は極右の殺し屋なのだ。
 一方、能登半島。
 岬で、記憶喪失に陥った男が発見されていた。やがて新聞記事になり、男の妹がたずねてくる。兄の新谷和彦ではないか、と……。
 妹と共に上司・赤井にも呼びかけられるが、新谷は記憶を取り戻すことができない。退院し帰宅することになるが、道中、新谷は2人に殺されそうになってしまう。
 赤井は、豊明興業の人間。実は、筧が死んだ後、知りすぎている新谷を始末するために岬につれだし突き落とした張本人だった。妹を名乗る女も偽物。新谷は2人を返り討ちにし、自分の正体を知るべく、東京へと向かう。
 なぜ、命を狙われているのか?
 事件の背後にうごめくものとは?

 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第二作。
 サスペンス色の強い作品。読むたびに、入り組んだ構成にたじたじになってしまいます。
 倉木の生半可じゃない執念の源は?
 殺し屋〈百舌〉の正体とは?
 プロローグの、処刑を録画したビデオの意味するものとは?
 ゆっくりじっくり読みたい一冊です。


 
 
 
 
2005年08月25日
逢坂 剛
『幻の翼』
集英社文庫

百舌の叫ぶ夜』続編。
 殺し屋〈百舌〉が暗躍した稜徳会事件から1年3ヶ月。捜査はすでに打ち切りとなっており、事件の真相は秘められたまま。事件に巻き込まれた3人の刑事、倉木尚武、明星美希、大杉良太は、それぞれに配置転換されていた……。
 日本領海で、北朝鮮の武装工作船が発見される。海上保安庁が取り締まるが、工作船は逃亡。かろうじて、銃撃戦で負傷した男の身柄は確保した。男は、息を引き取る前に“シンガイ”と二度繰り返す。
 百舌の名前は新谷(シンガイ)といった。明星美希は、この符合に興味を覚える。百舌は死んだはずだか……。
 倉木尚武は、稜徳会事件の暴露記事を書いていた。大杉良太には編集者の知人がいる。そのツテを頼りに、美希を通じて大杉に原稿を託した。雑誌に掲載されれば、一大センセーションを巻き起こすだろう。しかし、原稿は雑誌に載ることなく突き返されてしまう。証拠の欠如が理由だった。倉木は、原稿に綴じ直された形跡を見つける。コピーがとられたようだった。
 一方、稜徳会病院の出入り業者・宗田吉国は、韓国のKCIAの陰におびえていた。宗田には北朝鮮に家族がおり、秘密の活動に従事させられている。宗田は病院で、身寄りのない人間を紹介してもらい、彼らから日本国籍を買い取っていた。その後、戸籍を売った人間がどうなるのかは知らされていない。
 宗田は、尾行を警戒しながら、北から潜入したスパイの元へと向かう。男は、新谷和彦と名乗っていた。

 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第三作。
 殺し屋〈百舌〉が暗躍するとあって、前作『百舌の叫ぶ夜』とどうしても比べてしまいます。すっきりとまとまってはいますけど、その分、インパクトが欠けてしまった感じ。


 
 
 
 
2005年08月26日
逢坂 剛
『砕かれた鍵』
集英社文庫

幻の翼』続編
 青梅市の缶詰工場で、防犯特捜隊・権藤警部補が射殺された。一緒に殺されていた男の身元は不明。工場はコカインの貯蔵庫になっていたらしい。管理人に発見されたとき、権藤にはまだ息があった。
 最期の言葉は、ペガサス……。
 警察庁警務局特別監察官の倉木尚武は、権藤とコンビを組んでいた池野英明巡査部長を呼びたし、事情聴取を行う。権藤の事件は独断専行ではなく、権藤自身が犯罪に関わっていた可能性が濃厚だった。
 このころ警察は、風紀の乱れや違法行為を暴露した内部告発本に手こずっていた。下手に手出しすれば、それをたたかれること必至。倉木は、調査事務所を開業している元刑事の大杉良太に話を持ちかける。大杉は、もっとも過激なシリーズを出版している桜田書房について、調査を開始するが……。
 そのころ池野は、暴力団・桃源会に目をつけられていた。池野からコカインを買ったと語る人物がいたのだ。それこそが、ペガサス。ペガサスが買ったというコカインは、缶詰工場から盗まれたものだった。
 一方、倉木の妻で公安四課の倉木美希警部補は、金の工面に奔走していた。息子・真浩が先天性心疾患におかされており、目下入院中。共済組合から借り入れた金額だけでは充分とはいえない。そんな折、美希は総務部福祉課の笠井涼子から声をかけられる。
 真浩の治療費のため涼子から金を借りた美希。しかし、病院で爆破事件が発生し、真浩と、つきそっていた美希の母が殺されてしまった。犯人は、倉本真造・法務次官を狙ったらしいが、美希は、2人の仇を討つことをちかう。周囲が勇めるのも聞かずに独自の捜査をはじめるが……。

 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第四作。
 美希と涼子の“女同士の会話”ってやつが、どうもわざとらしく感じてしまって、すんなり読めませんでした。ペガサスの存在とか、襲撃とか、復讐とか、いろいろてんこ盛りで読み応え充分、なはずなんですけどねぇ。


 
 
 
 
2005年08月28日
逢坂 剛
『よみがえる百舌』
集英社文庫

砕かれた鍵』続編。
 かつて、大量殺人事件として世間の震撼をまきおこしつつ、真相は闇に葬り去られた稜徳会事件。暗躍した殺し屋〈百舌〉は、首筋を千枚通しでひと突きする殺害方法を好んだ。まるで、百舌の速贄のように。
 警察庁警務局特別監察官の倉木美希は、上司の津城俊輔と共に清瀬署へと向かった。ある殺人事件を確認するためだった。被害者は、球磨隆市。元・警視庁公安特務一課長だ。
 球磨は、首に千枚通しを突き立てられて殺されていた。そのポケットから発見されたものは、百舌の羽。美希は、死んだ〈百舌〉との関連を疑う。しかし、津城は偶然として片付けてしまう。
 さらに、稜徳会事件にかわった水島東七が同様の手口で殺された。美希は、調査事務所を開業している元刑事の大杉良太に調査を依頼する。このことは、津城にも報告していない。
 大杉は、水島が勤めるカジノバーへと赴いた。そこで知り合ったのが、東都ヘラルド新聞社の残間龍之輔。残間は、違法賭博の取材中だという。大杉は、カジノバーの従業員から、水島が店の裏手で殺される直前に残間のことをマークしていた証言を聞き出し、残間を疑うが……。
 球磨が殺害された日、美希は、電車内のいざこざから、青山警察署生活安全課の紋屋貴彦警部補と知り合った。以降、紋屋に急接近される美希。食事の後に案内されたカジノバーで、大杉と残間に鉢合わせしてしまう。そのうえ、津城にもカジノバーの出入りを掴まれていた。
 美希は津城に、紋屋とは会わないように釘をさされてしまうが……。

 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第五作。
 長いだけあって、いろんなことが起こります。〈百舌〉との関連を頑なまでに否定する津城。新たな〈百舌〉の次の標的を予想し、なんとか食い止めようと奔走する美希と大杉。賭場と刑事の癒着を追っている残間。美希にモーションをかけてくる紋屋。その他いろいろ。
 ちょっと不満感は残ってますけど。


 
 
 
 
2005年08月29日
逢坂 剛
『ノスリの巣』
集英社文庫

よみがえる百舌』続編。
 警察官の不祥事がつづき、警察革新評議会によって〈警察革新への提言〉がまとめられた。警察庁特別監査官の倉木美希は記者会見場で様子をさぐるが、その内容はおそまつなもの。美希は落胆する。
 大東総業の坪井が、廃車置き場で射殺される事件が発生。現場にあった古いパソコンやワープロの中に、拳銃が隠されていた形跡があった。犯人が持ち去ったらしいのだが……。
 調査事務所を営む大杉良太の元には、依頼人・小野川通代が訪れていた。通代のはなしによると、夫の裕三が浮気をしているらしい。相手は、警視庁公安部の洲走かりほ。
 実は、小野川祐三が口説いてるのは、ホステスの笹尾奈美江だった。奈美江は、殺された坪井の愛人。奈美江にその気はまったくない。また、坪井の部下だった田浦勘一も、奈美江に想いを寄せていた。
 小野川は、奈美江を自分のものにしようと、田浦を罠にかける。しかし、その罠から、田浦は小野川にある疑いを抱くようになった。田浦は、大東総業の上司・森山に相談し、小野川を廃車置き場へと誘い出す。
 そのとき大杉は、小野川を尾行していた。なにが進行しているのかは分からない。やがて、小野川と森山は銃撃戦で相撃ち、田浦が逃走する。駆けつけた大杉は、小野川の所持品の中から洲走かりほのヌード写真を発見した。
 大杉は通報しなかったものの、事件は警察の知るところとなり、現場に残された拳銃の1つが坪井を殺害したものと一致。奈美江は、小野川が坪井に“ノスリのだんな”と呼ばれていたことを証言する。
 事件の背後にうごめく陰とは?

 ※タイトルの〈ノスリ〉は、正式には漢字ですが、外字のため、本文で使用されたカタカナで代用させていただきました。
 公安シリーズ(『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』『砕かれた鍵』『よみがえる百舌』『ノスリの巣』)第六作。
 坪井殺害事件だけでなく、いろんな事件が起こります。それらが、結末に向けてつながっていのですが、どうも弱い。美女・かりほの存在が中途半端に終わってしまったようで、物足りないのでした。


 
 
 
 
2005年09月01日
ジェームズ・レッドフィールド
(山川紘矢&山川亜希子/訳)
『聖なる予言』
角川文庫

“わたし”は、6年前に別れた恋人・シャーリーンからの電話を受けた。待ち合わせのレストランで彼女のはなしに耳を傾けることに……。
 シャーリーンは仕事中ペルーで、古文書か発見されたという噂を耳にした。誰も詳しいことは知らない。政府が、その写本の隠滅をはかっているという。公式には写本は存在しないことになっているのだ。
 シャーリーンは興味をかき立てられ、ついに、写本のことを知る神父と出会った。神父は、名前を明かさない。しかし、信憑性があった。
 古文書が書かれたのは、紀元前600年。アラム語で書かれてあったという。アラム語は、旧約聖書の大部分と同じ言語。それがなぜペルーで使われたのかは、分からない。その内容は 教会の伝統的な教義に触れると、ほとんどの聖職者は写本を厳しく禁止している。シャーリーンの出会った神父は、逆の考えを持っていた。
 シャーリーンと別れた“わたし”は、ペルー行きを決意する。そして飛行機で移動中、写本のことを知るウェイン・ドブソンと知り合った。ドブソンは歴史学者。ペルーの関係官庁に公式に協力を要請した上でのペルー入りだった。
 公式訪問にもかかわらず、ドブソンはペルーでなにものかに襲われてしまう。“わたし”は逃げ出し、写本のことを知るウィルソン・ジェームズに助けられる。そして、共に行動することになるが……。

 スピリチュアル・フィクション。
 10年ほど前、話題になったときに読みました。夢中で読んでいた記憶があるのですが、こうして改めて接してみると……プロの作家でないだけに、荒さの目立つ内容でした。
 目が肥えたのか、魔法が解けたのか。
 もう読むことはあるまい……。

 
 

 
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