ソービーは、九惑星連邦の主星サーゴンにつれていかれると、奴隷市場で競りにかけられた。薄汚く、病気のようで、ガリガリ、しかも反抗的な少年に、観客は見向きもしない。貴族や商人からは相手にされず、ついに、タダ同然の値段でかたわの乞食が手を挙げた。ソービーを買い取った乞食は、バスリム。ソービーは奴隷ではあるが、バスリムの息子として迎え入れられる。
ソービーはあやふやな記憶しか持たず、夜な夜な悪夢にうなされていた。見かねたバスリムによって催眠術にかけられ、過去の探索が試みられる。分かったのは、地球連邦の自由民の生まれらしいこと。両親と引き離された際ソービーはあまりに幼く、得られる情報はほとんどなかったのだ。
ソービーは乞食として働く。しかし、健康になってしまえば乞食は成り立たない。そこで、バスリムの特殊な仕事の手伝いをすることとなった。ソービーは、バスリムがただの乞食ではないことに気がついていたが、バスリムを慕い、奴隷の身分から解放してもらった後も、バスリムと生活を共にする。
ソービーはある日、バスリムから自分が死んでしまったときの指示を受けた。ある五人の男たちのいずれかを見つけ出し、メッセージを渡すのだ。彼らは、星間宇宙船の船長。ソービーは言葉の意味も分からないまま、メッセージを丸暗記する。さらに、意味不明な情報を記憶させられるソービー。
その翌朝ソービーは、自由貿易船シス号の入港を目撃した。シス号のクラウサ船長は、もしものときにメッセージを届けるべき五人の内の一人。なにかを感じ取ったソービーは、バスリムに知らせに走る。しかし、そのときすでに家は警察隊に包囲されていた。
バスリムの正体とは?
ソービーは故郷を見いだせるのか?
無垢な少年ソービーの波瀾万丈の成長物語。いろんな環境に放り込まれ、ソービーは生きるためのさまざまなことを学び取っていきます。その“成長”は、バスリムと出会ったところからはじまるわけですけれど、ソービーの物語はその前からつづいていて、それが、最後の“冒険”につながっていく流れが圧巻。
名作。
作家の“わたし”は、戦時中に捕虜として体験したドレスデン無差別爆撃について本を書こうと決心していた。そうして書かれたのが、ビリー・ピルグリムの物語だ。
ビリー・ピルグリムは、奇妙な時間旅行者。時間をコントロールすることはできない。いろいろな時代に、それぞれにふさわしい年齢で現れては、さまざまな経験をする。あるときには子供、あるときには青年、あるときには中年として。
ビリーが最初に時間から解放されたのは、第二次世界大戦中のことだった。連隊がドイツ軍の攻撃を受け、ビリーも敗残兵として逃走する。気力をなくし、何もかも投げ出したいビリー。仲間はそれを許さない。そうこうするうちに、ドイツ軍の捕虜となってしまう。
ビリーは時間を飛ぶ。
検眼医として成功したビリーは金持ちとなっていた。トラルファマドール星人に誘拐されたのは、娘の結婚式の夜。素っ裸で動物園に入れられ、好奇の的となる。
トラルファマドール星人は、四次元的な視力を持っていた。彼らは、あらゆる瞬間を一望の元に見ることができる。われわれがロッキー山脈を眺めるのと同じように。あらゆる瞬間は、常に存在している。トラルファマドール星人にとって、死はただの“そういうものだ”。過去において、その人物は生きているのだから。
ある瞬間、ビリーは飛行機事故に遭ってしまう。ただ一人の生還者となったビリー。退院すると、新聞にトラルファマドール星人についての投書を開始する。時が熟したと判断して……。
戦争テーマの怪作。
時間がとびとびになるものの、その切り替え方はお見事。メインとなる戦時中のビリーを軸に、縦横無尽にかけめぐります。でも、ちょっと絶賛はできない。
ビリーが動物園にいる間に産まれた子供はどうなったんだろう? 物語の本筋とは関係ないんですが、わざわざ子供をつくらせたんだから暗示くらいしてほしかったなぁ。
『雪の女王』の続編。
グンダリヌは〈主導世界〉の技術貴族。三男坊だったため、一族の領地と財産を相続することはかなわない。たとえ兄弟で一番優秀であっても、法は法だ。〈主導世界警察〉に入ることで独立したグンダリヌは、現在、ナンバー・フォーに駐在していた。
ある日グンダリヌの元に、兄たちがたずねてくる。愚かな彼らはすべての資産を失っていた。帝国時代から脈々とつづいてきた千年の伝統すべてが無に帰してしまったのだ。
兄たちはグンダリヌに、一財産作るために〈世界の果て〉へと入ることを告げる。
ナンバー・フォーにある〈世界の果て〉は、何百平方キロメートルもの広大な未知の土地。そこには想像を絶する富が埋蔵されているという。その中心にある〈火の湖〉からは奇妙な電磁現象が広がっていて、あらゆる計測器を狂わせる。そして、どんな質問にも答えられるはずの〈巫女〉たちでさえ、〈世界の果て〉についての質問には答えることができなかった。
グンダリヌは一攫千金を夢見る兄たちを見放し、消息が絶たれても無視を決め込んでいたが、1年もたつと居ても立っても居られなくなる。やむなく、みずから〈世界の果て〉へと赴くが、〈世界の果て〉を仕切っているのは警察ではなく〈会社〉なのだ。グンダリヌは、そこに入るための手続きの時点で足止めをくらってしまう。
困り果てたグンダリヌをひろったのは、かつて〈会社〉で働いていたアングだった。アングは〈会社〉から中古の水陸両用ローヴァーを入手していたが、壊れて、修理できる人間を欲していたのだ。喜ぶグンダリヌだったが、アングにはもう一人のパートナーがいた。それが、犯罪者のスパドリン。グンダリヌは、警視という身分も名前も隠し、警戒するが……。
前作『雪の女王』はアンデルセンの『スノークィーン』を下敷きにしてましたが、今作は関係なし。ただし、グンダリヌは『雪の女王』での失恋をどうしようもなく引きずってます。そして、『雪の女王』で解明がなされてきた〈巫女〉は、今作でも重要な役割をになうものの、説明ははしょられてしまってます。これは『雪の女王』を読んでないとキツイ……かも。
世界設定はおもしろいものの、グンダリヌの日記というスタイルで展開するため、やや食い足りない感じ。サイド・ストーリーと思って読んでました。
ダーク・アレクスンは、アメリカの歴史学者。ロンドンに本部をかまえる“インタープラネタリー”に赴いた。新たな仕事は、このたび行われる歴史的事業を記録に残すこと。人類はついに、月へと降り立とうとしていたのだ。
プロメテウス号と名付けられた宇宙船は、オーストラリアの砂漠で建造中。宇宙飛行士たちの訓練も滞りなく行われ、ダークはさまざまな人間に会い、この歴史的快挙を記録していく。
人類は無事に月にたどりつけるのか?
アポロ11号よりも前、1947年に書かれたクラークの処女長編です。華麗なる人間ドラマも、ハラハラドキドキの紆余曲折もなく、淡々と進んでいくドキュメンタリー。ダークと一緒に、宇宙船が地球を後にするまでおっかけます。ちょっとした事件はありますが、それだけ。
正直、物足りなかったのですけど、興味深い1冊でもありました。
80億の人間がひしめく地球は、ついに壊滅した。この歴史的大事件からなんとか逃れ得た人々は、すでに就航していた8隻の〈船〉を用いて新たな植民地を建設していった。
人類が故郷を失ってから、164年。
人々は〈船〉と植民惑星とに分散し、生き長らえていた。両者の関係は決して良好ではない。〈船〉は知識を切り売りし、植民惑星から物資を調達する。〈船〉の住民たちは彼らを〈泥食らい〉と蔑み、惑星の人々は〈欲張り豚〉と嘲り返している。
〈船〉には、人口爆発の教訓から〈試験〉が設けられていた。14歳になった子供はすべて、単独で植民惑星に30日間放置される。子供たちは、能力や運をふるいにかけられるのだ。生き残れば大人として迎え入れられるが、戻らない子供も少なくない。
マイア・ハヴァローは、〈船〉の評議会・議長を父に持つ少女。12歳になったマイアは、〈試験〉のことを考える歳になっていた。そして、その後の将来のことも。
腕白に日々を送っていたマイアだったが、父の引越宣言で、世界は一変してしまう。父子は第五層にあるジオ区に移り住むことになったのだ。それまで第四層に住んでいたマイアには、第五層の住民たちに対する根深い偏見がある。そしてそれは、第五層の人々にとっても同じこと。
ジオ区に引っ越したマイアは、馴染むことができずに孤立してしまうが……。
ネビュラ賞受賞作。
少女の成長物語。偏見に凝り固まったマイアが、それを克服していく……というか、うまく折り合いをつけていく話。〈試験〉に向けた訓練とか、新しいクラスメートとの葛藤とか、いろいろあります。ちょっと解せないところもありましたが、楽しめました。
強者オルムは、ヴァイキング。生まれ故郷を出てイングランドに到達すると、略奪を欲しいままにしてきた。
やがて“わが家”を求めたオルムは、肥沃な土地を見つけた。そこにはすでに地主がおり、買収交渉を行うが、失敗。オルムは、領主の屋敷を焼き討ちすることで土地を手に入れる。
次にオルムは、妻を求めた。選んだのは、イングランドきっての美女と名高いイールフリーダ。オルムは、キリスト教に改宗することを約束し、イールフリーダを承諾させる。
オルムにはじめての子供が産まれるころ、エルフ族の大守イムリックは、人間の領土へと姿を現した。トロール族との戦いがようやく一段落し、久しぶりの訪問だった。イムリックは情報を求め、森へ分け入る。そうして見つけたのが、魔女の住まい。イムリックは魔女に、オルムの息子のことを教えられる。
オルムが改宗していたために、産まれたばかりの赤子にはアサ神族の加護がない。しかも、まだ洗礼もされていなかった。取り替え子の好機と見たイムリックは、捕虜としているトロール族の女に、代わりの赤子を産み落とさせる。
人間族の子供を育てることは、老齢を知らないエルフ族にとって、驚嘆にあたいすること。さらに、人間は鉄や聖なるものに悩まされない。力も強く、魔術までつかいこなせるのだ。
オルムの子供を連れ帰ったイムリックは、スカフロクと名付けた。命名披露宴が行われ、そこへアサ神族の使者が現れる。使者が贈り物として持参したのが、折れた長剣。これこそ、呪いのこめられた魔剣テュルフィング。イムリックは魔剣を地下牢の壁に塗り込めてしまう。
この取り替え子の仕掛人となった魔女は、かつてオルムによって一族を滅ぼされた先代地主の母だった。オルムの偽りの長男ヴァルガルドは、トロールの血ゆえ無法者に育つ。しかし、魔女にとっては復讐が充分ではない。オルムの実子は、エルフ族の元で不自由なく暮らしているのだ。魔女は、ヴァルガルドが十二分に成長したと見て取ると出生の秘密を明かし、トロールたちの国へと送り出す。
一方、屈強の戦士として育て上げられたスカフロクは、トロールたちの国へと船出するところ。休戦は終わり、ふたたび戦いの時となったのだ。
スカフロクは自信を漲らせていたが……。
北欧神話が下敷きになった冒険譚。
エルフとトロールの大戦争と、スカフロクがアサ神族から贈られた魔剣チュルフィングと、実の妹との恋愛と……。基本をきっちり押さえた、正真正銘のヒロイック・ファンタジー。
こんなエピソードもあるけれど本筋とは関係ないから割愛しますよ〜って部分も含めて、楽しめました。
魔法都市トゥライで探偵事務所をかまえるスラクサスは、しがない中年の魔術探偵。トゥライでいちばん安上がりな探偵と自認している。
スラクサスはかつて、宮廷保安隊上級捜査官だった。酒のために辞めてだいぶたつが、その宮廷では現在、消えた“エルフの赤布”の捜索に大わらわ。自分に仕事をまわしてくれれば……と思うものの、その気配は微塵もない。
そんなスラクサスの元を訪れたのが、デュ=アカイ王女。依頼は、隣国ニオジの外交官アティランに贈った宝石箱を取り戻すこと。中には、王女の恋文が入っているらしい。
スラクサスは、まんまと宝石箱を手に入れるが、好奇心から、箱をあけて手紙を読んでしまう。しかし、それは恋文ではなく、ドラゴンを眠らせる呪文だった。しかも、アティランは死体となって発見され、スラクサスに殺人嫌疑がかけられる。
デュ=アカイ王女のおかげで釈放されたスラクサスだったが、暗殺者ギルド第三位ハナマが夜半にやってきて、事態は急変。ハマナは“エルフの赤布”をスラクサスが持っていると思っていた。さらに、最初に“エルフの赤布”を強奪した友愛会にまで襲われるスラクサス。
各々の目的は?
“エルフの赤布”はどこにあるのか?
スラクサスを助けてくれるのが、ときどき助手を務める美女マクリ。オルク族の奴隷剣闘士だった経歴があって、人間とエルフとオルクの混血児。社会から差別を受けていて、学問と、淑女同盟の実現のために奔走している。
マクリの存在が、やや一本調子な物語のスパイスとなってます。それでも、ちょっと絶賛しにくい。よく錬られてるとは思うんですけど……。
舞台は、カリフォルニアの田舎町パインコーヴ。
ブリーズはヤクの売人。2万ドルの取引を翌日に控え、街へとくりだした。しかし、うまくいかない。アッシーとして使っていたビリー・ウィンスンとも別れてしまい、パインコーヴへの40マイルを歩いて帰るハメに……。しかし、1マイル目でブリーズは何者かに遭遇し、食べられてしまった。
翌日パインコーヴにやってきたのは、トラヴィス・オハーン。連れは悪魔のキャッチ。トラヴィスはキャッチの主人となったために、若者の姿のまま70年もの旅をつづけてきた。それもパインコーヴで終わる見込み。トラヴィスはある人物を尋ねてきたのだが……。
一方、ブリーズのトレーラー・ハウスには、ヤクの取引のためにアルフォンソ・リヴェーラが訪れていた。ブリーズは悪魔に食べられてしまい、当然、不在。ヤクのことなどなにも知らないロバート・マスタソンがいるばかり。実はリヴェーラは、刑事。おとり捜査中だったのだ。あせったリヴェーラは、ロバートに罪をきせてしょっぴこうとするが……。
そのころ、雑貨屋を営むオーガスタス・ブラインの元には、魔人の王を名乗る小男ジャン・ヘン・ジャンがやってきていた。オーガスタスは、ジャン・ヘン・ジャンにソロモン大王と悪魔キャッチの話を打ち明けられ、協力を求められる。キャッチの姿が見えるのは、その主人のみ。まずは主人を捕まえよ、というのだが……。
多彩な登場人物がでてきて、それぞれが繋がっていく快作。まとまっていくまでは読むのが大変なものの、まとまりだせば一気呵成。とはいえ、まとまってなお大人数。紹介する人間の多さゆえ、どうしても各人の物語は細切れになってしまいます。
読んでる最中より、読み終わった後の方がおもしろく感じるのが不思議です。
「禍つ星」
千年戦争後、植民星は孤立し高度なテクノロジーは失われていった。そして1000年。
ハヴィランド・タフは、独立系商人。人と触れ合うのを嫌い二匹の猫だけを相手に、宇宙船〈良い品をお安くお分けする豊穣の角〉号で商売にはげんでいた。このたびタフがひきうけた仕事は、惑星フロ・ブラナへ、セリス・ワーンら一行を連れて行くこと。
惑星フロ・ブラナは、非人類文明である旧フランガ帝国の隷属惑星。その没落ぶりは尋常でなく、住民の間では〈禍つ星〉の伝説が語り継がれていた。〈禍つ星〉が大きくなると、疫病の季節がやってくる……。それは伝説ではなく、三世代ごとに巡ってくる現実だった。
〈禍つ星〉の正体は、オールドアースが対フランガ戦争に送り出した宇宙船。連邦帝国環境エンジニアリング兵団が生物戦争用に開発した胚種船だったのだ。その全長は30キロにもおよぶ。
セリス・ワーンらは、その秘密をかぎあてたのだが……。
「パンと魚」
1000年前の超弩級胚種船〈方舟〉号を手に入れた、ハヴィランド・タフ。船の能力は高いものの、いかんせん古さはいなめない。
修理と改装のためにタフが選んだのは、惑星ス=ウスラム。技術力の高さ、取引の誠実さ高潔さを評価して選んだのだが、ス=ウスラムは人口問題に多いに悩まされており、臨時議会は〈方舟〉号を手に入れることを決めた。たとえ不法行為になったとしても。この決定に、〈宇宙港〉の責任者トリー・ミューンは猛反発。なんとか合法的に〈方舟〉号を手に入れようとするが……。
「守護者」
胚種船〈方舟〉号を操るハヴィランド・タフは、惑星ナモールが大変なことになっていると聞き及び、〈方舟〉号でかけつけた。ナモールは、入植して100年の若い世界。本来、海の幸に恵まれた豊かな惑星なのだが、獰猛な海獣が現れてからは生活は一変。空にも、陸にも怪物が出現するようになり、人々は怯えて暮らしている。
タフは、この問題を解決すべく、ナモールと契約を結ぶが……。
一作目のセリス・ワーンのバカ女っぷりがたまらなく不愉快なだけに、二作目のトリー・ミューンがとてもすがすがしく感じます。宣伝文句によると、タフは“宇宙一あこぎな商人”らしいですが、まだその面影はありません。人間よりも猫を大事にしてはいますがね。
『タフの方舟・1 禍つ星』の続編。
オールドアースの胚種船をわがものとし、一介の商人から環境エンジニアへの転身をはかったハヴィランド・タフ。さまざまな問題をかかえる惑星で、サービスを提供するが……。
「タフ再臨」
かつて〈方舟〉号の修理と改装のために負った借金を返すため、惑星ス=ウスラムにやってきたタフ。ス=ウスラムが胚種船を狙っていることは承知の上。
変装して入国すると、『タフとミューン』というドラマが大ヒットしていた。タフは〈宇宙港〉の責任者トリー・ミューンと会見し、人口問題が深刻化していることを知り……。
「魔獣売ります」
惑星ライロニカの伝統は、十二高家による闘戯。それぞれの地域特有の獣同士を戦わせるのだ。かつて繰り広げられた戦争に代わるものとして発展し、今では闘戯で家格の優劣を競い合い、重要な観光源ともなっている。
タフは、ヘロルド・ノルンから取引を持ちかけられた。ノルン家は、十二高家の一つ。ここのところ、闘戯で最低・最弱に甘んじる日々かつづいている。そこで、ノルン家にふさわしい魔獣を購入したいというのだが……。
「わが名はモーセ」
ハヴィランド・タフはレストランで食事中、暴漢に襲われた。愛猫ダックスのおかげで難を逃れるものの、襲われる覚えがまったくない。暴漢は、ジャイミ・クリーン。惑星チャリティの元役人だった。
チャリティは、神聖愛他教徒たちの植民地。しかし、第二入植者たちはその教えを守ろうとしない。そこへモーセと名乗る男が現れ、〈救済〉活動をはじめた。その非道なやり口に、人々はいきり立つ。胚種船を持つタフによからぬ噂があったこともあり、チャリティでは、タフとモーセが組んでいると信じられてしまったのだった。
タフは、チャリティへと向かうが……。
「天の果実」
かつて〈方舟〉号の修理と改装のために負った借金を完済するため、惑星ス=ウスラムにやってきたタフ。タフはこれまで、ス=ウスラムの人口問題の解決策を2度に渡って与えてきた。しかし、問題は解決されてはいなかったのだ。
切羽詰まったス=ウスラムは、今度こそタフの〈方舟〉号を奪おうと画策するが……。
このシリーズで最初に書かれたのが、本作収録の「魔獣売ります」。宣伝文句の“宇宙一あこぎな商人”がそれらしく聞こえる作品。宇宙一かどうかは怪しいですがね。「魔獣売ります」は、マーティン版『竜を駆る種族』(ジャック・ヴァンス/著)とも呼ばれているそうで、たしかにそんな雰囲気をまとってました。
タフが駆使している〈方舟〉号が、とにかく強力。すごすぎて、もはや敵なし。当然、冒険もなし。代わりに、タフの、バカ丁寧な口調と当人の目前で猫に嫌みを吐露する慇懃無礼ぶりを楽しむしかありません。
それが悪いわけではありませんが、やや物足りない……。