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2005年の記録
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このページの本たち
ハイブリッド −新種−』ロバート・J・ソウヤー
さようなら、ロビンソン・クルーソー』海外SF傑作選
非Aの世界』A・E・ヴァン・ヴォークト
非Aの傀儡』A・E・ヴァン・ヴォークト
アインシュタイン交点』サミュエル・R・ディレイニー
 
マッカンドルー航宙記』チャールズ・シェフィールド
サンドキングズ』ジョージ・R・R・マーティン
琥珀のひとみ』ジョーン・D・ヴィンジ
竜とイルカたち』アン・マキャフリイ
啓示空間』アレステア・レナルズ

 
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2005年10月28日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『ハイブリッド −新種−』ハヤカワ文庫SF

 ネアンデルタール・パララックスの最終巻。(第一巻『ホミニッド −原人−』第二巻『ヒューマン −人類−』)
 偶然から、ホモ・サピエンス(グリクシン)の世界とホモ・ネアンデルターレンシス(バラスト)の世界は一つにつながった。グリクシン側の人々は、人口が抑制され科学的にも進んでいるバラスト世界のありように驚く。双方は文化交流を開始し、バラストの著名な学者たちがグリクシン世界へとやってきた。
 メアリ・ヴォーンは、合衆国政府のシンクタンク、シナジー・グループに所属する遺伝学者。グリクシンとバラストの違いを遺伝子から解明したところだ。当面の仕事がなくなり、手持ち無沙汰なメアリ。上司ジョック・クリーガー博士に、バラスト世界への滞在をすすめられる。建前は遺伝学やバイオテクノロジーの知識を学ぶため。だがクリーガー博士には、ある思惑が……。
 メアリと、恋人でバラストのポンター・ボディットは、請われてある実験に参加することになった。招いたのは、ローレンシアン大学神経科学研究グループのヴェロニカ・シャノン。ヴェロニカは脳がいかにして宗教的体験をつくりだすか研究していた。脳を磁気で刺激することで同様な体験をさせられることは分かっている。なんの宗教も持っていないバラストの場合はどうなのか?
 宗教的体験は共有できなかったが、メアリはポンターとの子供を考え始めていた。だが、染色体の決定的なちがいから子供をもうけることは難しい。しかし、バラスト世界の遺伝子テクノロジーならば、2種類の遺伝子を合体させる方法があるのでは? メアリはバラスト世界で、ある禁断の技術を聞きつけるが……。
 一方グリクシン世界では、磁場が崩壊しつつあった。

 三部作というより、大長編の第三巻といった内容。にもかかわらず三冊ともトーンがちがので、第一巻の持つ魅力の持続を期待していた側としては、おもしろさ半減。
 前作でふれられてとんでもないことになりそうだった地磁気の異変は、ただの小道具のような感じに後退してました。代わって登場したのが、禁断の技術。期待通りクリーガー博士が暗躍します。
 2つの種族の行く末は? 
 前作でポンターにひどい目に遭わされたコーネリアスの復讐は?
 全般的にはおもしろいんですけどねぇ。ちょっと物足りない。


 
 
 
 
2005年10月30日
海外SF傑作選
(小松左京&かんべむさし/編)
ジョン・ヴァーリイ/サリイ・A・セラーズ/ジョナサン・ファースト/エリザベス・A・リン/マーチン・ガードナー/フレッド・セイバーヘーゲン/アイザック・アシモフ/ゴードン・R・ディクスン
(浅倉久志/風見 潤/鏡 明/佐藤高子/小隅 黎/山高 昭/冬川 亘/岡部宏之/訳)
『さようなら、ロビンソン・クルーソー』集英社文庫

 SF傑作選。アメリカの〈アイザック・アシモフス・サイエンス・フィクション・マガジン(1977年創刊)〉から選んだ日本オリジナルのアンソロジー。小松/かんべ両選者の短い解説対談つき。アシモフって知ってる? なんて会話が古さを感じさせます。

「さようなら、ロビンソン・クルーソー」
ジョン・ヴァーリイ
 少年ピリは、〈パシフィカ〉ディズニーランドに造られた南太平洋で暮らしていた。全体としては建設工事中だが、ピリのいるラロトンガ・リーフは完成済み。ピリは、ロビンソン・クルーソーを気取り、冒険の日々を送る。そこへ謎の旅行者リーアンドラが現れた。リーはピリに急接近してくるが……。
 ヴァーリイの《八世界》シリーズの内の一つ。ヴァーリイの世界では、人体改造あたりまえ。えらで海を泳ぎ回れたら……という夢のような話です。

「夢の期待」サリイ・A・セラーズ
 ジャネットは死を望んでやまなかった。たびたび自殺をはかるものの、その身体は機能を停止することがない。そのジャネットを追うのは、クロスビイ。検屍官だ。クロスビイはジャネットをさがしまわるが……。
 ジャネットの肉体の思考も書かれます。突き詰めて考えるとやや弱いところがあるのですが、まぁ、大雑把に楽しむ分にはいいかな、と。

「キャプテン・クラップ・スナックス」
ジョナサン・ファースト

 ジャックとジェインは双子の兄妹。好奇心旺盛で、厄災をふりまく年頃だ。ある日二人は、父スミス氏のいいつけに背いてしまった。罰として、楽しみにしていたテレビ「キャプテン・クラップ・スナックス」の視聴を禁じられてしまう。双子はある行動にでるが……。
 とても印象に残る作品。

「魚の夢、鳥の夢」エリザベス・A・リン
 放射能が陸を襲ってから60年。人々は、汚染されていないわずかな土地で細々と暮らしていた。少年イリスは〈子供の階〉を抜け出て冒険を楽しんでいた。しかし予期せぬ事故に遭って全身火傷を負ってしまい……。
 母親が狂気に末に手にしたものとは?

「SFパズル・医師のジレンマ」
マーチン・ガードナー

 流行性バルスーム型インフルエンザが猛威をふるう火星植民地。誰もが感染している可能性がある。ある患者を3人の医師が順繰りに施術することになった。緊急手術だが、減菌済み手術用手袋は二揃えしかない。手術は無事に行えるのか?
 別にSFじゃなくても……と思うパズル作品。

「皆既食の時期」フレッド・セイバーヘーゲン
 惑星スラグで、探検隊の一行は洞穴に閉じこめられてしまった。原因は、突如発生した天候の悪化。陽子が、中性子が、ヘリウム原子核が荒れ狂う。宇宙船までの距離は、車で約20分たらず。しかし、この嵐の中洞窟からでることができず、酸素にも限りがある。嵐はいつまでつづくのか?
 教授が権威をふりかざして……という話。

「美食の哀しみ」アイザック・アシモフ
 プライム(極上の牛肉)が開発され、食文化が花開いた植民ステーション・ガンマー。そこは〈賞味師〉が尊敬を集める世界。マイナーは、ガンマーから異世界へと旅行し帰還した若者。故郷に戻ったマイナーは、〈調理大賞祭〉に参加する。マイナーは異世界であるものに出会ったのだが……。
 いろいろとアシモフを読んできているからか、オチが見え見え。その分、安心して物語世界を楽しめますが。

「時の嵐」ゴードン・R・ディクスン
 マークは、キャビンの中で倒れてしまった。また心臓発作かと思いきや、そうではなく、気がつけば世界が一変していた。時の変化線が世界を変えてしまっていたのだ。それが通ると、世界は別の時間にある世界と入れ替わってしまう。マークは、オマハ市の元・妻スワニーは無事だと信じて旅をつづけるが……。
 時の変化線はフレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』を思い起こさせます。短編ゆえ、こまかい説明ははぶかれてますが、もっとじっくり読みたかったかも。


 
 
 
 
2005年11月14日
A・E・ヴァン・ヴォークト(中村保男/訳)
『非(ナル)Aの世界』
創元SF文庫

 2650年。宇宙にはいくつもの帝国があり「銀河系連盟」が結成されていた。
 ギルバート・ゴッセンは、訓練を積んだ〈非A〉人。〈非A〉とは、論理的かつ総合的な視野を持つ考え方のこと。習得すれば、識別の中心〈皮質〉と、神経系統の感情的な反応の中心〈視床〉、これら2つを同調して働かせることができるようになる。これまでの二元的な思考のアリストテレス(A)主義を廃して誕生した。
 妻パトリシアを亡くしたゴッセンは、〈機械〉のゲームに参加するため、〈機械〉の都市へとやってきていた。ゲームは、富と地位を与え、トップの栄誉をかちとったものに金星への旅行を約束している。
 ゲームの期間は1ヶ月。その間、地球一の大都市は警察や法廷による保護を受けない。人々はグループを結成し、自衛に当たる。ゴッセンは、ホテル同フロアの宿泊客たちのグループに入った。ところが、同じ村出身の商店主に疑問を呈されてしまう。ゴッセンなど知らない、その身分は詐称したものである、と。さらに、パトリシアが大統領の娘で健在である、とも。
 ゴッセンは、嘘発見機で論争に終止符を打とうとするが、逆に、ゴッセンの持つ記憶がまやかしだと宣告されてしまった。ホテルから追い出されるゴッセン。無法地帯と化した町でテレサ・クラークと名乗る女性と出会う。この出会いは偶然なのか? それとも……。
 いよいよゲームが始まり、ゴッセンは面接した〈機械〉にアドバイスを求める。〈機械〉は、ゴッセンの頭脳になにかがあることは見抜くが、それがなんなのかは分からない。早速、ゴッセンは精神医に予約を入れるが、診てもらう前に捕らえられてしまった。
 ゴッセンが連れ去られた先は、〈機械〉の宮殿。現れたのは大統領と車椅子の謎の男〈X〉、そして銀河系帝国のジム・ソーソンだった。彼らはゴッセンの頭脳を調べ、奇異な点に気がつくが……。
 ゴッセンの正体とは?

 アイデアをごった煮にしたヴォークトの代表作。けっきょく非Aがなんなのか、分からずじまい。そういうワケの分からなさもヴォークトの楽しさのひとつ。
 結末は続編『非Aの傀儡』に持ち越されてます。


 
 
 
 
2005年11月16日
A・E・ヴァン・ヴォークト(沼沢洽治/訳)
『非(ナル)Aの傀儡』
創元SF文庫

非Aの世界』続編。
 宇宙にはいくつもの帝国があり「銀河系連盟」が結成されていた。地球と金星は銀河系大帝国の独裁者エンローの侵略を受けるが、〈非A〉人ギルバート・ゴッセンの活躍もあり軍隊は退けられた。
 帝国のソーソン殺害のため地球に渡っていたゴッセンは、金星に帰還しようとする。ところが、出国管理局のジャナセンに妨害されてしまった。実は、ジャナセンは〈影〉の手先。〈影〉は、エンローを援護していた。ゴッセンは予備脳を使い、ひそかに金星へと到着する。
 ゴッセンは、金星にあるジャナセンのアパートへと向かう。そこで、あるカードを手渡された。ゴッセンはカードに書かれていた〈影〉からのメッセージを読んだ。そして、警戒はしていたものの、巧妙に仕組まれていた歪曲機によって移動させられてしまった。
 次に気がついたときゴッセンは、青年アシャージンの体に入っていた。アシャージンは王族。14歳のときに簒奪者エンローに捕らえられ、エンローの故郷ゴーグジッドに連れてこられていた。ゴーグジッドにおわす〈眠れる神〉の僧侶たちに預けられること11年。ゴッセンが入ったアシャージンはエンローに呼び出され、そのそば近くで生活することに……。
 一方〈影〉は己のアジトで、抜け殻となったゴッセンの身体と対面していた。未来を見ることができる〈影〉なのだが、ゴッセンの意識がないことは予想外のことだった。
 背後でうごめく存在の正体は?

 前作よりも格段に分かりやすくなった《非A》シリーズ第二作。アイデアのごった煮状態は相変わらずなものの、スケールが一気に広がりました。
 ゴッセンの精神をアシャージンへと送ったものとは?
 〈影〉の正体とは? 
 金星人たちが編み出した防衛手段とは?
 ミステリとしても楽しめます。


 
 
 
 
2005年11月22日
サミュエル・R・ディレイニー(伊藤典夫/訳)
『アインシュタイン交点』ハヤカワ文庫SF

 ロ・ロービーは、清さの称号“ロ”を得た若者。両手両足で、音楽を奏でる。楽器は、山刀。ロービーの山刀には、穴のいくつもあいた筒が柄から切っ先のところまで通っているのだ。
 この時代、正常者の数は減少傾向にあり、やや違ったものでも称号を与えられていた。称号をとりあげられた者は、無機能者の終容所にいれられる決まり。ロービーの恋人フライザは、赤ん坊のとき終容所にいれられていた。それが正常者と認められるとラ・フライザになり、みんなと一緒に暮らすことに。ところが、フライザは唖子だった。ついにそれが知れると、終容所は免れたものの“ラ”は外された。
 あるときロービーは、フライザが手も足も使わずにつぶてを投げるところを目撃する。フライザは違っていたのだ。フライザの能力はそれだけではない。彼女は嫌なことを遠ざけることもできる。しかし、そのフライザが突然死んでしまった。
 落ち込むロービー。長老ラ・ダイアは、ロービーに語りかける。フライザを殺した何だかわからないものを殺すように、と。そして、ビートル・リンゴやオルフェウスの神話をロービーに話して聞かせるのだった。

 筋だけをとれば、フライザを殺したキッド・デスを成敗するだけの物語。
 ただし、裏の意味があります。ラ・ダイアが語るようにロービーの物語は、ロービーたちの種族が地球にやってくる以前に地球に住んでいた人々(人類)の残した物語と重なる部分があります。さらに、ディレイニーの自伝まで織り込まれています。ただし、そちらは翻訳ゆえ明確にはなっていません。
 裏の意味がなければ、こんなに小難しくないんでしょうけど。


 
 
 
 
2005年11月23日
チャールズ・シェフィールド(酒井昭伸/訳)
『マッカンドルー航宙記』創元SF文庫

 連作短編集。
 ジーニー・ペラム・ローカーは、タイタン航路の定期輸送船船長。はじめてカー=ニューマン・ブラックホール(通称カーネル)を輸送したとき、一人の物理学者と出会った。太陽系でも最高の頭脳を持つと賞賛されているアーサー・モートン・マッカンドルー博士。ペンローズ研究所の大物教授だった。2人は打ちとけあい、ジーニーの4ヶ月かかるタイタン航路へマッカンドルーも同行することになった。

「キリングベクトル」
 ジーニーの船が、世紀の極悪人イフターをタイタンへと護送することになった。イフターは幻覚主義者を率い、地球で10億もの人々を殺害した大物犯罪者。しかし、実際に話してみると、申し分のない紳士で……。

「慣性モーメント」
 マッカンドルーは、画期的な航行システムを開発した。それをもちいれば、50Gの加速をかけても人間がぺしゃんこになることはない。ところが、試験航行にでたマッカンドルーが行方知れずとなってしまった。研究所から連絡を受けたジーニーは、ヴェーニッヒ博士と共に捜索にでかけるが……。

「真空の色彩」
 マッカンドルーの弱みをにぎったジーニーは、それをたてに、100Gの加速をかけられる高速宇宙船〈ホアチン〉に同乗する権利を得た。手始めは恒星への旅と思いきや、なんと行き先は〈マシンガムの方舟〉だという。72年前に出発した多世代宇宙船で、天才が誕生しているらしいのだが……。

「〈マナ〉をもとめて」
 ジーニーとマッカンドルーは、食糧局への出頭命令を受けた。そこで待ち受けていたのは、アンナ・ライザ・グリス。食糧需給計画全般の統括責任者だった。アンナは、30年ほどで飢餓がおとずれることを明かし、代替供給源について語る。それを科学者ランホフが開発したものの、理論証明のために訪れた彗星雲で行方不明になっていた。アンナは高速船〈ホアチン〉で捜しに行くことに決めていて……。

「放浪惑星」
 ペンローズ研究所のもうひとりの天才、スヴェン・ヴィクルントがヴァンデルの第五問題を解いた。その知らせに大興奮のマッカンドルー。しかし、ヴィクルントは第五問題の解答から放浪惑星の探知装置をつくりあげると、ジーニーの娘ジャン・ペラムと共に、探険にでかけてしまう。ジーニーとマッカンドルーは2人を追いかけるが……。

 おもしろいです。慎重派のジーニーと、天才肌のマッカンドルーのコンビが絶妙。ただ、少々食い足りない。短編で、あっと言う間に終わってしまうからでしょうけど。


 
 
 
 
2005年11月26日
ジョージ・R・R・マーティン(安田均/風見潤/訳)
『サンドキングズ』ハヤカワ文庫SF

 ファンタジックで、ただし薄暗い、そんな雰囲気のただようSF短編集。

「龍と十字架の道」
 真恒星間カソリック派のダミアン神父は騎士団審問官。異端の報告を受け、惑星アリオンへと赴く。アリオンでは、イスカリオテの聖ユダ修道会が、聖書『龍と十字架の道』でユダを聖人として教えを広めていた。仕事に疲れているダミアンは、教団長ルキアン・ユダソンに興味を覚えるが……。
 ダミアンの疲れっぷりと〈嘘つき〉の嘘が興味深い一話。

「ビターブルーム」
 ショーンはただひとり帰路についていた。世界は厳冬期にあり、食糧も底をつきかけている。しかも一帯では吸血鬼が徘徊していた。恐怖の中、ショーンは奇妙な建物を見つけるが……。
 宇宙を旅していた宇宙船と、女主人の魔女モーガン。ショーンが哀しい嘘をみやぶって、でも、それだけじゃないんです。

「〈蛆の館〉にて」
 衰退をつづける〈蛆の館〉の上層には、ヤガ=ラ=ヘイたちが暮らしていた。地中深くに潜むのは、グラウンたち。アネリンは、身分の高いヤガ=ラ=ヘイ。卑しい“肉はこび”に侮辱され、殺害を企てた。友人たちと〈地下トンネル〉で落ち合うが……。
 世界のありようがよく分からないままムリに読み進むうちに、おもしろくなってきた作品。分からないままなのは変わらないんですけど。

「ファスト・フレンド」
 人類は光速で動く〈点滅体〉と、それをエサとしている〈暗黒体〉を発見した。〈暗黒体〉と一体化することで、人は不死を得、大宇宙を超光速推進で駆け巡る。そんな彼らはファスト・フレンドと呼ばれた。ブランドは、かつてファスト・フレンドとなる機会を与えられながら、恐怖から退けてしまった過去を持つ。10年の歳月が流れ、ブランドはある計画を抱いてファスト・フレンドと接触するが……。
 宇宙船を舞台にしながらも、とてもファンタジックな作品。造られた天使とか、宇宙を光速で移動する生物とか、絵的なものを感じました。

「ストーン・シティ」
 人類の領域から内側に十年もの旅を要する位置に〈クロスワールズ〉はあった。宇宙船発着場とストーン・シティだけの荒れ果てた場所。ストーン・シティの〈建造者〉のことは誰も知らない。ホールトが宇宙船を失ってから1年。ホールトは、ダンラ人の事務所で船に席がないかと訪ねる日々を重ねてきた。徐々に減って行く宇宙船の仲間たち。ホールトは追いつめられて……。
 ダンラ人に〈うつろ〉と呼ばれるだけあって、ストーン・シティにはだるさを感じます。そんなところで、強盗で生計を立てざるを得ないホールトが物悲しい。

「スターレディ」
 ヘアリー・ハルは、惑星ジスロックのポン引き。ごろつきどもに襲われる若い女と少年とを目撃し、すべてが終わった後で2人を保護した。若い女は、ジェイニー・スモール。身分証を失い、ハルの元で働くことを余儀なくされてしまう。そんなジェイニーはスターレディの名で人気を集めた。一方、ジェイニーもその素性を知らない少年は、一言もしゃべらない。その肌は黄金色。ハルはある計画を温めていたが……。
 語りかけてくるような文章と、強くたくましいスターレディの生き様が鮮烈な作品。

「サンドキングズ」
 サイモン・クレスは、新奇で、風変わりで、目立つペットを飼う趣味があった。友人に見せびらかすことに喜びを感じるのだ。新しいペットを求めたクレスは、はじめての店〈ウォウ&シェイド輸入商会〉に足を踏み入れた。クレスは、応対したジャラ・ウォウにある生物を紹介してもらう。昆虫のような外見ながら高度な知能を有し、集合意識をわけあい、戦争をし、神を崇拝するサンドキングズ。クレスは4つの群れを購入し、飼育をはじめる。そして、餌を絶つことで戦争を起こし、満足したクレスはパーティを催した。クレスは、パーティに呼んだウォウに忠告されてしまうが……。
 クレスが、自分のしたことの代償を支払わされる、おそろしい物語。ヒューゴー、ネビュラ両賞に輝きました。クレスのような友だちがいなくてよかった……。


 
 
 
 
2005年12月12日
ジョーン・D・ヴィンジ(浅羽莢子/岡部宏之/訳)
『琥珀のひとみ』創元推理文庫

 ヒューゴー賞受賞作を含む短編集。作者によるあとがきつき。ヴィンジの特徴は、最初のうちはなにがなんだか分からない、というところでしょうか。徐々に分かっていくおもしろさがあるのですが、短編ゆえ、分からないそのまま終わってしまったものもありました。

「琥珀のひとみ」(浅羽莢子/訳)
 貴族トウーピエはクロウビリに領地を奪われ、今は刺客の身。クロウビリに復讐を願ってやまないが、機会はなかった。そこへ、クロウビリの実弟クウィアル卿から、クロウビリ一家の殺害依頼が舞いこむ。クロウビリの妻アーツィートは、トウーピエの実の妹。それでもトウーピエは依頼を受け、琥珀のひとみを持つ魔物に報告した。この魔物、実は、地球人たちの探査機。土星の月タイタンを調査中にトウーピエの種族と出会い、交信をつづけてきた。通訳をしているシャノンは、なんとかして妹殺しをとめようとするが……。
 ヒューゴー賞受賞作。
 ファンタジーかと思いきや、実はSF。その移り変わりが鮮やかでした。タイタンまでの通信には片道2時間。この壁に阻まれ、思い通りに対話できないもどかしさ。トウーピエ側にもいろいろあるけれど、シャノン側にもいろいろあります。

「猫に鈴を」(浅羽莢子/訳)
 ジェアリは犯した罪の大きさから、洗脳され、歩く生物実験室とされた。現在は、シミュー生医学研究所で刑期をつとめる身。主人はオル博士。オル博士は、天然の原子炉の中で生き抜いてきた鱗だらけのねずみたちを研究しているのだが……。
 ねずみの謎と、ジェアリの存在。それらがたどりつく結末は? ねずみの正体は漠然としていて、明らかにされるのはあとがきで。考えていたことが伝わらなくっても、それはそれでいいと思うんですが。

「高所からの眺め」(岡部宏之/訳)
 エミールーが地球を出発して20年。エミールーを乗せた有人天文台は、地球との距離、1000天文単位に到達しようとしていた。日々、時間がかかるようになっていく地球との交信。エミールーは精神的に追いつめられていく。生まれつき免疫機能のないエミールーは、地球にいても隔離されなければならない身。自ら孤独な航海に志願したのだが……。
 日記形式でつづられる作品。突如として始まるので、しばらく暗中模索でした。

「メディア・マン」(浅羽莢子/訳)
 G型の恒星と4つの惑星から成り立つ〈天〉星系は、内乱によって人口の大半を失った。科学技術もいくつかが失われ、人々はほそぼそと生き長らえている。ダルタニャンは、市民国のメディア・マン。シアマン財閥が歴史に残る救出劇を演じることになり、同行取材するチャンスをつかみ取る。それは、第二惑星に遭難した山師オレフィンの救助活動。本来なら山師など見捨てられるところだが、オレフィンは内乱で崩壊した蒸留財閥の末裔で、戦前の貴重な遺物を発見したというのだ。ダルタニャンは、シアマンの後継者と、宇宙船パイロットミシリと共に旅立つが……。
 他界した親父が山師だったダルタニャン、たくらみごとのあるシアマン、敵意むき出しのミシリ。往きの旅は3人のせめぎ合い。オレフィンは無事に助け出されるのか?

「水晶の船」(浅羽莢子/訳)
 タラワスィは水晶の船で、チッタを飲み幸せな夢を見続けていた。50人そこそこにまで減ってしまった人類のほとんどがチッタ服用者。人々は過去を忘れ生きていた。ある日、不幸せな夢しか見られないアンダーが、星の井戸に飛び込み死にいたった。星の井戸は、アンダーに死を与えたのだ。さらに、病に苦しめられていたタラワスィの母も、星の井戸は受け入れた。タラワスィが飛び込んでもなにも起こらないのに。タラワスィは、アンダーがつかんだ真実を求めるが……。
 幻想的な作品。その昔、この地で起こった事件とは? 星の井戸の正体とは?  

「錫の兵隊」(浅羽莢子/訳)
 ニュー・ピレウス市の酒場〈錫の兵隊〉の経営者兼バーテンダーのマリスは、サイボーグ。100年につき5年ほどの割合でしか歳をとらない。この時間の止まった酒場にやってくるのは、宇宙船乗組員たち。乗組員になれるのは女だけ。男は宇宙に耐えられずノイローゼになってしまうのだ。マリスは、新人乗組員のブランディと親しくなるが……。
 ヴィンジのデビュー作。
 年月が流れて町の様子が変わってもマリスに変化はなく、たまに帰ってくるブランディも若いまま。結末は悲劇的だと思うのですが、マリスにとってはいい結末なんでしょうね。


 
 
 
 
2005年12月24日
アン・マキャフリイ(小尾芙佐/訳)
『竜とイルカたち』ハヤカワ文庫SF

パーンの竜騎士》シリーズ。
 人類が惑星パーンに植民して長い歳月が流れた。人々は、200地球年ごとに接近する兄弟星からやってくる「糸胞」を迎え撃つため、竜を発展させてきた。
 そして迎える転換期。
 南の大陸で発見されたコンピュータ・アイヴァスは、植民者たちが持ち込んだ知識の集大成。アイヴァスに学んでいく、人類の末裔たち。かつて捨て去られた南の大陸の再植民が始まりつつあった。
 少年リーディスは、パラダイス・リバー城砦の大守の息子。ある日、漁夫ノ頭で伯父のアレミと魚釣りにでかけ、突然の嵐に見舞われてしまった。舟は難破。2人は海に投げ出され、危ういところを舟魚たちに助けられる。しかも舟魚たちは話しかけてきたのだ。自分たちはイルカであると。
 イルカによって救われたリーディスだったが、母アラミナに1人で海に行くことを禁じられてしまう。言いつけを守るリーディス。しかし、遊び好きなイルカに魅せられていた。
 一方アレミは、アイヴァスにイルカのことを教わっていた。彼らは、精神統合処置を施された上でパーンに運ばれてきた種族。植民開始当時にはイルカ師たちがおり、イルカとパートナーを組んで活躍していた。アレミはイルカの可能性に思いを馳せ、交流を再開しようと奔走するが……。

 リーディスの成長物語に、『竜の挑戦』で語られた出来事と、アレミや、青銅竜ガダレスの騎士ト-リオンなどの人物がからんで展開していきます。流れ的には、『竜の歌』で語られたメノリと同じ。当のメノリも、アレミの妹ゆえ登場します。
 新鮮味という点では弱いですが、安心して読めました。


 
 
 
 
2005年12月29日
アレステア・レナルズ(中原尚哉/訳)
『啓示空間』ハヤカワ文庫SF

 考古学者ダニエル・シルベステは、生命体の海ジャグラーに漂い、啓示空間があるというシュラウダーから生還した男。現在はリサーガム星で、絶滅した異星種族アマランティン族の発掘調査を行っている。彼らが宇宙に進出していたという仮説をたてているのだが、証拠は見つかっていない。アマランティン族がイベントによって滅びたのは99万年前のこと。
 イベントとはなんだったのか?
 シルベステは、ついにオベリスクを発見する。その上端には星系図が彫られてあった。しかし、全容が明らかにされる前にクーデターが勃発。シルベステは逮捕されてしまった。
 一方、かつてシルベステが暮らしたイエローストーン星では、アナ・クーリが殺し屋として活動していた。クーリは手違いからイエローストーン星に来てしまったのだが、前身はスカイズエッジ星の兵士。そんなクーリの元に、ある依頼がとびこむ。
 シルベステを暗殺して欲しい、と。
 クーリは、謎の女性マドモアゼルの条件をのんだ。そして、22年の冷凍睡眠の後、リサーガム星へと向かう近光速船の人員として旅立つことに。
 マドモアゼルはなぜシルベステを狙っているのか?
 クーリが雇われたノスタルジア・フォー・インフィニティ号も、シルベステを捜していた。船長が病に冒されており、シルベステの父カルビンの助力を必要としていたのだ。カルビンはすでに他界しているが、シルベステの元にはベータレベル・シミュレーションが残されていて……。

 シルベステと、クーリと、インフィニティ号のイリア・ボリョーワを軸に物語は展開します。人物が登場した際に感じた印象と、徐々に明らかにされる経歴と、登場人物紹介のイラストとが見事に一致しない作品でした。おそらく、ふだんライトノベルを読んでいる人に向いているのでしょう。
 並の長編3冊分の長さの中に、いろんな要素がぎっちり詰まってます。クーリが脳内にかかえるインプラント。不思議なジャグラーの海、未知の空間シュラウダー、イエローストーン星の融合疫、インフィニティ号の隠匿兵器、謎の中性子星……。ライトノベルは苦手ですが、アイデアの洪水のおかげで読み通すことができました。登場人物たちが精神的にも大人だったら、もっと楽しめたと思うんですけどね。

 
 

 
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