航本日誌 width=

 
2005年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 10
 11/現在地
 12
 
このページの本たち
フリーダムズ・ランディング −到着−』アン・マキャフリイ
フリーダムズ・チョイス −選択−』アン・マキャフリイ
フリーダムズ・チャレンジ −挑戦−』アン・マキャフリイ
前哨』アーサー・C・クラーク
消えた少年たち』オースン・スコット・カード
 
大宇宙の墓場』アンドレ・ノートン
断絶への航海』ジェイムズ・P・ホーガン
宇宙の呼び声』ロバート・A・ハインライン
地球人よ、故郷に還れ』ジェイムズ・ブリッシュ
ホーカス・ポーカス』カート・ヴォネガット

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 
2005年10月08日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『フリーダムズ・ランディング −到着−』
ハヤカワ文庫SF

 クリスティン・ビヨルンセンは、デンヴァーの女学生だった。今は、惑星バレヴィに潜伏する逃亡奴隷の身だ。地球はキャテン人たちに制圧され、大都市から連れ去られた人々は奴隷として扱われていた。
 クリスが逃走してから5ヶ月。サバイバル技術講座を受けていたこともあり、ジャングルの中、なんとかひとりでやってきた。先行きに不安はある。
 そんな最中、クリスは同族に追われるキャテン人ザイナルを助けた。ザイナルは、身分の高いエマッシ。ある犯罪を犯し、逃げているところだった。キャテン人の法律では、争いは明くる日の同時刻をこえて継続してはならない。一日身を隠せばいいのだ。
 クリスはザイナルを隠れ家にかくまい、バレヴィシティ郊外へと送り届ける。そのころ街では奴隷たちの暴動が発生していた。クリスは暴動にまきこまれ、ふたたび捕らえられてしまう。
 クリスは他の人々と共に、未開の惑星にほうりだされた。地球人だけでなく、トゥール人、ルガリア人、イルギン人、デスク人も一緒だ。そして、その中にはあのザイナルの姿も。人々はキャテン人ザイナルを殺そうとするが、クリスは彼らをおしとどめる。この惑星のことを知っているのは、ザイナルだけなのだから。
 やがて、ボタニーと名付けられた未開惑星に未知のテクノロジーが存在することが確認される。ボタニーは、高度に機械化された農場惑星だったのだ。

 でだしは、短編「バレヴィの茨」(『塔のなかの姫君』収録)そのまんま。途中から展開を変えて、長編に発展させてます。三部作(『フリーダムズ・ランディング』『フリーダムズ・チョイス』『フリーダムズ・チャレンジ』)の第一巻だけあって“次巻、乞うご期待”な感じで終わってしまいました。


 
 
 
 
2005年10月09日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『フリーダムズ・チョイス −選択−』
ハヤカワ文庫SF

フリーダムズ・ランディング』の続編。
 地球はキャテン人によって征服された。あくまで反抗する地球人たち。彼らをもてあましたキャテン人は、惑星ボタニーに、つぎつぎと人類を放擲していく。
 ザイナルは、ボタニーで暮らす唯一のキャテン人。高位者エマッシとしての義務を課せられている身だが、ボタニーにとどまることでそれを拒否する。
 ザイナルの父ペリゼックと弟レンヴェックは、ザイナルの拉致をもくろむ。実は、キャテン人は2500年もの昔からエオス人に支配されており、エオス上級実在イックスがザイナルを呼んでいるのだ。ペリゼックとレンヴェックのもくろみは失敗に終わった。レンヴェックは、ザイナルの代わりにイックスの元へと赴き、身体をのっとられてしまう。その心に、ザイナルへの憎悪を抱きながら……。
 一方ザイナルは、放擲のためにときおり訪れるキャテン人の宇宙船を奪う計画をたてていた。

 三部作(『フリーダムズ・ランディング』『フリーダムズ・チョイス』『フリーダムズ・チャレンジ』)の第二巻。
 第二巻にしてようやく、敵役エオス人が登場。そして、ボタニーの真の所有者、謎の存在〈ファーマーズ〉も姿を現し、物語は急展開。とはいえ、すべての結末は第三巻に持ち越されてしまいますが。


 
 
 
 
2005年10月10日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『フリーダムズ・チャレンジ −挑戦−』
ハヤカワ文庫SF

フリーダムズ・ランディング』と『フリーダムズ・チョイス』の続編。一連のシリーズ完結編。
 地球はキャテン人によって征服された。抵抗する人類は、未開惑星ボタニーに放擲されてしまう。しかし、ボタニーは高度な種族の農場惑星だった。彼らは〈ファーマーズ〉と名付けられ、ボタニーに放擲された人々の前に姿を現す。ファーマーズは人々の存在を容認し、惑星を覆う〈バブル〉でもって彼らを保護した。
 征服者キャテン人は、その実エオス人に支配されていた。エオス上級実在イックスは、ファーマーズの存在が気に食わない。躍起になって〈バブル〉を破壊しようとするが……。
 一方、ボタニーに放擲された地球人クリスと仲間たち、そしてボタニー唯一のキャテン人ザイナルは、キャテン人の宇宙船をひそかに盗んでいく。ザイナルは、自由を求めるキャテン人の同志と接触し、エオス人への反撃をもくろむが……。

 ついに、エオス人とキャテン人の主従関係のはじまりが明らかに。惑星バレヴィや惑星キャテンにも潜入し、新たな冒険が繰り広げられます。そして迎えるハッピーエンド。
 このシリーズは、冒険ものとして、ハラハラどきどきはありました。が、文面から、すべてうまくいくことが感じとれる、安心感のあるシリーズでもありました。マキャフリイならではでしょうね。
 いろんな種族がそれなりに登場するものの、人類賛歌な印象はぬぐえず。というか、エオス人を戴くキャテン人、マヌケすぎる。科学技術の差があったにせよ、こんなやつらに征服されちゃった人類って、どうよ?
 ファーマーズのお人好しさも際立ってました。作品全体がご都合主義になってしまっているせいでしょう。でも、まぁ、楽しめました。たまには、こういうのもあり。


 
 
 
 
2005年10月11日
アーサー・C・クラーク
(浅倉久志/深町眞理子/小隅 黎/平井イサク/山高 昭/訳)
『前哨』ハヤカワ文庫SF

 SF短編集。

「第二の夜明け」
 アセレナス族は、ミスラニア族との戦争に勝利した。戦いを終わらせたものは、狂気。アセレナス族は、強い肉体に強い精神を宿らせ、テレパシー能力を使いこなしていた。この能力を用い、ミスラニア族の精神を攻撃したのだ。
 戦傷をかかえるアセレナス族のエリスは親友アレテノンに、恩師セロディマスに会いにいく旨、説得される。アレテノンは〈狂気〉の開発にかかわり、アセレナス族の未来を危惧していた。セロディマスがある大発見をしたというのだが……。
 人類とはまったくちがった種族のありようが興味深い作品。知能が高度に発達していても戦争をしてしまうのかと思うと、やるせない。

「おお地球よ……」
 マーヴィンは〈植民地〉に暮らす10歳の少年。父につれられて、生まれてはじめての〈外界〉へと出た。彼が見たものとは?
 とても短い作品。その中に〈植民地〉の成立とその未来とか詰め込まれてます。大長編ができそうな濃厚さ。

「破断の限界」
 スター・クイーン号は金星に物資を運ぶ貨物船。航行中に隕石が衝突し、酸素の供給が絶たれてしまう。冷静になろうとつとめるグラントと、悲嘆にくれるマクニール。酸素の残量は、2人の場合で20日分。しかし、金星へ到着するまでには30日かかるのだ。もし、これが1人ならば? グラントはマクニールに殺意をいだき……。
 グラントを軸に、サスペンス調に展開される物語。クラークの、冷徹に自分を律する人間を書く姿勢が好きですね。人物像に好感持てるかどうかはともかく。

「歴史のひとこま」
 シャンとその一族は、氷河に追われ長い旅をつづけていた。南の国に入れば、山脈が壁になってくれる。しかし、山の頂上でシャンが目撃したのは、南のかたに広がる氷河だった……。

「優越性」
 敗戦の将が陳述する、負け戦の理由。開戦時には、数で、装備でまさり、軍事科学のほとんどの分野で優位に立っていた。にもかかわらず、なぜ数世代前の科学力しかない敵に破れてしまったのか?
 戦況を追いつつの解説もさることながら、最高司令官は、なぜそんな声明書をしたためたのか? そちらの疑問にもきっちり答えた無駄のない話。

「永劫のさすらい」
 戦いを挑み破れつつある〈支配者〉は、人工冬眠法によって100年後の世界に望みをつなぐが……。
 もう一人の重要登場人物は、哲人トレヴィンダー。〈帝国〉と衝突し、流刑に処せられます。この二人がどうつながるのか? 容易に検討はつきますが、その結末は?

「かくれんぼ」
 K15号は、諜報員。敵の宇宙巡洋艦に追われていた。K15号は、火星の衛星フォボスを隠れ場所に選ぶ。火星近くには味方の巨艦がおり、少しの時間で救援にきてくれるはずだ。K15号は逃げ切れるのか?
 たったひとりの人間を追跡する巡洋艦。フォボスの直径はわずか20キロ。そんな狭いところでなぜ逃げおおせるのか、クラークならではの切り口で読ませてくれます。そして、この話はある人物の回想という形をとっていて、それもミソになってます。

「地球への遠征」
 銀河調査隊の科学者は、生物の生息する惑星を発見した。隊員は二足歩行型の原住民との接触を試みる。そのころ、銀河帝国は滅びつつあった。残り少ない時間の中、ファーストコンタクトを試みるが……。

「抜け穴」
 地球では、原子爆弾が開発されていた。月より地球を監視していたある星の科学評議会は大統領に報告し、大統領は惑星外保安局へと回送する。彼らは、地球人の脅威から自分たちを守るために行動するが……。
 通信文のみで構成された作品。解説がない分、すっきりとストレートに投げ込まれてきます。

「遺伝」
 A20は、二段ロケット。事故が起こり、打ち揚げ地点から50キロの場所に落下してしまった。パイロットのデイヴィッドは踵の骨折だけですんだとはいえ、墜落によるショックを感じさせない元気さ。それはなぜなのか?

「前哨」
 月面の巨大盆地〈マーレ・クリシウム〉の調査が行われた。地質学者は、山背に金属製のきらめきを目撃する。半信半疑の仲間たち。彼らを説き伏せ山へと登る一行。そこにあったものは?
 代表作『2001年宇宙の旅』の元ネタとなった作品。とくれば、山の上のものの正体は自ずとあきらか。そのために意外性はまったくないのですが、まぁ、記念碑的作品ですから。


 
 
 
 
2005年10月13日
オースン・スコット・カード(小尾芙佐/訳)
『消えた少年たち』上下巻・ハヤカワ文庫SF

 ステップ・フレッチャーは、プログラマにしてゲームデザイナー。家族は、身重の妻と3人の子供たち。夫妻は熱心なモルモン教徒。時代は、アタリからコモドール64、アップル、IBM(PC)へと移り変わるまっただ中。
 ステップがアタリ用ゲームソフト〈ハッカー・スナック〉を大ヒットさせ、フレッチャー家は裕福に暮らしてきた。しかし、アタリの衰退と不景気が重なり、あっというまに転落してしまう。フリーでは生活していけなくなり、ステップは渋々会社務めをすることに。これに伴い、一家はノースカロライナのストゥベンに移り住む。ストゥベンでは、少年が行方不明になる事件が続いていた。
 ステップの就職先は、エイト・ビッツ社。仕事内容はプログラムではなく、マニュアル作成だ。副社長ディッキー・ノーサンジャーは、転落したとはいえ名声を得ているステップに対抗心を抱いていた。
 ステップは、エイト・ビッツ社の主力プログラマ自称ギャロウグラスと親しくなる。ギャロウグラスは、コモドール64用ソフト〈スクライビー64〉を書いた天才プログラマ。しきりにステップの子供たちの世話をしたがるが……。
 ステップの妻ディアンヌは、教会のボランティア活動を通じて地域にとけこんでいく。ディアンヌにとって教会の仕事は天職。親しい隣人ができ、扶助協会の教師としての役割も与えられた。しかし、信者の中にはくせ者も……。
 ステップの7歳になる長男スティーヴンが入学したのは、ウエスタン・アレマニア小学校。スティーヴンは南部訛が理解できず、初日からつまづいてしまう。しかも、担任のミセス・ジョーンズに疎外され、いじめはエスカレート。スティーヴンは空想の友だちと遊ぶようになってしまう。
 スティーヴンの窮状を知ったステップは、担任に直談判におよぶ。それにより学校環境は改善できたが、スティーヴンの空想の友だちは消える気配がない。ディアンヌは精神科医に診せるべきだと主張するが……。

 ラストに涙、涙。
 これがSFに分類されているのは、このラストがあったからでしょうが、それまではふつうの小説。
 多彩な登場人物たちは、この世界で生きていることを感じさせます。なんでも話し合う夫婦。自分のことは自分で解決しようと、いじらしいまでにがんばる子供。親切な大家の父。保身に走る上司。モルモン教の教義を曲解して信仰している若者。その若者を理解しようと精神科医になった母親。
 名作。でも、ちと長い。


 
 
 
 
2005年10月14日
アンドレ・ノートン(小隅 黎/訳)
『大宇宙の墓場』ハヤカワ文庫SF

 デイン・ソーソンは、訓練所を卒業したばかりの貨物係候補生。彼ら新米たちの配属は、公平を掲げる分析機械「サイコ」によって決められる。ソーソンが割り当てられたのは、自由業者の宇宙船〈太陽の女王〉号だった。
 自由業者は、貿易界の底辺層。大企業の宇宙船を夢見ていたソーソンは失望する。ただし、自由業者がおもむく外宇宙には、危険と同時に未知のお宝も眠っているのだ。大企業の決まりきった惑星間航路よりも、将来への希望があるではないか?
 〈太陽の女王〉号は、乗組12人の小さな船。ゆとりこそないものの、船内は高度に運営され士気も高い。ソーソンは貨物区画で、ヴァン・ライク主任にしごかれることに……。
 船長とライク主任は、辺境惑星ナクソスで荷を売りにでかけ、調査局の競売を聞きつけた。競売が辺境でおこなわれるのは異例なこと。そのために参加者が限られ、Dクラスの物件ならば、と一同は色めきたつ。競り落とせば、その世界との通商権が5〜10年間独占できる。全員が大金持ちになれるチャンスだった。
 一同は、仕入れ資金と給料までもつぎこんだ。担当したライク主任は見事に競り勝つが、調査局より与えられた資料を見て愕然とする。
 惑星の名は、リンボー。黄色恒星系にあり、居住可能。しかし、地表は焦土と化していた。惑星を焼き尽くしたのは、はるか昔に滅び去った謎の『先史文明』人たち。かすかな望みは、わずかに残る緑と『先史文明』の遺蹟がある可能性のみ。
 途方に暮れる〈太陽の女王〉号のもとへ、考古学者サルザー・リッチが訪ねてくる。リンボーの北半球に大規模な廃墟があるというのだ。船はチャーターされ、惑星リンボーへと向かうが……。

 ジュブナイル。
 ソーソンが裸一貫になってがんばったり、新米らしい失敗をしたり、仲間のために努力したり。『先史文明』の謎とか、リンボーの原住民の謎とか、解かれることなくそのまんま残された謎もあります。やはりジュブナイルはもっと若いころに読むべきものだなぁ……と。
 おもしろいんですけど、物足りない。


 
 
 
 
2005年10月15日
ジェイムズ・P・ホーガン(小隅 黎/訳)
『断絶への航海』ハヤカワ文庫SF

 2020年。
 人類は、人間の遺伝情報を載せた移民船を〈クワン・イン〉と名付け、アルファ・ケンタウリへと送りだした。居住可能な惑星が見つかり次第、機械たちが人間を誕生させ植民する計画だ。
 〈クワン・イン〉が出発した後、地球では戦争が勃発した。それもどうにか集結し、世界は三大勢力によって分割される。新アメリカ、大ヨーロッパ、そして中国を中心とする東亜連邦だ。
 2040年。
 ついに〈クワン・イン〉から一報が入る。彼らが植民した惑星はケイロンと呼ばれ、計画は順調に進められていた。三大勢力はそれぞれに、恒星船の開発に着手する。新たな世界を自分たちのものとするために。さらに20年後、まっさきに旅立ったのは、新アメリカの〈メイフラワー2世〉だった。
 バーナード・ファロウズは、技術士官。28歳で〈メイフラワー2世〉に乗り込んだ。バーナードは出発時、偉大なる指導者となりケイロンに福音をもたらすことを望んでいた。アメリカの新秩序でケイロン人たちを救い、後から来るヨーロッパ人やアジア人から守るのだと。それから20年。ケイロンまであと3ヶ月と迫った今、当時の決意はもはやない。
 コールマンは、軍人。バーナードの息子ジェイの軍事教練の教官だった。D中隊に属し、演習をくりかえす日々。コールマンは、軍人としての自分に疑問を抱いていた。上官に技術部門への配転を希望するが、却下されてしまう。
 〈メイフラワー2世〉は事前にケイロン人たちと交信するものの、地球人たちは彼らのことが理解できない。ケイロンには、政治機構も管理組織も存在しないようだった。現人口は、予定の1万2000人ではなく、10万人超。彼らはなにかを隠しているのか?
 一行は、予定通り惑星ケイロンへと到着するが……。

 ハードSF。
 ケイロン社会は理想郷として書かれてますが、本当に理想の姿かどうかは、ちと疑問。それはともかく、〈メイフラワー2世〉内部の権力闘争やらが醜く書かれるので、その対比が鮮やかでした。
 分類としては“ハード”SFですが、中心を成すのは機械ではなく人間。身構えてしまう人でも大丈夫……なハズ。


 
 
 
 
2005年10月25日
ロバート・A・ハインライン(森下弓子/訳)
『宇宙の呼び声』創元SF文庫

 カスターとポルックスは、ストーン家の15歳になる双子の天才児。〈悪たれ双子〉としてルナ・シティでは名前が通っている。
 双子は霜防止酸素再吸入バルブを発明して金儲けをするが、その特許使用料を管理しているのは、父のロジャー。利息はたったの3%。双子は、預けてある金を使って宇宙船を購入しようと考える。貿易で儲ける算段だ。ひそかに宇宙船を物色するが、祖母ヘイゼルに嗅ぎ付けられてしまう。
 自称95歳のヘイゼルは、腕利きエンジニア。月の憲章に名を残した〈建国の父〉のうちの一人だ。年老いてなお元気はつらつ。経験に裏打ちされた自信と、冒険心を抱き持ち、元市長であるロジャーも圧倒されてしまっている。
 カスターとポルックスは、祖母と母を味方につけた。双子の弱みは、無制限のパイロット・ライセンスが取得できる歳になっていないこと。計画は家族での宇宙旅行へとすり替わり、ロジャーが宇宙船を購入することに……。
 船は〈ローリングストーン〉と名付けられ、ロジャーが船長の座に就いた。ロジャーは威厳を保とうとするが、オーバーホールを担当することになった双子にないがしろにされてしまう。船長の命令無視は、生死にかかわる大問題。ロジャーは双子に規律をたたきこむ。
 そうして一家は宇宙へと旅立つが……。

 ヘイゼルは『月は無慈悲な夜の女王』に登場した少女のその後の姿。さすがに貫禄があります。
 一家は、双子と祖母、父の他に、母で医学博士のイーディス、姉ミード、読心能力のあるらしい弟ローウェルの面々。これだけの人数がいきなり登場するので、当初はついていくのが大変でした。読了後の今でも、双子の区別がいまいちついてないような……。
 作中、さまざまな事件が起こります。とはいえ、終盤になるまで単調な感じ。事件があって、ドタバタがあって、解決されて……。急展開を迎えるのはラスト近くになってから。さすがの双子も、この大事件には成長せざるを得ない。
 おもしろいんですけど、もう一押し欲しかったような……。


 
 
 
 
2005年10月26日
ジェイムズ・ブリッシュ(砧 一郎/訳)
『地球人よ、故郷に還れ』ハヤカワ文庫SF

 《宇宙都市》シリーズ(全四巻/『宇宙零年』『星屑のかなたへ』『地球人よ、故郷に還れ』『時の凱歌』)の第三巻。
 星間航法スピンディジーの開発により、ニューヨーク市は地球を飛びだした。都市自体が宇宙船として航行をはじめて600年。都市には食料生産能力があったが、ある問題が発生していた。クロレラのタンクで突然変異が発生してしまったのだ。このままでは、食料が乏しくなってしまう。エネルギー源である原油の貯蔵量も減っており、手近の惑星で補給する必要に迫られていた。
 進路にあるのは、黄色矮星。おあつらえ向きなのだが、そこでは三つ巴の戦いが繰り広げられていた。時代遅れとなったハミルトン主義者たち、滅びさったフランタ帝国の生き残りたち、そして地球政府の艦隊が両者を退治しようとしていたのだ。
 ニューヨーク市は、警察から警告を受ける。しかし、そのまま通り過ぎるわけにはいかない。市長アマルフィとシティ・マネージャーのヘイズルトンは、密かにハミルトン主義者たちと接触し、ユートピア星へと降り立つが……。

 4つの中編をまとめて長編にしたもの。そのためエピソードは4つ。三つ巴の星系を立ち回り、宇宙の裂け目の淵で惑星ヒーと契約を結び、密集した宇宙都市の起こした大事件にかかわり、新しい島宇宙でとんでもないものと遭遇する。
 最初の作品が雑誌に載ったのは1950年。その古さゆえか、市長アマルフィの独擅場となってます。アマルフィは600年前から市長をしていて、都市を操縦したり、自ら冒険したり、大忙し。その独断専行ぶりは怖いくらい。
 この価値観の相違が、時代の流れってやつなんだろうなぁ。


 
 
 
 
2005年10月27日
カート・ヴォネガット(浅倉久志/訳)
『ホーカス・ポーカス』ハヤカワ文庫SF

 ユージン・デブズ・ハートキは、裁判を間近に控えた身。容疑は、集団脱獄事件の首謀者。ハートキは、かつて学校であった刑務所内の図書館で、さまざまなサイズの紙片に手記をしたためていく……。
 ティーンだったハートキは、偶然出会った軍人サム・ウエイクフィールドに勧められ、陸軍士官学校に進学した。やがて、けっして冒涜の言葉を使わないことから“説教師”のあだ名で呼ばれることとなる。ハートキは、ベトナム戦争で銀星賞を得、中佐にまで出世した。しかし、復員後の仕事のあてはまったくない。途方にくれるハートキ。そこへ現れたのが、サム・ウエイクフィールドだった。
 ハートキよりも先に退役していたウエイクフィールドは、ターキントン・カレッジの学長に収まっていた。ハートキに用意されたのは、教師のポスト。カレッジの学生は、なんらかの学習不能症か愚鈍、あるいは無気力な若者ばかり。専門教育を受けていないハートキにも充分つとまるものだった。
 カレッジとは湖の反対側に位置するのが、ニューヨーク州立重警備成人矯正施設。後に、脱獄事件がおこる刑務所である。
 ハートキは、カレッジの教師として在職中、刑務所のことはなにも知らずにすごしてきた。そこは自分とは関わりのない世界で、定年退職までカレッジにいるものだと思っていたのだ。それが間違っていたと分かったのは……。

 ヴォネガットお得意の回想記。ハートキは、自分の過去に茶々を入れつつ、書きつづります。カレッジはいかにして誕生したのか、学校がいかにして刑務所に変わったのか、ハートキがいかにして容疑者となったのか、徐々に徐々に明らかにされていきます。
 ヴォネガットの回想記スタイルは、時間の流れが入り乱れることもあって、支離滅裂さが気になることもあるのですが、当作はすっきり読めました。視点がハートキに固定されているからでしょうね、おそらく。
 SFじゃないけど。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■