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2021年の記録
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このページの本たち
時に架ける橋』ロバート・チャールズ・ウィルスン
夜歩く』横溝正史
霧に橋を架ける』キジ・ジョンスン
不滅の子どもたち』クロエ・ベンジャミン
非Aの世界』A・E・ヴァン・ヴォークト

非Aの傀儡』A・E・ヴァン・ヴォークト
そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン
世界のはての少年』ジェラルディン・マコックラン
通い猫アルフィーのめぐりあい』レイチェル・ウェルズ
虎の瞳がきらめく夜』マージョリー・M・リュウ

 
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2021年12月06日
ロバート・チャールズ・ウィルスン(伊達 奎/訳)
『時に架ける橋』創元SF文庫

 ベン・コリアーはタイムトラヴェラーだった。注意深い、任務に忠実な中継地常駐者だった。
 ベンは、1964年からベルタワーの町の郊外に暮らしている。その日は、庭いじりをするつもりだった。
 ところが予期せぬ訪れがあり、ベンはビリー・ガーガロに殺されてしまう。死体となったベンは、屋敷の裏の森の、何年も放置されたままになっている納屋に放置された。
 1989年。
 トム・ウインターは、12年ぶりに故郷のベルタワーに帰ってきた。まだ30歳だが、妻には離婚され、仕事を失い、人生に疲れ切っている。
 トムは両親の遺産の残りをはたき、郊外のを購入した。不動産会社の担当者ダグ・アーチャーは、その家にはおかしなところがあるという。
 その家には、かつてベン・コリアーという男が住んでいた。なにをやっているのか誰も知らず、町にはたまにふらっとやってくるだけ。話しかけると快く相手はするが、決して自分から人づきあいはしない。
 ベンは1980年ごろ姿を消した。不動産税が滞ったため、家は州の競売に出されたのだ。
 家は無人のままだったが、あるとき不法侵入があった。窓を割って侵入した若者たちが、コカイン・パーティーをしたのだ。すぐに見つかってしまったが。
 翌日、警察が現場検証に行くと、家は元通りになっていた。割られた窓は壊れておらず、狼藉の跡も残っていない。何もかもぴかぴかの磨きたてだった。
 やがてトムも、おかしな現象に気がつく。汚れた皿をそのままに外出すると、帰宅するときには皿が洗われているのだ。トムは、自分が狂気に陥っているのか心配になってしまう。あるいは、この家に何かがいるのか。
 調査をはじめたトムは、機械の虫たちがいることを突き止めた。かれらは意識を持っている。そして、地下室に秘密があることを。
 地下室の壁を壊すとトンネルがあった。トンネルを抜けると、1962年5月のニューヨークにたどり着く。トムは、ジョイス・キャセラと出会い、惚れ込んでしまう。
 1989年に帰ってきたトムは、1962年が忘れられずにいた。機械の虫たちは、なにか手を貸してほしいらしい。かれらはトンネルは安全ではないと訴えるが、トムの決意は固い。
 トムは、すべてを捨てて過去へと移住するが……。

 時間SF。
 主人公はトムですが、このトムが問題人物。正直言って、友達にしたくないタイプ。かなり読むのに苦労しました。
 幸い、途中から、物語が入り乱れはじめます。トム以外の登場人物の章もあります。おかげで読むのが楽になりました。
 いろんな人が登場しますが、もっとも人生に起伏があるのは、殺人犯のビリー・ガーガロです。21世紀末の人で、子供のころから未来に至るまで断片的に語られます。

 タイムトラベルは固定されたトンネル経由のため、躍動感はないです。時間ものだと思って読むと、ちょっと違うかな、といった印象。人それぞれの時間が個々に書かれるので、どことどこがリンクしているのか掴みにくい、というのはありました。


 
 
 
 

2021年12月08日
横溝正史
『夜歩く』角川文庫

 《金田一耕助》シリーズ
 屋代寅太は、売れない三流探偵小説家。学校時代からの友達に、仙石直記がいる。ふたりは同郷でもある。
 仙石家は家老の家系。古神家に仕えてきた。
 古神家は、1万五百石ほどの家柄。仙石家のおかげで、江戸時代にはお取り潰しの危機をまぬがれ、御維新も切り抜けることができた。華族界でも有名な資産家となれたのは仙石家のおかげだ。
 そして、大正の大不況時を無事に切り抜けられたのは、直記の父、鉄之進の手腕だった。
 当主の古神織部は、数年前に亡くなっている。現在古神家を統率しているのは、後妻のお柳さまだ。だが、実際には、鉄之進が古神家の主人だった。
 古神家には代々佝僂病の遺伝がある。織部の子、守衛も佝僂だ。守衛に佝僂の症状がではじめたのは、異母妹の八千夜がうまれたころ。
 八千夜を女易者に占ってもらったところ、佝僂にはならないと言われた。ただ、お婿さまになるかたが佝僂だ、と。
 八千夜には、織部ではなく鉄之進の子ではないかという噂がある。ところが鉄之進は、直記と八千夜を夫婦にしたいという。直記にその気はない。
 八千夜は、直記に言わせると、ずいぶん奔放無軌道な女だった。
 その八千夜が、佝僂画家の蜂屋小市と結婚するといい出した。
 蜂屋は、戦後メキメキ売り出した新進画家。佝僂ではあるが秀麗な容貌で、有名な女蕩しであった。
 半年前、蜂屋は謎の女に、キャバレー〈花〉で狙撃されている。蜂屋は右の太股を負傷。狙撃した女は、そのまま身をひるがえしてキャバレーから跳び出していった。
 実は、そのときの女が八千夜だった。気味の悪い手紙を受け取っていた八千夜は、差出人を蜂屋だと誤解したのだ。その後、蜂屋に興味をいだき、結婚話へと繋がっていく。
 八千夜は蜂屋を、東京は小金井のみどり御殿に招いた。八千夜に惚れている守衛はおもしろくない。ふたりは衝突し、無軌道な八千夜もさすがに不安になってきたらしい。と、いってまだ何も起ってるわけじゃないから、警察へ持ち出すほどのことでもない。
 そこで直記が声をかけたのが、寅太だった。
 寅太は快諾するが、訪れて早々に事件が起る。
 離れの洋館で、首のない死体が発見された。ベッドのうえに大の字になっているのは、佝僂の姿。守衛も、蜂屋も、姿を消している。
 寅太は、死体の右の太股にある傷を確認するが……。  

 《金田一耕助》シリーズ長編三作目。
 時系列的には『悪魔が来りて笛を吹く』の後。
 屋代寅太の手記として物語は展開していきます。
 佝僂は不明にして読めずに調べたのですが、せむしのことでした。くる病ですね。現在は、差別語として使用を控えられています。
 シリーズ主人公は金田一耕助ですが、第2章まで、まったく気配がないです。第3章になって、鉄之進が招く形で登場します。(全5章)
 金田一耕助はすでにキャラクターが確定していて余計な説明が必要ないため、本作での探偵役に選ばれたような印象でした。ちゃんと事件を解決させますが。
 なお、タイトルの「夜歩く」とは、夢遊病のことです。八千夜は夢遊病だということで、そのことも含めた背景説明が、冒頭で一気になされます。要領よく自然にまとめられていて、やっぱりうまいなぁ、と感嘆しながら読んでました。


 
 
 
 

2021年12月10日
キジ・ジョンスン(三角和代/訳)
『霧に橋を架ける』東京創元社

 日本オリジナル作品集

「26モンキーズ、そして時の裂け目」
 エイミーは、猿の一団とショーをしていた。ショーでは、猿たちがマジックをおこない、ヒットした映画の真似をする。
 エイミーの大技は26匹の猿を舞台で消すこと。
 消えた猿たちは、あとからツアーバスにもどってくる。エイミーにはまったくわからない。消えた猿たちがどこに行って、なにをしているのか。
 3年前。うつろだったエイミーは、ユタ州特産市で猿の出し物を見た。理由もわからぬままにオーナーに近づいて、どうしてもこれを買わなければならないと言うと、1ドルで売ってくれた。4年前に彼が払った値段だという。
 エイミーは猿たちの秘密が気になって仕方ないが……。

 世界幻想文学大賞受賞作。
 章がとても短く、テンポよく、ふわふわと展開していきます。この後につづく物語も読みたくなる、不思議な読書感でした。

「スパー」(SFマガジン掲載時「孤船」
 彼女とゲイリーが乗る宇宙船は、宇宙のまんまんなかでエイリアンの船と衝突した。ふたりは緊急信号を出したが、救命艇に乗る前に船はまっぷたつ。ゲイリーは死んだ。だが、彼女は生き延びた。
 エイリアンの船も粉々に壊れたが、むこうの救命艇は彼女を救った。救命艇はせまく、隙間がない。彼女とそれはふれあうしかなかった。
 彼女とエイリアンは果てしなく、しつこく、ファックする。エイリアンはヒューマノイドではなく、コミュニケーションもまったくない。
 彼女は、前後不覚に陥っていくが……。

 ネビュラ賞受賞作。

「水の名前」
 ハーラは工学部の三年生。科学はいいが、数学につまずいている。
 ハーラの嫌いな講義がはじまろうとしていた。遅刻しそうで、教室へ走っていると、携帯電話が鳴る。表示は非通知。でると、誰もしゃべらない。雑音がするだけ。
 雑音の変化に気がつき、自分の聞いているのは水音だとわかる。海そのものが話しかけているようだ。海を正しい名で呼べば、囁き以上のことを話してくれるはず。
 その思いつきが気に入ったハーラは、次々と水に関わる名前を列挙していくが……。

 無音電話からはじまった物語が、一気に広がっていくさまが圧巻でした。

「噛みつき猫」
 セアラは3歳。猫を飼っている。ペニーという名前だ。
 みんなはペニーのことを噛みつき猫と呼ぶ。ペニーは、なでると噛みつくこともあれば、なにもしてなくても噛むこともある。セアラには、ペニーの正体が怪獣だとわかっている。
 ペニーを好きなのはセアラだけ。
 ママとパパはいつもおたがいを怒っている。ママたちは離婚するらしい。セアラがペニーのように噛みつくと、人はセアラに気づいてくれる。
 セアラは兄に噛みつくが……。

「シュレディンガーの娼館(キャットハウス)
 ボブはコニーアイランド・アベニューを、車で走っている。傍らには、小さな箱。郵便局からもちかえるところだ。
 箱は、差出人住所のない茶色の紙で包まれていた。赤信号で停まったボブは、好奇心を抑えられなくなってしまう。上を閉じているテープを剥がし、箱を開けた。
 ボブは広い部屋にいた。部屋には複数の人がいる。目の前にはカウンター。バーテンダーがいる。
 ボブは、コニーアイランド・アベニューでカローラを運転していることを思いだすが……。

「陳亭、死者の国」
 科挙を受けた老書生が打診されたのは、死者の国にある陳亭という僻地の県令だった。そのとき、彼の寿命は尽きかけていた。
 死期が近いことはどうにもならない。変えられるのは死後の地位だけだ。死んだ老書生より、死んだ県令のほうがいいのはよくわかっている。
 老書生は陳亭を、すばらしいところだと想像していた。だが内縁の妻の阿蓮は、そこは寒々としているだろうと言う。
 まもなく老書生は死者の国に入り、陳亭に赴くが……。

 本作だけ中華風。

「蜜蜂の川の流れる先で」
 蜜蜂に手を刺された日、リンナは愛犬のサムをつれてドライブにでた。シアトルから東へ足を延ばし、カスケード山脈を越えるだけのつもりだった。気がつけば州を飛び越え、いまはモンタナ州だ。
 前方には入道雲。出発して2日。サムがバックシートでぐっすり眠っているのがいい。
 ジャーマン・シェパードのサムは、年寄りで、死にかけている。脊椎固定の処置をして筋肉が萎縮し、体重が減った。関節炎やほかの病気もある。
 ハイウェイを、州警察がふさいでいた。蜜蜂の川があふれているという。蜂で川ができるということに、リンナは驚く。
 川は黒くて形を変えられる霧だった。南から北へ、見渡すかぎり先まで流れている。リンナは、川をたどる決心をするが……。

 米文学で病気のペットが出てくると、たいてい安楽死がセット。本作でも、安楽死という言葉こそないものの、リンナが意識していることがうかがえます。
 ほんの少しでも長く一緒に過ごしたいから、ずっとドライブしているんでしょうね。蜜蜂の川という不思議な現象と、川の先に待ち受けているものと、哀しいけれど暖まる物語でした。  

「ストーリー・キット」
 作家は、ディドーの物語の構想を練る。
 ディドーは、トロイの王子アエネーアースを描いた『アエネーイス』に登場するカルタゴの女王。作家は夫と離婚したばかり。アエネーアースを失うディドーに感情移入するが……。

 作家の心情を、創作テクニックと絡めてとらえた、ちょっと変わった作品でした。

「ポニー」
 バーバラとポニーのサニーは、〈選抜ガール〉とのカッティング・パーティに招待された。
 すべてのポニーには、羽があり、角があり、しゃべることができる。すべてのポニーは〈選抜ガール〉とのカッティング・パーティで、3つのうちふたつをあきらめなければならない。ただの〈ガール〉が〈選抜ガール〉と仲良くしようとすれば、そうするものだから。
 サニーはしゃべる力を選んだ。飛べるのはすばらしいことだけど、しゃべるほうがずっといい。そもそも角はなんの役にも立たない。
 バーバラとサニーは、会場となる〈トップガール〉の家へ向かうが……。

 ネビュラ賞受賞作。
 キュートな雰囲気ではじまりますが、それは最初だけ。なんともおそろしい話でした。

「霧に橋を架ける」(SFマガジン掲載時「霧に橋を架けた男」)
 キット・マイネンは、霧に架ける橋を建てる責任技術者兼建築家として任命された。
 帝国は、霧の川によって半分に分断されている。
 霧は太陽の下でまぶしく輝き、練り絹のようだ。ただ、表面はなめらかではない。ゆっくりと形を変え、山になったり穴が開いたりする。
 不用意に船をだすと、頂上で座礁したり、穴に落ちてしまったりする。腐食性の霧に触れれば火傷を負い、霧の川特有の怪魚もひそんでいた。
 霧の川に橋を架けられれば、帝国の東岸と西岸が初めて本当につながるようになる。橋の架かる右岸町と左岸町も一変するだろう。
 アトヤールの都は、右岸町側にあった。左岸町から始まる東の地は、東岸の都トリプルの管轄だ。その支配はルーズで、左岸町では霧の橋に反発している。
 キットは、慎重に仕事を進めていくが……。

 ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作。
 工学SF。
 本書の核となる中編。
 キットは、実績があって配慮もできる優秀な人物。船の運航を担うラサリと親しくなります。事故も起こります。それらが淡々と綴られていきます。
 帝国そのものに関しての情報は控えめ。橋の建築についてはアレコレ書かれてます。まさしく地図に残る仕事ですね。

「《変化》後のノース・パークで犬たちが進化させるトリックスターの物語」(SFマガジン掲載時「〈変化(チェンジ)〉後の北公園犬集団におけるトリックスター伝承の発展」)
 あるとき、変化が起こった。人間が自分たちの都合に合わせて形作ってきた哺乳類すべてに影響する変化だった。
 みんな少し話せるようになり、話せるくらいには考えていることをまとめられるようになった。そして人間は奴隷が黙っていたほうがよかったと思い知った。
 ノース・パークには、数匹の野犬が暮らしている。
 もともとの野犬もいるが、ほとんどは元飼い犬だ。みずからやってきたものもいれば、飼い主に捨てられたものもいる。
 リンナは公園におもむき、ときおり差し入れをして、犬たちから物語を聞いた。
 語ってくれるのは、小さな埃色の犬のゴールド。犬たちは、座ったり、腹を土につけて寝そべったりして、ゴールドの物語に耳を傾ける。
 やがて、公園に集まる犬たちが増えていくが……。

 犬の語る物語がたくさん紹介されてます。動物が言葉を獲得したら気味悪がられて遺棄された、というのが基本設定。
 猫は、どこへともなく去っていったようです。さすが猫。

 なお、「蜜蜂の川の流れる先で」と「《変化》後のノース・パークで犬たちが進化させるトリックスターの物語」のリンナは別人。ただし、人物造形などは同一。異なる世界の同じリンナの物語、という趣向になってます。


 
 
 
 

2021年12月14日
クロエ・ベンジャミン(鈴木 潤/訳)
『不滅の子どもたち』集英社

 1969年。
 ゴールド家の4人の子どもたちは、両親とニューヨークで暮らしていた。ヴァーヤ13歳、ダニエル11歳、クララ9歳、サイモン7歳。その日は、7月の蒸し暑い日だった。
 子どもたちはつれだって、ヘスター通りの女に会いにいった。
 その女は、人の運勢がわかるらしい。将来どんなことが起こるか、いい人生になるか、悪い人生になるか。人の死ぬ日がわかるという。
 きょうだいは、ひとりずつ室内に入り、女と話した。
 最後に女と話したヴァーヤは、自分の死ぬ日を知った。2044年1月21日だという。88歳だ。このうえなく幸せな運勢だ。あまりにできすぎたお告げに、憤慨する。
 ヴァーヤはインチキだと思った。女はペテン師だ、と。
 ヴァーヤがきょうだいと合流すると、ようすがおかしい。みんなを遠く感じた。誰も、なにを言われたのかは口にしなかった。
 1978年。
 サイモンは16歳。
 ヴァーヤとダニエルは、家をでて大学に進学している。クララも高校を卒業したらすぐ家を出るという。クララはマジシャンになりたがっていた。
 そんなとき、父のサウルが突然倒れて還らぬ人となってしまう。葬儀のために集まったきょうだいは、ついに、あの日の話をする。自分が死ぬのはいつか。
 ヴァーヤは88歳、ダニエルは48歳、クララが31歳だという。サイモンは、若死にするとしか言えなかった。
 ヴァーヤとダニエルは大学に戻り、クララも予定を変更する気はない。サイモンは、母とふたりで取り残されることに不満を抱く。ゴールド家の後継を押しつけられたように感じていた。
 サイモンはクララから、一緒に家をでようと誘われる。
 実は、サイモンはゲイだった。そのことはクララだけが知っている。クララは、サンフランシスコに行ってもいいと言った。
 サンフランシスコにはゲイの市議会議員がいる。ゲイの新聞もある。ふつうに仕事に就ける。同性愛を禁じる法律はない。
 マンハッタンにもゲイ・クラブはあった。しかし、生まれてこのかた住んできた街で新しい自分になるのは怖い。サイモンは自分のために生きたいと思い、クララと一緒に家をでる決心をする。
 クララは堂々と、サイモンは秘かに準備を整え、ふたりはサンフランシスコへと向かうが……。

 死ぬ日を予言された4人の人生の物語。
 1978年〜1982年のサイモン
 1982年〜1991年のクララ
 1991年〜2006年のダニエル
 2006年〜2010年のヴァーヤ、と区切りながら、その時代の背景を折り込みつつ物語は展開していきます。
 時代だけでなく、ヘスター通りの女の再登場もありますし、サイモンの章で登場した人物がその後も関わってきたりもします。
 死ぬ日を知るって重いですね。きょうだいには信じてないと言っても、忘れることはできない。
 サイモンは、それがいつか知らなかったら家出しなかったでしょうか。もしかすると、知らなかったら死ななかったかもしれない。クララだって、あの結末にはならなかったはず。
 すごく重いです。とにかく考えさせられます。


 
 
 
 

2021年12月18日
A・E・ヴァン・ヴォークト(中村保男/訳)
(ナル)Aの世界』創元SF文庫

 2560年。
 地球では〈機械〉のゲームが開催されようとしていた。
 ゲーム期間中は世界一の大都会が、警察や司法の保護を受けられなくなる。ゲーム参加者たちは、1ヶ月にわたって自分を守らなければならないのだ。
 ギルバート・ゴッセンは、ゲームに参加するためホテルにいた。ホテルからは〈機械〉が見える。〈機械〉は、山のたいらになっている頂上に立っていた。近くには大統領官邸もある。
 ゲームは、部分的に首尾のよかった者には富と地位を与え、トップの栄誉を勝ちとった者には、金星への旅行を約束している。ゴッセンを惹きつけているのは、金星の遠さと、その思考を絶した神秘であり、金星の約束する忘却であった。ゴッセンは精神的な憩いにあこがれていた。
 ゴッセンは、フロリダ州クレス村の出身。村の人口はわずかに300人。パトリシア・ハーディと結婚しており、ふたりでいっしょにゲーム研究を重ねてきた。そのパトリシアは、1ヶ月ほど前に死んだ。
 そんなゴッセンの記憶は、居合わせたクレス村出身者に否定されてしまう。ゴッセンが主張するクレス村の家は、世界的に有名なハーディ家の別荘だという。
 ハーディ家は、ゴッセンの考えているような無名の人たちではなかった。ゴッセンはパトリシアと結婚していない。パトリシアは、地球大統領の娘なのだ。
 詐称で告発されたゴッセンは戸惑い、嘘発見器を使って潔白を示そうとする。しかし、嘘発見器から記憶は偽りだと指摘されてしまう。しかも、自分の素性に気づいていないとも。
 ゴッセンはホテルから立ち退きを求められ、ホテルの保護グループに加わることができなくなった。
 街をさまようゴッセンは、同じく無保護だというテレサ・クラークと出会う。ゴッセンはテレサを助けてやろうとするが、テレサが真実を言っているのかどうか確信は持てない。
 いよいよゲームが始まり、ゴッセンは面接した〈機械〉にアドバイスを求めるが……。

 ワイドスクリーン・バロック系SF。
 ヴォークトの代表作のひとつ。
 16年ぶりの再読です。再読でも、分かった気にすらなれず。もしかると、思いつくまま場当たり的に書いたんじゃないかと疑ってしまいます。
  実際のところは分かりかねますが、改めて冒頭を読み返すと、結末との整合性がとれてない印象。疑問はうやむやになり、ゲームは断ち切れ、トップの栄誉だった金星には一般人でも行けてしまう。
 なので、そのときそのときをおもしろがりながら読める人むけ。そうでないと、こまかいことが気になって楽しめないと思います。


 
 
 
 

2021年12月21日
A・E・ヴァン・ヴォークト(沼沢洽治/訳)
『非(ナル)Aの傀儡』
創元SF文庫

 『非Aの世界』続編。
 金星は、銀河系大帝国の〈赤将軍エンロー〉の侵攻を退けた。そのとき大きな役割を果たしたのが、ギルバート・ゴッセンだった。
 ゴッセンは〈非A〉人。
 〈視床〉型の人間は、感情に支配されている。行為や決意の大部分を、感情の〈型〉にもとづいて行なってしまうのだ。一方、非A式では〈皮質・視床〉操作にもとづいて行なうことができる。
 しかもゴッセンは、予備脳を持っていた。
 地球にいたゴッセンは、金星の仲間と合流しようとする。ところが、 出国管理局のデイヴィッド・ジャナセンに妨害されてしまう。
 ジャナセンは〈影〉から指令を受けていた。
 予知人の〈影〉は、ゴッセンを警戒している。ゴッセンの未来には、妙にかすんだ部分がいくつかあった。わけのわからぬ能力を持った人間などに計画をじゃまされたくない。
 ゴッセンは予備脳を使って金星への船に密航するが、仲間たちは移動した後だった。
 ゴッセンは自分の背後に、チェス勝負の指し手みたいな存在がいると感じている。勝負には相手がいるものだ。ジャナセンも、同じように〈盤〉の上に置かれたのではないか。
 ゴッセンは金星でジャナセンを見つけだし問いつめる。するとカードを渡された。
 カードの表面には、小さく何か印刷されている。ゴッセンは防衛策を用意してから読むが、気がつけばアシャージン王子の身体に入っていた。巧妙に仕組まれていた歪曲機によって移動させられてしまったらしい。
 アシャージン家の継承者は、14歳のときから簒奪者エンローによって囚われの身。エンローの故郷の惑星であり帝国主星のゴーグジッドに連れていかれて11年。ゴーグジッドにおわす〈眠れる神〉の僧侶たちに預けられている。
 ゴッセンは、気の弱いアシャージンを内側から非A式で鍛え上げようとする。
 一方〈影〉は、抜け殻となったゴッセンの身体と対面していた。まったく予想外のことだった。ゴッセンに関しては、未来を見ることができないのだ。
 〈影〉は、意識のないゴッセンを牢屋に入れるが……。

 ワイドスクリーン・バロック系SF。
 ヴォークトの代表作のひとつ。
 16年ぶりの再読です。前作『非Aの世界』を読んでいることが大前提。ただ、つながっているような、つながっていないような、そんな感じです。
 前作はわけが分からない印象でしたが、今作には打倒エンローという目標がある分、理解しやすくなってます。
 ゴッセン自身の活動と、アシャージン王子に入っているときの情報収集と、多面的に語られて、きちんとした結末もあります。


 
 
 
 

2021年12月22日
ピーター・スワンソン(務台夏子/訳)
『そしてミランダを殺す』創元推理文庫

 テッド・セヴァーソンは、大金持ちだった。新進のインターネット関連会社に投資し、アドバイスを与える仕事をしている。会社が有望なら、売却して利益を得ることもある。
 テッドがヒースロー空港のビジネスクラスのラウンジにいるとき、若い女に話しかけられた。見覚えはない。しかし、妻の恐るべき友人のひとりかもしれない。
 テッドがミランダと結婚して3年。
 ふたりはメイン州南岸のケネウィックに旅をして、その地に惚れこんだ。テッドは即決で恐ろしく高額な海辺の土地を買い、家を建てることにした。
 ミランダは、アート&ソーシャル・アクションとかいう学科で修士号を取得している。そのため、建築会社と共同で家を設計する資格があると考えているらしい。
 ミランダはケネウィックに滞在し、工事業者とともに仕事に取り組んでいる。工事全般を委託しているのは、ブラッド・ダゲット。ミランダが、タイル1枚、部品1点もゆるがせにせず工事を監督している。
 つい1週間前。
 テッドは工事中の新居を見に行った。そんな予定は入れておらず、ミランダを驚かせようと思い立ったのだ。そうして、ミランダとブラッドの浮気を目撃することになった。
 衝撃を受けたテッドは、ふたりにかまをかける。ふたりとも冷静そのもの。怪しい点などみじんもなかった。
 ミランダは平然と嘘をつく、薄っぺらなイカサマ女だったのだ。
 そのときテッドは殺意を覚えた。なぜ正直に話してくれなかったのか。話してくれれば、財産を渡すことになっても離婚に応じただろうに。
 テッドが空港で女に話しかけられたとき、ミランダへの怒りがくすぶっていた。
 赤毛の魅力的な女性の名前は、リリー・キントナー。知り合いではないらしい。ウィンズロー大学で、文書保管員をしているという。
 テッドはミランダへの殺意をほのめかしてしまう。本気と思われないようにしたが、リリーは大真面目に同意した。
 ミランダを殺すことは、この世の中のためになる。彼女は負の存在だ。人はみんないつか死ぬのだから、殺したとしてもいずれ起こることを起こしたにすぎない。
 ふたりはすっかり意気投合し、ミランダ殺害計画を練っていく。次第に、テッドはリリーに惹かれていくが……。

 ある種の倒叙ミステリ。
 登場人物たちの独白で展開していきます。
 最初は、テッドとリリー。テッドは現在をベースに回想を織り交ぜるスタイル。ミランダ殺害のために行動します。一方のリリーは少女時代から辿っていきます。
 テッドとリリーの独白は交互にされてますが、リリーから見たテッドについて知れるのはだいぶ後になってから。物語のはじまりはテッドでも、主人公はリリーです。
 リリーはいわゆる異常者。そうでなかったら、人殺しに同意なんてしませんしね。

 本書は、構成の妙がうりどころ。大転換には驚きました。終わり方(今後を書かずに予想させる)も好感度高いです。
 ただ、読み終わって一歩引いて見渡すと、疑問がふつふつと沸いてくるのです。
 そもそも、テッドのミランダ殺害動機が、ちょっと弱い。
 婚前契約があって、あんな不正直な女に財産を半分渡さねばならないのが嫌だ、と。そのわりに金には無頓着なんです。婚前契約の不倫条項の有無も不明。
 どうも、必然ではなく、物語の都合で登場人物たちが動いているのではないか。そんなふうに感じてしまいました。


 
 
 
 

2021年12月23日
ジェラルディン・マコックラン(杉田七重/訳)
『世界のはての少年』東京創元社

 ヒルタ島は、スコットランドの西に位置するセント・キルダ諸島で最大の島。唯一人が住んでいる。
 8月のとある1日。ヒルタ島の3人の男と9人の少年たちは、家族に別れを告げて船に乗った。
 一行が向かうのは〈戦士の岩〉。
 〈戦士の岩〉は、海のただなかにそそり立つ離れ岩のひとつ。船で送ってもらい、1〜3週間ほど滞在する。海鳥の肉や卵、羽や油などを収穫するためだ。危険と背中合わせの大変な猟だった。
 14歳のクイリアムも船に乗ったひとり。
 クイリアムにとって〈戦士の岩〉ははじめてではない。ただ、マーディナのことだけが心残りだった。
 マーディナが、資材や郵便物と一緒に島にやってきたのは2ヶ月前。学校長の妻の姪で、牧師の学校の手伝いをしにきたのだ。
 マーディナが船からおりてきたとたん、クイリアムの心は掻き乱された。3つ歳上のマーディナは明るく、聡明だった。クイリアムが〈戦士の岩〉から帰るころには、もう本土に去っていることだろう。
 〈戦士の岩〉に上陸した12人は、夜明けから日没まで、15時間の重労働をこなした。岩をのぼり、海鳥をつかまえ、網で捕獲し、首をひねり、獲物を運んで保存する。貯蔵塔が次々と満杯になっていく。ヒルタ島へ帰る日が近づいてくる。
 ところが、4週目に入っても船はこなかった。船は潮目と風しだいだが、いくらなんでも遅すぎる。
 ヒルタ島の船はたった一隻。操縦できるのはひとりだけ。なにかあれば、物資を運ぶ船がこちらに寄ることも考えられる。それすらもこなかった。
 クイリアムは、マーディナのことを考えていた。マーディナなら何をいうだろうか。
 クイリアムは年少の子たちを安心させようと、船が故障した話をした。ヒルタ島には木がない。船の修理となると、流木が流れ着くのを待たなければならないのだ。
 それからだいぶたっても、まだ船はこない。
 信心深い少年ユアンが、突然言い出した。みんな上がっちゃったんだと。世界が終わって、だれもが天国で審判を受けている。岩のなかにいる自分たちは取り残されてしまった。
 少年たちは動揺するが……。
 
 カーネギー賞受賞作。児童書。
 クイリアムの独白で物語は展開していきます。
 3人の大人と8人の少年が岩に行って長期間放置されることになるのは実話。ただ、詳しい記録は残っておらず、子どもが9人になるなど大半は創作のようです。
 最大の懸念は冬。寒くて、きちんと眠ることができず、満足に食べられなくて、この先の見通しもまったくたたない過酷な状況。そんな中クイリアムは、マーディナを夢想することで正気を保とうとします。
 猟のようすや、少年たちのひとりが実は少女であることが知れたり、成長したためにブーツが合わなくなってきたりと、盛りだくさん。
 クイリアムの語りからは、独特な島の生活が、厳しくて貧しいことが伝わってきます。それで、現代よりちょっと前の時代っぽいな、と漠然と考えてました。終盤に入りかけたあたりで、1726年〜1727年だと判明します。
 当時の14歳は現代とはちがうはずで、年代は先に知りたかったな、というのが正直なところ。ただ、ヒルタ島からの迎えがこないミステリと考えると、年代は伏せて正解だったか、難しいところですね。

 物語が結末を迎えて、感極まって、涙ぐみながら、次のページは作者か訳者のあとがきだろうと思ってページをめくると、もう1章ありました。このラスト1章で救われた人もいると思います。児童書ですし。

 なお、現在のヒルタ島は無人で、セント・キルダ諸島は世界遺産になってます。


 
 
 
 
2021年12月25日
レイチェル・ウェルズ(中西和美/訳)
『通い猫アルフィーのめぐりあい』ハーパーBOOKS

 《通い猫アルフィー》シリーズ
 アルフィーは通い猫。エドガー・ロードを本拠地にしている。  本宅は、クレアとジョナサン夫婦の家。サマーとトビーという子どもたちもいる。それと、アルフィーが父親代わりの、猫のジョージも。
 ある日、家族同然に交流しているポリーとマット夫妻が、パグ犬を引き取った。ほかの家に行く予定が、ぎりぎりになってだめになったらしい。
 仔犬は、まだ生後2ヶ月。ついている人が必要で、共働きの夫妻には難しい。そこで、クレアが昼間の面倒を引き受けることになった。
 アルフィーは犬に好意を持ったことがない。犬を、脳みそのない猫のようなものだと思っている。ジョージにもずっと、犬は怖いものだと教えてきた。
 ピクルスと名づけられた仔犬は、クレアの家にいる時間が長くなりそうだ。だったら仲良くするしかない。意地悪するのは自分たちがやることじゃない。
 アルフィーは方針転換するが、問題はジョージだった。
 ジョージは注目の的でいるのにすっかり慣れている。子どもたちは、今ではピクルスに夢中。ジョージはへそを曲げてしまう。
 アルフィーはジョージをおだて、ピクルスと仲良くするようにうながしてやるが……。

 シリーズ6作目。
 ピクルス登場のほかは、ジョージが自分のできる仕事を見つけようとコソコソ動きまわったり、新しく仲間になった人が倒れて緊急入院したり。山場となるような大きな事件はなく、小さなエピソードを積みあげていく感じ。
 シリーズ6作目ともなると、軸がなくても成立してしまうものなのだな、と。
 今作で、ついにジョージが仔猫でなくなります。とはいえ、ガールフレンドはまだ早いんだそうで。年齢的に、成熟した大人猫のはずなんですけどね。
 初登場のピクルスは、幼いというより馬鹿っぽいです。ジョージがずっと仔猫をひきずっていたことを思うと、今後も同じ雰囲気でいくのかもしれません。不憫でなりません。


 
 
 
 

2021年12月26日
マージョリー・M・リュウ(松井里弥/訳)
『虎の瞳がきらめく夜』ヴィレッジブックス

 デリラ(デラ)・リースは、金属アーティスト。鋼がその秘密を歌うのを、頭のなかで聞くことができる。
 休暇で北京に滞在しているデラは、蚤の市で、すばらしい刺繍の施された亜麻布を買った。売り手の老婆はおまけとして、デラにからくり箱を見せる。一元でいいと言う。
 デラは一元を支払うが、そのとき、おかしな男から注目されていることに気がついた。デラは男に不信感を募らせる。声をかけられ連れ去られそうになるが、大騒ぎしてホテルに逃げ帰った。
 男の目的は分からない。ただ、からくり箱のことが脳裏を横切った。
 箱は、息を呑むほど美しかった。深い赤茶色の紫檀は磨きこまれ、貴金属が散りばめられている。曲線状の側面には、虎と人間の男の精巧な絵が、いくつか彫られていた。値段のつけようもない逸品だ。
 デラが蓋のからくりをはずしたとたん、世界が揺れた。
 黄金の光が渦を巻き、揺らめき、うねり、夕景色のような色の洪水で部屋を染めている。光はひとつのかたまりに凝縮されていき、音のない雷が走って、ひとりの男が現われた。
 2メートルもの長身に、数々の武器を携えた男。
 赤と金と黒が混ざった不思議な色合いをした髪に目を引かれた。金色をした目は、軽蔑と嫌悪感に満ち、底知れぬ増悪をのぞかせている。何かに対して身構えているようだった。
 男の名はハリ。虎の命を持っていた。2000年前、妖術師に皮を盗まれて虎の姿を失ったうえ、箱の呪いに囚われているという。
 箱自体は人から人へ譲られ、盗まれ、あるいは売り買いされてきた。奴隷であるハリが現われるのは、売買されたときだけ。箱を買い取った人間にしかハリを呼びだすことはできない。
 デラは、ハリに命令をくだすことを拒む。ハリと対等な関係を築こうと考え、心惹かれている自分に気がつく。
 一方ハリは、主人になろうとしないデラの態度に戸惑っていた。たとえデラが命令しなくても、箱の呪いでデラからはなれて生きることはできない。ハリは徐々に、デラに情熱的な感情を抱きはじめる。
 デラが暴漢に襲われ、ふたりはデラが命の危険にさらされていることに気がつく。逃げた暴漢が残したナイフは、デラが作ったものだった。依頼主に配達される途中で盗まれたものだ。
 誰が仕組んでいるのか、デラには見当もつかない。
 そのうえ、ふたりに妖術師が接近してくる。ハリが、とっくに死んだと思っていた相手だ。デラは、蚤の市にいた男だという。
 ハリは妖術師を殺そうとするが……。

 ロマンス小説。
 シェイプシフターもの。
 〈ダーク&スティール〉シリーズ1作目。
 〈ダーク&スティール〉は、探偵社。特殊能力を持っている人たちが集ってます。デラの親族の組織で、デラも一員です。
 身の危険を感じたデラは〈ダーク&スティール〉に助けを求めます。アメリカに帰り、数人の仲間と共に、事件に対処します。

 物語は、デラとハリ、それぞれの視点から交互に語られます。心情を追っていきたいがためでしょうが、ふたりの書き分けは少々甘め。サクサク読んでしまって、誰の視点だったか、ときどき読み返すはめに陥りました。
 前半は、とにかく展開が遅いです。事件が広がりを見せて行くようなタイミングで、まだキャッキャウフフしてる感じ。他に書くべきことがあるだろうに、と思いながら読んでました。
 その分、後半は駆け足気味。デビュー作らしいので、こんなものかな、とも。

 
 

 
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