書的独話

 
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2023年11月08日
猫という動機
 

 8月に「合言葉は【猫】改訂版」を公開しました。
 そこで一旦は、猫が登場する作品チェックは終了しました。
 とはいうものの、猫がいる物語には目がいってます。読んでる最中に猫が登場すると、ニヤリとしてしまうのです。

 モンゴメリの『青い城』もそんな物語のひとつ。
 猫小説ではないです。
 古い家柄に生まれたヴァランシーが、一族の束縛を逃れて幸せを求めるハッピー・エンド・ストーリー。
 猫がでてくるのは、ほんのちょっと。

 猫のことを、ストーリーと絡めてご紹介します。
 オチは書きませんが、中盤を過ぎた後の展開についてもふれます。これから読む予定の方はご了承ください。

 モンゴメリ『青い城』の主人公ヴァランシーは、29歳。
 母と、年配のいとこと一緒に暮らしてます。父はすでに亡くなっているようです。
 とにかく母や一族からの束縛が強烈。
 着たい服は着られず、好きな髪型にもできず、親戚の寒いおやじギャグにもちゃんとつきあってあげなきゃならない。ヴァランシー自身があきらめの境地にあり、命令を受け入れてしまってます。

 最初の猫の話題は、嫌いな針仕事を手伝っているとき。
 ヴァランシーは、はとこが猫にひっかかれて、指が敗血症になってしまった話を耳にします。母であるフレデリック夫人はこんなことを言います。

 猫ほど危険な動物はいませんよ。猫に家のまわりをうろつかれるなんてまっぴらですよ。

 ヴァランシーは猫好きらしく、5年前には「猫を飼いたい」と頼んだことがあるようです。もちろん、却下。それ以来、猫のことは言い出せてません。

 この後ヴァランシーは、心臓の病で長くても余命1年であることを医師からの手紙で知らされます。
 ここで、一大決心。

 これからは自分の思いのままに生きよう!

 ヴァランシーはアベル・ベイの家で住み込み家政婦として働きはじめるのです。
 アベルは大工ですが、常に酔っぱらっていて、あまり評判はよくないです。ただ、ヴァランシーは好人物だと思ってます。妻を亡くし、娘のセシリアとふたり暮らしです。

 セシリアは私生児を生んだため、これまた評判が芳しくありません。赤ん坊は1年で亡くなり、セシリアも肺の病をわずらって臥せっており、余命半年となってます。
 評判が地に堕ちたセシリアですが、病人となると話は別。ヴァランシーは、キリスト教の博愛の精神をたてに、やいのやいの言ってくる親戚たちを退けていきます。

 アベルの家には、とりおりバーニイ・スネイスが立ち寄ってます。バーニイも町での評判は最悪。ヴァランシーは気にしません。それどころか、どんどん親しくなっていき、価値観にも通じるものがあって、やがては恋心をいだくようになります。

 そして、ついにセシリアが亡くなります。
 ヴァランシーが家政婦をする必要性はなくなりました。最後の片づけをしたヴァランシーは、アベルにいろいろと注意を残します。

 ここで、いきなりの猫。
 地下室にいる猫のえさを忘れずに、と。
 地下室があること自体、初出。どんな猫だったんでしょうね。

 さて、アベルの家をでたヴァランシーは、大胆な行動にでます。バーニイに結婚を申し込んだのです。
 第一の理由は、愛しているから。
 第二の理由は、死期が迫っているから。
 同情したバーニイは、条件をつけて受け入れてくれます。

 結婚したあとヴァランシーは、バーニイの家に猫が2匹いることを知ります。
 それが、バンジョーとグッド・ラック。
 猫たちについてのバーニイのコメントは……

 (前略)バンジョーは、大きな、魅惑的な、灰色のものすごいやつだ。もちろん、しまがある。しまのない猫は好かないんだ。バンジョーのように、粋に、効果的にうなる猫はいないよ。やつのたった一つの欠点は、寝ている時のいびきのすごさだ。ラックはきれいな雄の小猫だ。いつも何か言いたそうな、意味あり気な目で人を見つめている。(後略)

 しまのある灰色の大きな猫……。アメリカン・ショートヘアの血が入ってる猫でしょうかね。
 ラックは茶系らしいです。しまについては言及されてませんが「しまのない猫は好かない」のだから、しま模様の猫なんでしょうね。

 考えてみるだけでもかわいらしいですが、この猫たちが、ちょこちょこと登場するんです。
 ふたりの間で寝てたり、風景にとけこんで遊んでたり。

 かわいい。すごく、かわいい。

 猫に対する苦情にはじまり、猫がいたのに登場しなかった残念さを通って、ついに真打ち登場。
 本書は、猫小説ではありません。
 猫の存在が知れてからも、登場するのはほんのちょっと。それでも、猫好きさんたちに向けて言いたくなりました。

 猫をさがしてみて!

 そういう動機をもって読むのも一興かもしれません。

モンゴメリ
『青い城』

 貧しい家庭でさびしい日々を送る内気な独身女、ヴァランシーに、以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた…。悔いのない人生を送ろうと決意した彼女がとった、とんでもない行動とは!? ピリッと辛口のユーモアで彩られた、周到な伏線とどんでん返し。すべての夢見る女性に贈る、心温まる究極のハッピー・エンディング・ストーリー。
(引用:「BOOK」データベース)


 

 
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