書的独話

 
2023年のひとりごと
01月01日 展望、2023年
01月05日 事件の舞台
02月12日 2022年、ベスト
02月26日 FBIの捜査官みたいに見える
03月27日 作家の国籍を調べる
04月10日 日本語再発見
05月03日 世界の不思議な言葉
05月05日 日本人再発見
06月12日 猫文学
06月30日 中間報告、2023年
07月06日 記憶の片隅
08月27日 合言葉は【猫】改訂版
09月29日 文明をつくる
10月23日 史実の物語
11月08日 猫という動機
12月31日 総括、2023年
 

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2023年01月05日
事件の舞台
 

 ごくごくまれに読む雑誌に〈建築知識〉というものがありまして。エクスナレッジによる建築家むけの月刊誌です。
 たとえば、ちょっと前のものになりますが、2020年1月号の特集は「世界一美しい本屋の作り方」でした。本屋さん、いつもお世話になってます。本屋にとって最も重要な什器、本棚についての考察はもちろん、開業資金やら本の流通の仕組みについても取り上げられてました。
 そんな設計には関係なさそうなことにも気を配る建築雑誌、すごすぎます。

 その〈建築知識〉の2020年10月号〜2021年12月号まで連載されていたのが「シャーロック・ホームズの建築」。

 《シャーロック・ホームズ》といえば、アーサー・コナン・ドイルの小説に登場する名探偵です。舞台は、19世紀の終わりごろ。一筋縄ではいかないような事件をホームズが、するどい観察眼で得た情報をもとに解き明かします。
 そのとき現場となるのが、さまざまな建築物。空き家だったり、かつての領主館だったり。

 連載では、作家で翻訳家でホームズ研究家の北原尚彦氏が建築家の村山隆司氏を迎え、事件現場となった建物について、原作の描写や建築用語などから

 できる限り記述に則って「このようなものではなかったか」を考察してみよう

 という趣旨で語られます。
 その連載が、加筆・訂正したうえで本になりました。昨年の話ですが……ようやく読みました。

北原尚彦/文、村山隆司/絵・図
『シャーロック・ホームズの建築』

 シャーロック・ホームズは英国の名探偵である。アーサー・コナン・ドイルの小説のキャラクターで、世界中で探偵の代名詞として知られている。探偵であるからには様々な事件を捜査するわけだが、果たしてその現場となった建物や作中に登場する建物は、具体的にはどのようなものだっただろうか、という疑問がわいてくる。そこで原作の描写や建築用語などを拾い上げ、それらを分析して、できる限り記述に則って「このようなものではなかったか」を考察してみよう――というのが本書の目的である。
(「はじめに」より)

 取り上げられているのは、ホームズが住んでいる〈ベイカー街221B〉からはじまる17軒。
 4つの長編『四人の署名』『バスカヴィル家の犬』『恐怖の谷』『緋色の研究』で事件が発生した4軒と、短編から12軒。(「ボヘミアの醜聞」「まだらの紐」「ぶな屋敷」「入院患者」「アビィ屋敷」「技師の親指」「ギリシャ語通訳」「ウィステリア荘」「金縁の鼻眼鏡」「マスグレイヴ家の儀式書」「ノーウッドの建築業者」「三破風館」)
 建物を考察する趣旨から、トリックに触れられているものもあります。最小限にとどめようという配慮はありました。その分、記憶にない話だと事件の真相が気になって、原作を読みたくなってしまいました。

 作中での建物についての記述が抜きだされ、どういう建物なのか考えてから、絵での提示があります。とてもわかりやすく、《シャーロック・ホームズ》をまったく読んだことがない人でも、楽しめるのではないでしょうか。
 愛読書にしている人も、もちろん。

 ところで、本書で、スコットランド・ヤードの名称の由来を知りました。初代庁舎が設置された場所が、ウェストミンスターにあるスコットランド王家の離宮の庭園(ヤード)だったからとか。
 なるほど〜。


 

 
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