ごくごくまれに読む雑誌に〈建築知識〉というものがありまして。エクスナレッジによる建築家むけの月刊誌です。
たとえば、ちょっと前のものになりますが、2020年1月号の特集は「世界一美しい本屋の作り方」でした。本屋さん、いつもお世話になってます。本屋にとって最も重要な什器、本棚についての考察はもちろん、開業資金やら本の流通の仕組みについても取り上げられてました。
そんな設計には関係なさそうなことにも気を配る建築雑誌、すごすぎます。
その〈建築知識〉の2020年10月号〜2021年12月号まで連載されていたのが「シャーロック・ホームズの建築」。
《シャーロック・ホームズ》といえば、アーサー・コナン・ドイルの小説に登場する名探偵です。舞台は、19世紀の終わりごろ。一筋縄ではいかないような事件をホームズが、するどい観察眼で得た情報をもとに解き明かします。連載では、作家で翻訳家でホームズ研究家の北原尚彦氏が建築家の村山隆司氏を迎え、事件現場となった建物について、原作の描写や建築用語などから
できる限り記述に則って「このようなものではなかったか」を考察してみよう
という趣旨で語られます。
その連載が、加筆・訂正したうえで本になりました。昨年の話ですが……ようやく読みました。
北原尚彦/文、村山隆司/絵・図
『シャーロック・ホームズの建築』
シャーロック・ホームズは英国の名探偵である。アーサー・コナン・ドイルの小説のキャラクターで、世界中で探偵の代名詞として知られている。探偵であるからには様々な事件を捜査するわけだが、果たしてその現場となった建物や作中に登場する建物は、具体的にはどのようなものだっただろうか、という疑問がわいてくる。そこで原作の描写や建築用語などを拾い上げ、それらを分析して、できる限り記述に則って「このようなものではなかったか」を考察してみよう――というのが本書の目的である。
(「はじめに」より)
取り上げられているのは、ホームズが住んでいる〈ベイカー街221B〉からはじまる17軒。
4つの長編『四人の署名』『バスカヴィル家の犬』『恐怖の谷』『緋色の研究』で事件が発生した4軒と、短編から12軒。(「ボヘミアの醜聞」「まだらの紐」「ぶな屋敷」「入院患者」「アビィ屋敷」「技師の親指」「ギリシャ語通訳」「ウィステリア荘」「金縁の鼻眼鏡」「マスグレイヴ家の儀式書」「ノーウッドの建築業者」「三破風館」)
建物を考察する趣旨から、トリックに触れられているものもあります。最小限にとどめようという配慮はありました。その分、記憶にない話だと事件の真相が気になって、原作を読みたくなってしまいました。
作中での建物についての記述が抜きだされ、どういう建物なのか考えてから、絵での提示があります。とてもわかりやすく、《シャーロック・ホームズ》をまったく読んだことがない人でも、楽しめるのではないでしょうか。
愛読書にしている人も、もちろん。
ところで、本書で、スコットランド・ヤードの名称の由来を知りました。初代庁舎が設置された場所が、ウェストミンスターにあるスコットランド王家の離宮の庭園(ヤード)だったからとか。
なるほど〜。