文明が崩壊するのは、SFの定番のひとつ。
サム・J・ミラーの『黒魚都市』では戦争によって、
リン・マーの『断絶』では病気の蔓延によって、
ジョン・バーンズの『大暴風』では地球規模の大災害によって、
ジョン・ウィンダムの『トリフィド時代』では異星人の侵略によって、
ベン・H・ウィンタースの《最後の刑事》シリーズでは小惑星の地球衝突が確実になったことで、
文明が崩壊しました。
小惑星が衝突してしまえば生き延びられませんから、その後の文明復興はあり得ません。そういうことでなければ、地球が生存可能な状態にあるのなら、その後には文明復興が待ってます。
うまくいけば……。
ルイス・ダートネルの指南書は、そういった要望に応える一冊でした。
ルイス・ダートネル
『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』
文明が滅びたあと、あなたはどのように生き残るのか? 穀物の栽培や紡績、製鉄、発電、印刷、電気通信など、人類が蓄積してきた厖大な知識をどのように再構築し、文明を再建するのか? 日々の生活を取り巻くさまざまな科学技術と、その発達の歴史について知り、「科学とは何か?」を考える、世界一五カ国で刊行の大ベストセラー!
(文庫版のBOOK」データベースより)
これは、とてもひとりじゃ無理だ、というのが本書を読んでの感想。
文明を興すためにやらなきゃならないことが多すぎる。あれもしなきゃ、これもしとかなきゃ。そうこうするうち時機を逸したら、原始時代に逆戻り?
そんな過酷な時期に、参考になりそうです。
先人たちの遺産が残されている状況とはいえ、素人がどこまでできるのか。複数人で手分けできると、道が開けるような気がします。
あれこれ指示して、指示してもらって。
そしてひとつの社会が誕生するのですね。
ところで文明を興すのに、壊れてしまったものを建て直すのとは別のパターンもあります。
現代人が過去にタイムトラベルするパターンです。
スティーヴン・バクスター『タイム・シップ』では、過去に飛ばされた男女の一団が、文明を興しました。
L・スプレイグ・ディ・キャンブ『闇よ落ちるなかれ』では、ローマ帝国末期にタイムスリップしてしまったひとりの男が、ヨーロッパの暗黒時代を阻止すべく奮闘しました。
マイクル・ムアコック『この人を見よ』では、キリストの見物にでかけた男が過去に取り残されて……この物語は文明とは無関係でした。
そのための指南書もあります。
ライアン・ノース
『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』
残念です。私たちは紀元前XXXXXX年にいて、タイムマシンFC3000は、完全に故障してしまいました。でも、肩を落とすことはありません! 必要なものは、このガイドに全て載っています。荒野に農業をスタートさせ、初めて電気の明かりを灯し、最初の飛行機で青空を飛び、みずから交響曲を作曲して、文明を、あなたの手に取り戻しましょう! 本書は、皆様にあらゆるモノの発明方法をご紹介する科学本です。
(「BOOK」データベースより)
ダートネルも一般読者向けに、分かりやすく、要点をかいつまんで解説してました。こちらはさらに一歩進んでます。
本書は、顧客に向けてのマニュアル本です。
タイムマシンの故障に遭遇し、過去の時代から帰れなくなってしまったに顧客に寄り添い、安心させて、諭したり、煽てたり、励ましたりしながら導いていきます。
エンタメに全振りしてます。
そんな中でもキラリと光るユーモアの数々。
実際マニュアルを読むはめに陥ったら、心穏やかではいられないでしょうけどね。
輝ける未来を取り戻すのは一代じゃ無理にしても、そのとっかかりは作ったうえで死ねたら本望……なわけないですよね。元の時代に帰りたいですよね。
タイムマシンの作り方も載っていたら完璧でしたが、残念ながら企業秘密のようです。