書的独話

 
2023年のひとりごと
01月01日 展望、2023年
01月05日 事件の舞台
02月12日 2022年、ベスト
02月26日 FBIの捜査官みたいに見える
03月27日 作家の国籍を調べる
04月10日 日本語再発見
05月03日 世界の不思議な言葉
05月05日 日本人再発見
06月12日 猫文学
06月30日 中間報告、2023年
07月06日 記憶の片隅
08月27日 合言葉は【猫】改訂版
09月29日 文明をつくる
10月23日 史実の物語
11月08日 猫という動機
12月31日 総括、2023年
 

各年のページへ…

 
 
イラスト
 
▲もくじへ
2023年09月29日
文明をつくる
 

 文明が崩壊するのは、SFの定番のひとつ。

 サム・J・ミラーの『黒魚都市』では戦争によって、
 リン・マーの『断絶』では病気の蔓延によって、
 ジョン・バーンズの『大暴風』では地球規模の大災害によって、
 ジョン・ウィンダムの『トリフィド時代』では異星人の侵略によって、
 ベン・H・ウィンタースの《最後の刑事》シリーズでは小惑星の地球衝突が確実になったことで、

 文明が崩壊しました。
 小惑星が衝突してしまえば生き延びられませんから、その後の文明復興はあり得ません。そういうことでなければ、地球が生存可能な状態にあるのなら、その後には文明復興が待ってます。
 うまくいけば……。

 ルイス・ダートネルの指南書は、そういった要望に応える一冊でした。

ルイス・ダートネル
『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』

 文明が滅びたあと、あなたはどのように生き残るのか? 穀物の栽培や紡績、製鉄、発電、印刷、電気通信など、人類が蓄積してきた厖大な知識をどのように再構築し、文明を再建するのか? 日々の生活を取り巻くさまざまな科学技術と、その発達の歴史について知り、「科学とは何か?」を考える、世界一五カ国で刊行の大ベストセラー!
(文庫版のBOOK」データベースより)

 これは、とてもひとりじゃ無理だ、というのが本書を読んでの感想。
 文明を興すためにやらなきゃならないことが多すぎる。あれもしなきゃ、これもしとかなきゃ。そうこうするうち時機を逸したら、原始時代に逆戻り?
 そんな過酷な時期に、参考になりそうです。

 先人たちの遺産が残されている状況とはいえ、素人がどこまでできるのか。複数人で手分けできると、道が開けるような気がします。

 あれこれ指示して、指示してもらって。
 そしてひとつの社会が誕生するのですね。

 ところで文明を興すのに、壊れてしまったものを建て直すのとは別のパターンもあります。
 現代人が過去にタイムトラベルするパターンです。

 スティーヴン・バクスター『タイム・シップ』では、過去に飛ばされた男女の一団が、文明を興しました。
 L・スプレイグ・ディ・キャンブ『闇よ落ちるなかれ』では、ローマ帝国末期にタイムスリップしてしまったひとりの男が、ヨーロッパの暗黒時代を阻止すべく奮闘しました。
 マイクル・ムアコック『この人を見よ』では、キリストの見物にでかけた男が過去に取り残されて……この物語は文明とは無関係でした。

 そのための指南書もあります。

ライアン・ノース
『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』

 残念です。私たちは紀元前XXXXXX年にいて、タイムマシンFC3000は、完全に故障してしまいました。でも、肩を落とすことはありません! 必要なものは、このガイドに全て載っています。荒野に農業をスタートさせ、初めて電気の明かりを灯し、最初の飛行機で青空を飛び、みずから交響曲を作曲して、文明を、あなたの手に取り戻しましょう! 本書は、皆様にあらゆるモノの発明方法をご紹介する科学本です。
(「BOOK」データベースより)

 ダートネルも一般読者向けに、分かりやすく、要点をかいつまんで解説してました。こちらはさらに一歩進んでます。
 本書は、顧客に向けてのマニュアル本です。
 タイムマシンの故障に遭遇し、過去の時代から帰れなくなってしまったに顧客に寄り添い、安心させて、諭したり、煽てたり、励ましたりしながら導いていきます。

 エンタメに全振りしてます。
 そんな中でもキラリと光るユーモアの数々。

 実際マニュアルを読むはめに陥ったら、心穏やかではいられないでしょうけどね。
 輝ける未来を取り戻すのは一代じゃ無理にしても、そのとっかかりは作ったうえで死ねたら本望……なわけないですよね。元の時代に帰りたいですよね。
 タイムマシンの作り方も載っていたら完璧でしたが、残念ながら企業秘密のようです。


 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■