書的独話

 
2023年のひとりごと
01月01日 展望、2023年
01月05日 事件の舞台
02月12日 2022年、ベスト
02月26日 FBIの捜査官みたいに見える
03月27日 作家の国籍を調べる
04月10日 日本語再発見
05月03日 世界の不思議な言葉
05月05日 日本人再発見
06月12日 猫文学
06月30日 中間報告、2023年
07月06日 記憶の片隅
08月27日 合言葉は【猫】改訂版
09月29日 文明をつくる
10月23日 史実の物語
11月08日 猫という動機
12月31日 総括、2023年
 

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2023年03月27日
作家の国籍を調べる
 

 あまね書房がスタートしたのは、1998年02月25日。
 当初はフリーウエアを置いていましたが、早い段階から本の記録が現れはじめ、徐々に現在の形に落ち着いていきます。

 あのころは、主に日本の作家の本を読んでました。SFが多めで少しだけ海外SFにも手をだしている、そんな状況でした。
 21世紀に入ったあたりから翻訳ものが増えていきます。日本と海外の割合は逆転し、日本人作家の本を読む機会は減っていきました。
 実は、きっかけがあります。

 あるとき手にとったミステリの舞台が、自分がよく知る町でした。知っているだけに、読みながら具体的に景色が浮かんできます。うれしくなると同時に、現実ではありえないことにも気づいてしまいます。
 おそらく物語の都合上でそうしたのでしょう。詳細は省きますが、どうにも全体がうそっぽく感じられてきてしまったのです。

 フィクションなんですから、作られているのはあたりまえ。それは分かってはいますが、一度気になると、もうとめられません。当該作家にとどまらず、現代日本が舞台になっている本を読むハードルが一気にあがりました。

−−−

 あまね書房に話をもどします。

 2003年11月16日
 名前別のリストの公開を始めました。

 そのころにはまだ人数は多くなく、なんらかの区分けをする必要性はありませんでした。むしろ、分けるとリストがスカスカになってしまう、という状況でした。
 年数を重ねるうちに、わずかに交じる和名が浮いている状態になっていきます。

 2021年04月04日
 作家別リストを改訂しました。

 このとき、日本人作家と、翻訳ものを区分しました。
 これで見やすくなるかと思いきや、ちょっと困ったことが発生します。海外の漢字文化圏の作家さんをどうするか問題です。翻訳ものなので翻訳ものリストに載せてはいても、漢字文化圏なので名前は漢字になります。
 どうしようもないので、そのままでしたが。
 気にしながら、だらだらと時間が流れていき……

 2022年11月、レイナルド・アレナスの『めくるめく世界』を読みました。
 アレナスという作家は、キューバの人です。迫害され、発禁になったり投獄されたりしたのち、アメリカに亡命しました。
 アレナスを語るときには、キューバという国名がついてきます。

 その少し前にも「○○国の作家」といったことが作品についてくるような物語を読んでました。
 たとえば、コロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』。メキシコの作家、ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチ『言葉の守り人』。イラクの作家、アフマド・サアダーウィー『バグダードのフランケンシュタイン』。
 ほかにもたくさん。

 この作家さんは、この国の人ですよ!

 と言いたい気分が高まっていました。
 アレナスを読んだのは、そんな気分のときでした。

 2022年12月
 作家名につづいて国名を補記する試みをはじめます。
 最初は、もちろんアレナスから。ひとりだけ国名があるのもおかしいので、リストの前後の作家についても調べ、最終的には、かたっぱしから調べまくりました。
 その調査については、この後で書きます。
 国名を次々と書きこんでいくうちに、思いはじめます。

 日本人作家も国名「日本」で一緒にしてもいいのでは?

 そこで、日本人作家の名前表記を翻訳ものと寄せるように、カタカナ名字で抜きだしてみました。カタカナにするにあたって念のため読み方を確認すると、失礼にも間違えていた方がチラホラ。
 そこで、名前漢字だけでなく、読み方も併記することにしました。
 そんな作業も終え、国名補記の作業も終わり、

 2023年3月19日
 作家別リストを改訂しました。
 日本人作家と、翻訳ものの区分を廃止しました。

−−−

 では、国名調査の話です。

 たいていの本には、作家についての解説が付されてます。デビュー作や受賞作についてのごく簡単なものもあれば、出身地や近状報告まで、内容はさまざまです。
 アンソロジーの場合は、海外編集だと作家情報が抜けがち。日本オリジナル編集なら、たいていはしっかりとした情報があるようです。読んだのが、たまたまそういう本たちだっただけかもしれませんが。
 それらの作家プロフィールに国名が明記されていれば、採用させてもらいました。

 その他はネット頼りになります。
 とりわけ最大の情報源となったのが、英語版wikiです。日本では短編がひとつ翻訳されただけの作家でも、本国ではよく読まれていて項目がたてられている、ということがあるのです。
 信頼性がどの程度なのか不明ですが、生まれた国やら学歴やらと整合性がとれていれば合っていると判断しました。

 この整合性ですが、生まれたのがアメリカで現住所もアメリカなら、まぁ、アメリカ人だろう、といった具合です。
 中には、断定できない人もいます。

 出生地はアメリカだけど、学校と現住所はちがう人。出生地と学校はアメリカだけど、現住所はちがう人。出生地と学校と現住所がすべて違う人。
 アメリカの大学を出たからといってアメリカ人とは限りませんし、フランスを代表する雑誌を編集しているからってフランス人とは言い切れないのです。
 それで「?」を許容することにしました。確信がもてないときには「?」にすることにして、作業を進めました。

 国名を調べていて、思ってたのとちがってた、ということもありました。
 とりわけアメリカ人で多いのが、〜系という人たちです。

 フランス人だと思っていたら、フランス系アメリカ人だった。ドイツ系アメリカ人だった、ロシア系アメリカ人だった、アフリカ系アメリカ人だった、中国系アメリカ人だった……などなど。
 こういう、いろんな民族がいるところがアメリカの強さなんでしょうね。

 アメリカでいえば、アメリカで生まれてカナダで暮らしている人もチラホラ。
 ベトナム戦争のころに兵役遺棄で移住してそのままカナダで亡くなった人とか。アメリカ国籍は捨てたのか捨てていないのか、カナダ国籍はとったのかとっていないのか。
 二重国籍らしい、という人については併記しました。どっちか判断できず「?」となった人もいます。

 アメリカ人作家の次に読んでいるのは、イギリス人作家です。
 この2カ国は、分類上「英米文学」として一緒にされてます。読めば、両者にちがいがあるのが分かります。とはいえ、ブラックユーモア満載でイギリス人だと思っていたらアメリカ人だった、ということもありますが……。

 イギリスで気がついたのが、イギリスの作家とされているけれど、生まれたのが太平洋の小さな国、というパターン。小さな国で生まれてイギリスの学校をでてイギリスで暮らしている人たち。
 調べてみたら、旧植民地でした。その作家たちが生まれたころには、そこはイギリスだったんです。

 やっかいな問題も、いくつかありました。
 移住もそうですし、実在がはっきりしない人はどうなのか、国境線が変わっていたらどうなるのか、などなどなど。

 今回、ラフィク・シャミをシリアにしました。
 シリアのダマスカス出身なのは間違いないですし、その周辺の物語を書いている作家です。シャミというのは「ダマスクス人」という意味だそうです。
 とはいえ、たいてい「シリア出身のドイツ語話者」という紹介のされ方なので、事情があるかもしれません。

 シギズムンド・クルジジャノフスキイは、ロシアにしました。
 クルジジャノフスキイが生まれたのはキエフ(現ウクライナ/キーウ)です。キエフの大学を出てます。亡くなったときには、モスクワ(現ロシア)に住んでました。
 当時は、キエフもモスクワも、ソビエト連邦というひとつの国でしたから。ちなみに、家系はポーランドです。
 ロシア文学者という紹介のされかたをしているので、今のところロシアにしてます。ロシア語で書いていた、というのもあるのでしょうが、将来、見直しがあったら変更します。

−−−

 キューバのレイナルド・アレナスからはじまった国名調査ですが、けっこう軽い気持ちでした。大多数の人は単純に、どこそこの国の人といえます。ところが、そう簡単ではない人が少なくなかったです。

 奥深さもさることながら、調べはじめてから、今読んでいる作家がどこの国の人なのか、意識するようにもなりました。
 いずれは、国ごとに作家をまとめる、といったこともしてみようと思います。 


 

 
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