2022年の目標も、月に10冊は読む、でした。
10冊とは単純に冊数のことで、上下巻なら2冊となります。そのうえで最終的に年間100タイトルいければ、と。
その結果、110タイトル読むことができました。
2022年は意識して古い時代の本を読んでいた年でもありました。
紀元前の作者不詳『ギルガメシュ叙事詩』を筆頭に、16世紀のフランソワ・ラブレー《ガルガンチュアとパンタグリュエル》シリーズ。
17世紀では、ジョン・バニヤンの『天路歴程 −光を求める心の旅路−』、ウィリアム・ダンピア『最新世界周航記』(書的独話「17世紀、ほぼ海賊の日常」)
。
18世紀は抜かりましたが、19世紀はいろいろ読んでます。
児童書の分野で、ヨハンナ・シュピリの『アルプスの少女ハイジ』、カルロ・コッローディの『新訳 ピノッキオの冒険』。
ミステリだと、アンリ・コーヴァンの『 マクシミリアン・エレールの冒険』、ウィルキー・コリンズ『月長石』。
L・M・オルコットの『若草物語』および続編や、チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』なども。
今回、2022年に読んだ本から自分の中でのベストを選ぶに当たって、古典となっている名作は外しました。どうも読んでいて、ちょっと不満はあるけど○○年の作品だから……などと寛容になりがちで。
どうやったら公平なものの見方ができるようになるのか。
何年やっても難しいです。
それでは、2022年に読んだベスト本をご紹介します。
スザンナ・クラーク
『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル』
魔術が消えて久しい19世紀初頭イギリス。魔術師といえば、昔におこなわれた魔術を研究する理論魔術師たちをさす。そんな中、ついにふたりの実践魔術師が現われた。
長年、稀少な魔術書の研究をしてきたギルバート・ノレルは、自身が定義した魔術を知らしめようと画策する。一方、なんとなく学びはじめた魔術に適性を見いだしたジョナサン・ストレンジは、包み隠さず魔術を広めようとする。
性格も気性も目的もすれ違うふたりは師弟関係を結ぶが……。
全三巻の大長編でした。
もしこの世界に魔術が存在していたら……という物語を読むのも何度目か。本作では、そこからさらに一歩進んで、あったはずの魔術が消えてしまったらどうなるか、そのうえ魔術が復活したらどうなるか、書かれてます。
世界観の重厚さもさることながら、キーマンが〈アザミの綿毛のような髪の紳士〉で、分かりやすさもありました。ふつうに名前がついてたら、誰だっけ? となっていたこと必定。助かりました。
実は2008年の出版で、文庫版はなく、電子書籍化もされてません。すでに新品では手に入りません。
やはり本は、欲しいときに買っておかないとなりませんね。
ジョージ・ソーンダーズ
『リンカーンとさまよえる霊魂たち』
リンカーン大統領の愛息子ウィリーが亡くなった。悲しみに打ちひしがれたリンカーンは、葬儀が終わった後、ひとり霊園に戻る。そうして、白い石の家で横たわるウィリーを抱き上げ、涙を流した。
霊魂となっていたウィリーは、父親の注意をひこうとすぐ近くを動き回る。しかしリンカーンは気がつかない。耐えがたい苛立ちから、とうとう自分の体のなかに入ってしまうが……。
さまざまな人の言葉で語られます。
独白になっていることもあれば、証言、たった一言だけのことも。語る人も、生きていたり死んでいたりさまざま。立場もさまざま。実在だったり虚構だったり想像だったり。
多種多様な言葉がつまっているのにまとまっている不思議。てんてばらばらなのに、あくまでひとつの物語なんです。
特殊な読書体験でした。
タナハシ・コーツ
『ウォーターダンサー』
白人の父と黒人奴隷の母のあいだに生まれたハイラムは、記憶力が抜群で、あらゆることを覚えていられる子供だった。ただ、父によって売り払われた母のことは、思い出せないでいる。
成長したハイラムは、異母兄でもあるメイナードの面倒を見る仕事をさせられていた。川でメイナードが亡くなり、ハイラムは逃亡を決意する。黒人の秘密組織〈地下鉄道〉に連絡をとろうとするが……。
アメリカの奴隷制に、幻想的な要素を持ちこんだ物語。
ハイラムには、自分でも知らなかった秘めた能力があります。それが物語の鍵になってます。とにかく幻想的で、奴隷制の厳しさ、忌まわしさを和らげていたように思います。
事実をありのまま伝えることも重要ですが、読みやすい物語はとっかかりになります。それも重要なことだと思うのです。
本作の前に、オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレッド』と、アレックス・ヘイリー『ルーツ』を読みました。
1979年発表の『キンドレッド』は、現代に生きる黒人女性が奴隷制のアメリカ南部にタイムスリップする物語。
1976年発表の『ルーツ』は、アフリカで生まれ育ったクンタ・キンテからはじまる一族の、苦難の歴史を扱った物語。
まだまだ読むべき歴史がたくさんあります。
最後に、ベストに入れるかどうか迷った挙げ句に外してしまった物語を。
レオ・ペルッツ
『テュルリュパン ある運命の話』
2歳のとき捨てられたタンクレット・テュルリュパンは、成長して床屋になった。夢見がちなテュルリュパンはほんのちょっとしたことから、ラ・トレモイユ家のマダム・ド・ラヴァンが自分の実の母親だと思いこんでしまう。
そのころ、死期を悟ったリシュリュー枢機卿がある陰謀を企てていて……。
リシュリュー枢機卿の企みを嫌った〈運命〉が、どのようにしてテュルリュパンを道化として利用したか、という物語です。わずか4日、というコンパクトさ。詳細を省きながらすばやく場面展開していく疾走感がありました。
最近(2022年)になって翻訳されたため一見すると新しいのですが、発表は1924年。それで外しました。古典となっている名作基準で。
現代作家が書いていたら、また違ったことを思ったかもしれません。長中篇規模なのに登場人物が多すぎて困る、とか。