ミステリィ短編集。
表題作の「人質カノン」は……遠山逸子は深夜の帰宅途中、明かりにひきつけられるようにしてコンビニに立ち寄った。買いものカゴを片手にレジにむかおうとしたまさにその瞬間、フルフェイスのヘルメットをかぶった男が拳銃片手にやってくる。恐怖の体験の中、逸子は笑いそうになる出来事にでくわした。犯人が尻ポケットから赤ちゃん用のガラガラを落としていったのだ。過失か、故意か? なぜガラガラなのか?
他に「十年計画」「過去のない手紙」「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」「漏れる心」を収録。
できれば、一遍一遍ばらして読みたかった一冊。
いずれも宮部みゆき独特の柔らかい語り口で、泣いたり、笑ったり、しみじみしたり。快作ぞろい。
ユーモア・ファンタジィ。
16歳のシャーマン・ポッツは、ある日、別世界・マクガルヴィーランドに転相してしまった。それもただの異世界ではない。そこに住むミスター・マクガルヴィーの家には魔法の図書室があり、図書室からは本の中に入ることができるのだ。
シャームは、現実と、マクガルヴィーランドと、その他無数の世界を転相してまわる。あるときにはドラゴン退治の騎士。またあるときには超能力悪鬼と闘う巡査部長。またあるときには植民船の司令官……。しかし、シャーマンが魔法の図書室にエロ本を持ち込んだことから、本の世界に混乱が生じてしまう。
ファンタジーの皮をかぶったSFといった感じの作品。
世界観をとらえるのが大変でした。でも、おもしろい。
山もの。
登山隊のカメラマンとしてエヴェレストに挑んだ深町だったが、遠征は二人の犠牲者をだして失敗した。深町は、帰国する仲間と別れしばらくネパールに滞在することに……。そして、下町で一台の古ぼけたカメラを手に入れた。
ベストポケット・オートグラフィック・コダック・スペシャル。
登山家マロリーが、1924年、エヴェレストの頂上アタックのときに持って行ったものと同機種だった。それが本当にマロリーのものだとしたら、フィルムを現像すればヒマラヤ登山史が書き換えられることになるかもしれない。
しかし、8000メートルを越える山中にあるはずのカメラがなぜ、ここに?
深町は謎を追ううち、行方不明になっていた幻の天才クライマー・羽生に出会った。
ある意味おもしろく、ある意味つまらない作品。
古典とはそうものなんだろうな、と妙に納得。
中国・武侠小説。
明末の革命児・李自成。その彼を護衛していた四家の末裔たちが繰り広げる、勘違いと欲と裏切りの物語。
おもしろい設定を生かし切れていないような雰囲気。
つまらなくはないんだけど……と口籠ってしまう。
海洋もの。
パリ自然科学博物館のアロナックス教授は、世界中で報告される奇怪な海難事故の原因を「イッカク」であると推測した。そして、退治に赴くエイブラハム・リンカン号に乗船する機会を得る。エイブラハム・リンカン号は長い航海の末ついに怪物と遭遇するが、怪物との衝突の衝撃で教授は海に投げ出されてしまった。
アロナックス教授を追いかけ海に飛びこんだ召使のコンセイユは、やはり海に落ちた漁師のテッド・ランドが避難していたところに教授をつれていく。その浮き島は鉄板でできていた。怪物の正体は潜水艦だったのだ。三人は発見され、潜水艦内に拉致される。
潜水艦・ノーチラス号のネモ(誰でもない)船長は、三人の艦内での自由を約束した。ただし特別の場合をのぞいて。
こうして、海底の大冒険がはじまった……。
まるで海洋教育用小説。
おもしろいところもあるものの、物足りない。
短編集。
表題作の「狐と踊れ」は、ハヤカワ・SFコンテストの佳作。
完全な階級制の社会で、綺(かんた)雄也は、A階への昇級チャンスを得た。しかしそれは、上司の愛娘・美沙の差し金だった。上司父娘、綺夫妻との夕食会の席上、美沙は薬・5Uを忘れてきてしまったことから胃を失う。5Uを飲みつづけないと、人は胃を失ってしまうのだ。雄也の意志とは関係なく強力な後ろ楯となっていた美沙は、サナトリウムに収容されてしまった。
その他「ビートルズが好き」「返して!」「ダイアショック」「敵は海賊」「忙殺」を収録。
奇抜なアイデアはさすが神林長平。
すべてがおもしろいわけではないけれど、おもしろい。
サスペンス。
ある朝、断崖に落下した自動車が発見される。まだ真新しいそれには、四人の男女が乗っていた。栄養士の塩月まつ江、家具店店員の吉川千代子、裁判所書記官の伊東寅太郎、両角学園長の両角公子……四人にはまったく接点がない。そして、運転席には誰も乗っていなかった。状況は計画殺人だが、被害者の全員に、殺害を企てる存在はない。なぜ四人は殺されねばならなかったのか?
書かれたのが1976年だけに、塩月まつ江の娘・令子の口ぶりが古風。
そういった古さも含めて、いい作品。
パニックSF。
新聞記者の山崎は、モスクワ発のニュースにひっかかるものを感じた。中国奥地で、なにかが起こっている……。やがて、宇宙人襲来という事実が明らかになっていく。
国それぞれの利害を抱えたまま、人類は宇宙人と対峙することになる。
裏表紙の内容紹介にある「傑作」はちょっと嘘だと思う。
SF。
ヴァージニア大学都市のサバティカル・クラスの学生達に、メッセージが届く。
「チャーリィを殺す」
級友チャールズの身辺を心配する仲間たち。しかも、似たような事件が世界で三例も報告されていた。メッセージは単純な殺人予告ではなく、人類そのものへの挑戦だったのだ。警察の協力を得た警護もむなしく、チャーリイは事実上死んでしまう。犯人捜しに躍起になる級友たち……。やがて意外な犯人が判明し、"挑戦者"を追いつめていく。
人類は地球の"最終王朝"なのか?
それとも"挑戦者"が"後継者"なのか?
世界に入りきるのに、ちょっと苦労しました。
結末に納得。
幻想的な童話的短編集。
《ムーミン》シリーズ。
ムーミントロールが住んでいる"ムーミン谷"の仲間たちの日常をえがく。
雰囲気が楽しい。