《紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第八巻
マンティコア王国航宙軍のオナー・ハリントンは、対戦国ヘイヴン人民共和国に囚われたものの、部下たちの活躍により脱出に成功していた。その際、巡洋戦艦〈テペス〉を破壊。座乗していた公報省長官コーデリア・ランソムを死に追いやった。
ヘイヴン人民共和国はランソムと共にハリントンも死んだものと受け取っていた。そこでランソムの死去を伏せた上で、ハリントンの処刑を発表。偽の映像を流し、マンティコアは哀しみに打ちひしがれてしまう。
そのころハリントンは、惑星ハデスに降り立っていた。惑星ハデスは、ヘイヴン人民共和国の監獄惑星。戦時捕虜や政治犯などを収容している、もっとも警戒厳重なところ。
人間はハデスの生産物を食べる事ができない。そのため看守は、食料の配給を調整するだけで管理することができるのだ。そのことが逆に、惑星内部の警戒を甘くする結果となっていた。
ハリントンの一行は、要注意人物たちが収監されている〈インフェルノ〉の接触に成功。新たな仲間を経て、ハデスの制圧を計画するが……。
脱出計画に余念かないハリントンと、哀しみにくれるマンティコアと、勢いづいているヘイヴン。さまざまな視点から語られていきます。アンバランスさはないのですが、主役のハリントンにもう少し活躍してほしかったかもな、と。
びっくりするような出来事はなく、かなりストレートな作品ですが、楽しめました。
寛永14年陰暦5月。
長崎の医師外崎恵舟の元に、島原領は南目・有家村鬼塚の庄屋、甚右衛門が尋ねてきた。一帯で童ばかりがかかる傷寒が流行し、死人も出ているという。
恵舟は、大量の薬を持参し診察に当たるが、病に倒れた子供は予想以上。南目では通常の倍の年貢が課され、ただでさえも苦しい生活に飢饉が追い打ちをかけていた。ついに薬が不足する事態に陥るが、村人たちを守るべき代官所によって、長崎に追い返されてしまう。
恵舟を案内して村を回ったのは、矢矩鍬之介こと寿安だった。
19歳の寿安は、なんの罪科もない幼い者たちが犠牲になっていることに強い憤りを抱いていた。南目の村人たちは、棄教したとはいえ性根はキリシタン。ひたすら耐え続けていたが、恵舟ひとりすら守れない大人たちの姿にも、寿安の怒りは向けられていた。
寿安は、かつて教会堂のあった森に立てこもった。多くの子供たちが追随し、騒ぎへと発展する。そんな折り、代官所で出火があり、寿安たちが犯人とされてしまうが……。
寿安の出奔は、やがて島原の乱へと発展していきます。ひたすら耐えていた甚右衛門もついに立ち上がり、村人たちを驚かせます。農業にいそしんでいたとはいえ甚右衛門、かつて朝鮮出兵も経験した猛者。戦いのイロハを知り尽くしてます。とはいえ、世の中なかなか思い通りにはならなくて……。
島原の乱と聞くと天草四郎を思い出しますが、本作の四郎は単なる脇役。甚右衛門の足をひっぱり、あまりいい印象は残りませんでした。
傑作。
『黄金旅風』で活躍した長崎代官の平左衛門がちょこちょこと出てきます。
イグザックスは殺風景な惑星だった。
あるとき、ひとりのザックス人がノパルを発見し、戦争が始まる。対立したのは、ノパルの存在を自覚するトープチュと、ノパルの存在そのものを全否定するチチュミー。彼らは熾烈な戦争を繰り広げ、イグザックスは全土が廃墟と化した。
戦争はトープチュが勝利した。しかし、ノパルの全滅を切望するトープチュの戦いはまだ終わってはいない。ノパルは今でも、本拠地のノパルガースからやってくるのだから……。
一方、地球。
ポール・バークは、ARPA(国防総省高等研究企画庁)の調査研究部、副部長。電話交換手に頼まれて出た電話は奇妙な内容だった。
電話の主は、名乗らず、理由も言わず、とにかく一流の科学者と会いたいの一点張り。バークには気が触れているとしか思えない。だが、オフィスに送られてきた小包を開けて、バークは決心する。小包には、人類がまだ成し得ていない無重力の円盤が入っていた。
バークは指定されたところへ出向くが、待っていたのはザックス人だった。バークは、強制的にイグザックスへと連れ去られてしまう。
ノパルガースとは、地球のこと。ザックス人たちは、地球人にノパル退治をやらせようと考えたのだ。そうして連れてきたのがバークだった。
バークは、金塊とノパル袋を与えられ、厄介な寄生者ノパルの絶滅に協力するよう脅しをかけられるが……。
はじめて翻訳されましたが、元はと言えば、1966年の作品。とにかく古いです。ノパルやノパル袋など、謎ときの要素もあって、おもしろくないわけではないですが、この古さはいかんともしがたく。
昔ながらのSFが読みたいときにはいいのですけど……。
『彷徨える艦隊 −旗艦ドーントレス−』『彷徨える艦隊2 −特務戦隊フュリアス−』の続編。
アライアンス(星系同盟)艦隊は、シンディック(惑星連合)の罠にかかり、帰還するため放浪の旅を続けていた。率いるのは、救命ポッドで100年ものあいだ漂っていたジョン・ギアリー大佐。
ギアリーは、自分を英雄視する艦長や乗組員たちに戸惑いながらも最善を尽くしていた。しかし、そのことが予想外の事態を招くことになってしまう。
艦隊の物資はAIによって管理されていたが、計算誤差が発生してしまったのだ。それというのも、ギアリーが指揮を執って以降、艦隊の損害が大きく減ってしまったから。AIが参照している過去のデータでは、もっと多くの船を失っているはずだったのだ。
艦隊は、新たな補給ポイントを捜すことになるが……。
前の二作から、それほど進展はないです。ギアリーに楯つく艦長たちは減ったけれども、皆無になったわけではなく。ちらつく未知の種族の影は、多少は形になってきたものの、やはり憶測の範囲をでてない状況。
ギアリーの内証が激しいので、英雄ものにありがちな嫌味なところはありません。そこはいいな、と思うのですけれど……。
そろそろ謎の一端を垣間見たいです。
2009年08月15日
ジョン・スコルジー(内田昌之/訳)
『最後の星戦 老人と宇宙(そら)3』
ハヤカワ文庫SF1716
《老人と宇宙(そら)》シリーズ第三作
ジョン・ペリーはコロニー防衛軍を退役し、惑星ハックルベリーで監査官を務めていた。家族は、治安官を務める妻ジェーンと、養女ゾーイ。そして、ゾーイの保護者となっているオービン族のふたり。
ある日ハックルベリーに、コロニー防衛軍のリビッキー将軍がやってきた。ジョンとジェーンは、新たに誕生する植民惑星ロアノークの指揮者になるよう、説得される。すでにハックルベリーで暮らして7年。生活の基盤を築き上げてきたふたりは躊躇したものの、同意。あわただしく準備が始まる。
ロアノークはコロニー防衛軍の発表によると、どこかの種族から奪い取ったものではなく、譲り受けたものだった。ところが、ゾーイ付きのオービン族ふたりはこれを否定。彼らは多くを語らないが懸念を感じているらしい。
やがて、植民船の第一便が出発するが、到着したのはロアノークではなかった。
未知の惑星に取り残されたジョンたちは、生き残るために奮闘するが……。
三部作のとりあえずの完結編。
この一冊でひとつの物語になっていますが、ゾーイとオービン族の関係など、前作『遠すぎた星 老人と宇宙2』で語られたことも随所に登場。思い出しながらの読書となりました。
ジャンルとしてはミリタリーもの、ということになるのでしょうけど、どちらかと言えば、開拓もの。星間戦争があり、コロニー防衛軍の暗躍があり、それらに巻き込まれていく植民者たち。
ジョンが大活躍しますが、お歳ゆえか、落ち着きと安定感があって頼もしいです。シリーズの中で、一番、読んでいて楽しかったです。
なお本国では、本作をゾーイの視点から語り直したシリーズ第四作が発表されているそうです。
出版後(1996年)まもなく読んで、これを訳した浅倉久志が好きになった作品集。
「ナイチンゲールは夜に歌う」
遠い昔。
時間というものが発明されていなかったころ。名前というものが見いだされていなかったころ。
あとになってデイム・カインド(母なる自然)と呼ばれることになる存在は、さまざまなことを思いつき、あらゆるものを創り出した。森のすべてがデイム・カインドの思いつき。彼女は日々思いつき、森を歩き、生き物たちの世話をしていた。
あるときデイム・カインドは、新しい思いつきをした。それは、二本足で立つ、誰も見たことのない生物。女の子と、男の子だった。
この新しい思いつきは、名前をつけるということを思いついた。それまで、思いつけるのはデイム・カウンドだけ。デイム・カウンドは、この新しい思いつきに大満足。しかし、いつでも一緒にいられるわけではない。
デイム・カウンドはふたりに、月とは話をしないように言い含めて立ち去るが……。
旧約聖書のエデンの園が舞台になった物語。
エデンの園に人間の男女がでてくれば、行き着く先は想像つきますが、そこにナイチンゲールの物語が絡んできます。
デイム・カインドの森では昼に歌っていたナイチンゲール。やがて夜に歌うようになって、ナイチンゲールと名づけられます。そのいきつきとは?
とても美しい物語でした。
「時の偉業」
カスパー・ラストは、タイム・マシンを発明した。天才肌で、束縛されることを嫌い、しかし金の必要性も感じていたカスパーは、一度だけ時間を旅する。それは、誰にも怪しまれず、世界の歴史を変えることもない、ささやかな計画……のはずだった。
帰還して一週間。カスパーの元に、〈異胞団〉の臨時総裁がやってきた。時間旅行にかかわる知識を譲るように、と。
時間の流れの中で、譲渡はすでに行われている。だからこそ、臨時総裁はやってこれた。ゆえに、譲渡はなされなければならない。
こうして〈異胞団〉は、時間を旅する技術を手に入れた。
〈異胞団〉を設立したのは、セシル・ローズだった。若死にしたローズは、厖大な財産をすべて遺贈した。いかなる手段を用いても大英帝国を維持し拡張することを目的とする秘密結社、すなわち〈異胞団〉に。
しかし、別の時間軸ではローズは若死にせず、財産を目減りさせた挙げ句、自身の母校に遺贈してしまう。そうなれば〈異胞団〉は存在できない。結社の面々は、過去にさかのぼってローズを暗殺する計画を立てるが……。
世界幻想文学大賞受賞。
歴史改変物語。
〈始原状態〉を元に、よりよい世界を作るべく暗躍する〈異胞団〉。その臨時総裁と、〈異胞団〉にスカウトされる小役人のデニス・ウィンターセット。さまざまな要素が絡み合い展開していきます。
詩的でした。
「青衣」
ヘアーは、青衣の幹部団の一員。
青い制服は、衣食住と助力を意味している。人民という支配者の下僕なのだ。しかし人民は、下僕を支配者とかんちがいしている。
ヘアーの仕事は計画部において、行動場理論と社会数学の訓練用マニュアルを作成すること。ヘアーにはその才能があったが、徐々に仕事が進まなくなってしまう。
ヘアーは疲労し、やがて体制から落ちこぼれて行くが……。
ディストビア作品。
「ノヴェルティ」
酒場のカウンターに腰かけたとき、だしぬけに小説のテーマが天下ってきた。そのテーマとは、
新奇なものと堅実なもののはざまで感じる、あの相反する引力。
かつて、小説の映画化権が売れたことがあった。けっきょく映画にはならなかったが、ある程度の金をかせぐことはできた。
彼は、かつてのように小説を書こうとするが……。
映画化された「2001年宇宙の旅」(監督:スタンリー・キューブリック)の製作過程の小話と、採用されなかった作品など。
クラークのエッセイもありますが、大半は、日の目を見ることのなかった出来事たち。
人類の夜明けに地球にやってきた異星人クリンダー。ロボットとして宇宙飛行士たちをサポートするソクラテス、またはアテーナ。スター・ゲートの向こうで待っているものたち。
小説として頭から終わりまで掲載されているわけではないので、ある程度の予備知識が必要かもしれません。映画のストーリーとか、エピソードとか。
幸い、断片が記憶に残っていたので、大いに楽しめました。
(参照『2001年宇宙の旅 −決定版−』)
〈幽冥界〉は、混沌(アナーク)王によって治められていた。その下にあって法を司っているのは、護法四王家。そのうちのひとつ魔狼一族の長は、裏切り者として〈現世界〉へと追放になっていた。
あるとき、汎魔殿に納められていた晦冥四神器のうち3つが何者かに奪われてしまう。さいはての暗黒に〈晦冥界〉はあり、そこは最も下級な鬼たちの巣くう邪悪な空間。神器を奪った者の目的はおそらく、〈晦冥界〉への道を通すこと。
幸い、最後のひとつ〈炎帝〉は難を逃れていた。それというのも、魔狼王の魔杖として、共に〈現世界〉へと追放されていたため。しかし、危機的状況であることに変わりなく、混沌王は、魔狼王を〈幽冥界〉に呼び戻すことを決める。
一方〈現世界〉にいる魔狼王は、記憶を失い、陣内焔(ほむら)として高校に通っていたが……。
漫画です。
昔、半分程読んでいて、最近になって結末が気になりだしたので、一気に読んでしまいました。
漫画雑誌に連載されていた作品ですが、連載期間は、中断なども挟んで、実に10年11ヶ月。それだけ長期にわたった弊害か、やや辻褄の合わない箇所がチラホラ、と。
細部をつめずに始めてしまったのか、途中で設定が変わったのか。それとも、すべてを書ききれなかったためにおかしなことになってしまったのか。
もったいないことです。
中国・戦国時代。
僕延(ぼくえん)は、斉の公子・田嬰(でんえい)の邸の使用人。ある日、槐の木の下で女のすすり泣きを耳にした。
泣いていたのは、田嬰の妾の青欄。青欄は男子を産んだのだが、産まれた日付が不吉な五月五日であったがために、田嬰に始末するように言いつけられてしまったのだ。
さめざめと泣く青欄をあわれに思った僕延は、赤児をかくまうことを申し出る。田嬰の子・文は、ひとまず射弥(えきや)の家に預けられた。
実は僕延、田嬰邸で働いているものの、実際に仕えているのは射弥。射弥は、田氏によって追い払われてしまった姜氏を主君として敬っており、田氏を憎んでいる。
隠匿は首尾よくいったものの、そこに悲劇がおそいかかった。射弥の家が何者かの襲撃を受けてしまったのだ。
僕延が様子を見に行ってみると、射弥の一家は殺害され、赤児は姿を消していた。そのことを知った青欄は、僕延に資金援助し、わが子の捜索を依頼する。
実は、田文は、射弥襲撃計画をたまたま耳にした風洪(ふうこう)によって助け出されていた。ふたたび絶命の危機を脱した田文は、風洪に連れられ、斉を脱出。風洪はのちに白圭と改名し、大商人として成功をおさめる。白圭によって育てられた田文は、のちに孟嘗君と呼ばれ名宰相となった。
一方、文と同じように射弥の家にかくまわれていた赤児がいた。姜氏の息女なのだが、たまたま姉を尋ねてきた射弥の義弟・隻真によって助け出されていた。隻真は、姉の一家を殺害した首謀者を田嬰と思い、復讐に燃えるが……。
とりあえず主役は、孟嘗君。
さまざまな人生が交錯して、最終的に孟嘗君でひとつにまとまっていきます。ゆえに孟嘗君が主役といえると思うのですが、全体の半分以上を占めていそうなのは、育ての親の風洪こと白圭の逸話。
どういう親に育てられ、どんな師匠がいるのかを知らしめることが同時に、孟嘗君の人となりを知らしめることになる。それはそうなのですが、少々バランスが悪いかな、と。
影響を与えた人たちが丁寧な分、孟嘗君のことはわりとあっさりしていて、なんだか付け足しに思えてしまいました。
文章がやわらかく、読みやすくはあります。
『トランスフォーマー』の続編。(前日談に『トランスフォーマー ゴースト・オブ・イエスタディ』があり)
ミッションシティでの戦いから2年。
オールスパークは破壊されたものの、デストロンの残党狩りはいまだ続いていた。コンボイ総司令率いるオートボット(サイバトロン)たちは、人間たちと協力して排除にいそしむが、世間に隠すのが難しくなってきていた。
アメリカの国家安全保障担当補佐官は、オートボットの存在そのものがデストロンを引き寄せていると非難。協力体制の解除を申し出るが……。
一方、ミッションシティでめざましい活躍を見せたサム・ウィトウィキーは、大学生になっていた。かつては月並みの成績の持ち主だったサムも、今では天才児。コンボイの協力依頼を断り、ふつうの人間として生きる道を選ぶ。
ところがデストロンは、サムの脳にある情報を見逃さなかった。実はサムの脳には、オールスパークの欠片が持っている情報が流れ込んでいたのだ。コンボイを破ったデストロンは、サムを差し出すように、人類に要求を突きつけるが……。
映画「トランスフォーマー/リベンジ」のノヴェライズ。続編ということもあり、多少の予備知識がいるかもしれません。
まだ映画は観ていませんが、映像になったところを想像しながら読んでみて、なかなか楽しめました。