自分が読書家かどうかというのは、なかなか断言しにくい問題です。とりあえず年間100冊は読んでますが、児童書も混じってますし、読んだ内容があまり身についているとも思えず……。
それでも、細々と本を読んでいる身としては、
読書家必読
などという推薦文には惹かれてしまいます。
そんなわけで、読みました。
モリー・グプティル・マニング
『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』
第二次世界大戦終結までに、ナチス・ドイツは発禁・焚書によって一億冊を超える書物をこの世から消し去った。対するアメリカは、戦地の兵隊たちに本を送り続けた―その数、およそ一億四千万冊。アメリカの図書館員たちは、全国から寄付された書籍を兵士に送る図書運動を展開し、軍と出版業界は、兵士用に作られた新しいペーパーバック"兵隊文庫"を発行して、あらゆるジャンルの本を世界中の戦地に送り届けた。本のかたちを、そして社会を根底から変えた史上最大の図書作戦の全貌を描く、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーの傑作ノンフィクション!
(「BOOK」データベースより)
まさに、本を愛するすべての人に。
第二次世界大戦でアメリカは、武力だけでなく、心理戦でも勝利をおさめた、と。その記録です。
1933年、ドイツで焚書が行なわれました。
ナチスの利益にならないと判断された本が燃やされたんです。その様子はラジオで生中継され、さらには焚書を撮影した映画が作られて、ドイツ全国に拡大していきます。
大学の図書館から集めた本、家宅捜索で個人から没収した本が次々と燃やされました。ドイツだけでなく、征服した他の国々でも、非ドイツ的とされたたくさんの書籍が奪われました。
ナチスが敗北するまでに、一億冊(推定)に上るヨーロッパの書籍が葬り去られたんです。
アメリカは、ヨーロッパとは海を隔てて遠く離れています。ですが、戦争は軍隊だけのものではありません。心理戦に距離は関係ありません。
ドイツはアメリカに対しても、プロパガンダ作戦を決行していました。アメリカは攻撃にさらされていたんです。
その実態が報道機関によって暴かれると、対抗する動きがでてきます。そうしたプロパガンダに立ち向かう組織のひとつが、アメリカ図書協会(ALA)でした。
アメリカの図書館員たちは、ドイツが行なう〈書物大虐殺〉に対抗し、軍のために書籍を寄付するように国民に求めました。
戦勝図書運動です。
最終的に1000万冊の本を集め、仕分け、軍に供給しました。ただ、戦勝図書運動にも問題はありました。
寄付される書籍の数には限界があり、役に立たないものも少なくなかったんです。それに、内容はよくても、重くてかさばるハードカバーの本は、戦場でなくても持ち歩くのには不向きです。
戦勝図書運動は終わりを迎えます。
ですが、本の戦いは終わりません。
パールハーバーの攻撃を受けたころ、戦時図書審議会が発足します。
兵士には、簡単に手に入り、心を慰め、士気の維持に役立つものが必要でした。戦争を戦い抜く勇気と不屈の精神を持てるもの。新たな未来の希望と、ひと時の安らぎを与えてくれるものが。
こうして、兵隊文庫が生まれました。
兵士たちは、あらゆる場面で読みふけったそうです。輸送艦の中で、塹壕の中で、攻撃の合間に、負傷して入院中に。
戦後のアメリカでは、高い教養を持つ中産階級層が出現します。その土台となったのが、兵隊文庫を愛読していた兵士たちでした。読書習慣が身についていて、戦後の優遇措置も手伝って多くが大学に入学したのです。
本って最強。
第二次世界大戦が舞台になっている物語はいくつか読んでます。ですが、ほとんどがイギリス視点でした。ロンドン大空襲、ダンケルク撤退作戦、ブレッチリー・パーク……その他諸々。
兵隊文庫のような本はでてきませんでした。
それもそのはず、イギリスはできなかったんです。空襲で、多くの出版社の倉庫やオフィスが破壊されたために。
1億4000万冊を送れたのは、アメリカの立地ゆえ。さらには、関係者の不断の努力があったればこそ。本の持つ力に、感激もひとしおです。
(これは負けるわけだ…とほとんどの日本人が思ったはず)
日本はどうだったんでしょう。
やろうとした人はいたのでしょうか。気になります。