書的独話

 
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03月18日 英国辞書史の裏
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05月26日 言文一致体と夏目漱石
06月20日 合言葉は【火星】
06月23日 ようやく、2000
06月30日 中間報告、2021年
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11月23日 ある奴隷の一生
12月13日 バッタ博士の3年間
12月31日 総括、2021年
 

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2021年06月20日
合言葉は【火星】
 

 S・J・モーデンの『火星無期懲役』を読んだとき、『火星の人』の便乗企画と聞いていたけど、むしろ『火星縦断』の方が近い、なんて思ってました。

 『火星の人』は、火星にたったひとり残された男の話。孤独とはいえ、性根がポジティブゆえに、とにかく明るい。
 『火星縦断』は、火星に孤立した人たちが脱出を図る話。登場人物たちそれぞれに過去があり、対立があり、ちょっと暗め。死人も出ます。

 でも……火星ものって、他にもあるよね?

 と、気がついて、火星テーマでピックアップしてみました。
 ところが、一覧の制作をはじめたものの、ずっと本棚にあるレイ・ブラッドベリの『火星年代記』が航本日誌で見つからず。フィクションをすべて記録し始めたのは2001年からなので、、その前までに読んでいたうえ、読み返していなかったようです。
 この機会に再読しました。
 古いけれど、別格です『火星年代記』は。

 記憶をもとに、一言ずつコメントを付記してあります。今回は、まったく覚えてない作品が少なくないです。覚えていても、勘違いしている可能性もあります。
 すぐ読み直せるものもあれば、手放してしまったものもあります。『火星年代記』はリストに加えるために再読しましたが、その他は、一律、不確かな記憶をもとに書いてます。
 参考までに、読了した年を併記しました。複数回読んでいる場合は、最後に読んだ年にしてあります。

 また、テーマが「火星」ですが、火星軌道上のものは入れてません。火星に行く(舞台は宇宙空間)話や、火星人は出てくるけど火星舞台じゃない物語もはぶいてます。
 ご了承ください。

 
あ〜

■『あなたの魂に安らぎあれ』神林長平
 2001年の読了本
 火星の地下都市・破沙空洞市と、地上の門倉京が舞台。地表は放射能に汚染されていて、人間は地下に閉じこもってます。地上にいるのは、人間に奉仕するアンドロイドたち。
 終末が近いかも……という雰囲気らしいのですが、すみません。まったく覚えてません。

■『いさましいちびのトースター 火星へ行く』T・M・ディッシュ
 2007年の読了本。
 自意識のある電気器具たちが大活躍するメルヘン。地球舞台の『いさましいちびのトースター』の続編です。
 かつて、ポピュラックス製の電気器具たちが、海上輸送中に消える事件がありました。トースターと仲間たちは、火星にたどりついた彼らが地球侵攻を企てていることを知ります。
 みんなで火星にかけつけて、侵攻をやめさせようとします。
 火星に行くまでも紆余曲折があり、火星に到着してからもいろいろあった……はず。

■『宇宙人フライデー』レックス・ゴードン
 1997年の読了本。
 〈地球人ライブラリー〉という業書の一冊でした。〈地球人ライブラリー〉は読みやすさ重視のシリーズで、おそらく抄訳ではないかと思います。
 火星への有人飛行の最中に事故が起こり、ひとり生き残った男が、着陸した火星で生きのびようとします。火星の大気は薄く、生物は昆虫とかわずかな植物だけ。そんなところで火星人と出会います。
 作者は1917年生まれ。1920年生まれのブラッドベリも『火星年代記』で、大気が薄い火星を舞台にしています。当時はそういう認識が一般的だったのでしょうね。

■「SFパズル・医師のジレンマ」マーチン・ガードナー
  収録『さようなら、ロビンソン・クルーソー』(海外SF傑作選)
 2005年の読書。
 舞台は火星植民地。あまりSFらしさはなく。火星らしさもなかったような……。おそらく、物資が容易に調達できないところ、ということで火星上に設定されたのだと思います。
 

か〜

■『火星縦断』ジェフリー・A・ランディス
 2013年の読了本。
 火星で遭難してしまう話。
 第三次有人火星探査隊が5人の人間を火星に送りこんだものの、帰還船の故障で火星に立往生。そもそもが資金不足で、予備などあるはずもなく。
 唯一の頼みの綱が、第一次探査隊の船。隊員が全滅したために残されていたもので、使える状態かは分からない。船が鎮座している6000キロ彼方に向けて、一行は火星縦断します。
 著者はNASAの現役研究者。火星でのトラブルは当時の最新研究成果のもとに書かれているらしいです。
 実は、第一次探査隊の船は定員2人なんです。たどり着いて船が使える状態でも、2人しか帰れないんですよ。話が暗くなるのも分かる。

■「火星人の方法」アイザック・アシモフ
  収録『火星人の方法
 2004年の読了本。
 火星の水をめぐる話。火星に暮らす人たちが地球人をギャフンといわせた……ような。

■『火星転移』グレッグ・ベア
 2011年の読了本。
 《ナノテク/量子論理》シリーズの第三作。それぞれがほぼ独立している物語群で、今作は火星が舞台。
 火星の自然も出てきますが、政治ものという印象が強いです。
 火星には中央政府がなく、いくつかの結束集団の利益代表が集まった合同議会が主導権をにぎってます。統一窓口の必要性が高まっていくのと同時期に、革命的な物理理論が発見されたことで、火星と地球の関係が激変します。
 タイトルを見ると結末を思い出します。

■『火星年代記』レイ・ブラッドベリ
 2021年の読了本。
 火星を舞台に、短いエピソードを積み重ねた年代記。1999年1月〜2026年10月の時期のもの。
 火星人も出てきますし舞台は火星ですけれど、地球人の年代記という雰囲気もあります。地球でのことは火星にも影響を与えるので。
 〈新版〉には、新たな序文と短篇がふたつ加わってるらしいです。

■「火星の王たちの館にて」ジョン・ヴァーリイ
  収録『残像
 2002年の読了。
 タイトルから火星の話だろうと思うのですが、まったく覚えておらず。読了当時は、短編集は一部の短篇にしか言及していなかったので記録もなし。
 調べてみると、初の火星探検隊の物語で、火星に立往生してしまい、火星人の作った植物で生き延びようとする……らしいです。

■『火星の砂』アーサー・C・クラーク(2008/9)
 2008年の読了本。
 有名SF作家が、火星への定期便の処女航海に招待されて火星に行く話。
 火星でなにかあるんですよね。なんだったか思い出せないけど、なにかあったことはうっすら覚えてます。
 クラークは、主人公のSF作家に自分を重ねていたでしょうね。残念ながら、不定期便どころか、いまだに誰も行けてない状況ですが。

■『火星のタイム・スリップ』フィリップ・K・ディック
 2003年の読了本。
 火星と時間を組み合わせたSF。
 火星は慢性的な水不足に苦しんでいて、水利労働組合が権力を握ってます。水利労働組合長は、国連の大規模な火星再開発情報をつかみますが、対象地は地球の投機家に買われてしまってました。そこで、過去に戻って買い占めようと画策します。
 独特なのが、時間を遡る方法。どうやら分裂病の少年が時間に対する特殊能力を持っているらしい……というところが出発点になってます。

■「火星のナンシー・ゴードン」田中啓文
  収録『銀河帝国の弘法も筆の誤り
 2001年の読了本。
 まったく覚えていないのですが、タイトル的には、エドガー・ライス・バローズの《火星シリーズ》から来ているはず。ダジャレを連発する作者なので、オマージュというより、そっち系だったかな、と。

■『火星の虹』ロバート・L・フォワード
 2003年の読了本
 宗教と火星のハードSF。
 双児のオーガスタスとアレクサンダーの物語。国連と新生ソヴィエト連邦が対立していて、ふたりは国連側。
 オーガスタスは火星を独立国にしようと、火星に尽くします。
 アレクサンダーは、対新生ソヴィエト連邦との戦争を勝利に導いて英雄となります。宗教団体にとりこまれてしまいます。

■『火星の人』アンディ・ウィアー
 2017年の読了本。
 火星サバイバルもの。
 想定外の砂塵に遭い、死んだと思われて、ひとり火星に取り残されてしまった男の話。
 火星には、次回の火星計画のための物資が届いてます。また、4年後には船がくることが決まってます。その日まで生きのびようと、アレコレ挑戦します。
 火星に残された側も、地球の関係者も、持てる能力を出し切っているのが、すごくいいんです。足のひっぱりあいがないっていうのが。

■『火星夜想曲』イアン・マクドナルド
 2001年の読了本。
 火星の砂漠で立往生した人が、その場に居着くことになってしまい、居住地がいつしか町へと発展していき……という物語。
 半世紀にわたる、ということもあって、ブラッドベリの『火星年代記』を引き合いに出した宣伝をしてました。
 いや、ちがうでしょ、と思った記憶はあります。

■「献身」エリック・チョイ
   収録『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』(宇宙開発SF傑作選)
 2010年の読了本。
 火星遠征計画の話。
 4人の男女が火星に到着するものの、チームワークはいまひとつ。そんな彼らがトラブルに見舞われます。どんなトラブルだったか……。
 

た〜

■「第一次火星ミッション」ロバート・F・ヤング
  収録『たんぽぽ娘
 2017年の読了本。
 火星に到着した宇宙飛行士と、その宇宙飛行士の子供時代の話。比重としては、地球での子供時代の方が大きいです。それでも、やっぱり火星の話なんですよねぇ。

■『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア
 2012年の読了本。
 実のところ、火星の話ではないです。地球ではじまり、タイタンで終わります。火星は途中で立ち寄るだけ。舞台のひとつなので入れておきました。
 大富豪が、すべての時空にあまねく存在する全能者となった男に、運命を教えられます。大富豪は予言を回避しようと画策しますが、どんどん運命に引き寄せられてしまう、という話。

■『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン
 2009年の読了本。
 旧題は『太陽系帝国の危機』。
 火星には火星人がいて、独特の文化を築き上げてます。その火星で、野党党首が誘拐されてしまいます。 火星の風習から公にすることができず、側近たちは替え玉を使うことに決めます。
 そこで目をつけられたのが、体格が近くて売れてない俳優。俳優は、野党党首の演技をします。最大のネックは、火星人への嫌悪感があること。野党党首は親火星人派だったんです。
 数々の困難を克服し、本物となっていく姿が圧巻。

■「地球太陽面通過」アーサー・C・クラーク
  収録『メデューサとの出会い
 2015年の読了本。
 火星で、地球が太陽面を通過する様子を観察する話。
 その観測している状況が、火星に遭難していて、もはや絶体絶命で死へのカウントダウンがはじまっている最中なんです。クラークなので、淡々としていたかな。

■《敵は海賊》神林長平
 シリーズの内6冊を2007年に読了。
(『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・海賊課の一日』『敵は海賊・A級の敵』)
 宇宙海賊と、広域宇宙警察対宇宙海賊課の物語。
 宇宙での話が多いと思いますが、主人公たちの乗る宇宙船の所属が火星ダイモス基地で、大物海賊の立ちより先が火星の無法地帯サベイジのバー。というわけで、火星で展開されることもあったかな……と入れておきました。
 

な〜

■《ノースウェスト・スミス》C・L・ムーア
 『大宇宙の魔女』『異次元の女王
 2013年の読了本。
 ノースウェスト・スミスは宇宙をまたにかけた無宿者。犯罪者ですが、未開の星の酒場や辺境では尊敬すらされている有名人。そのノースウェスト・スミスが主人公の短篇からなるシリーズ。その中で……
 「シャンブロウ」火星植民地
 「真紅の夢」火星のラクマンダ市場
 「冷たい灰色の神」 火星の都市リグァ
 「炎の美女」火星のラクダノール
 がそれぞれ火星舞台となってます。美女たちの妖しさが特徴的。ちなみに、作者のムーアは女性です。
 

は〜

■『星々の聖典』ドナルド・モフィット
 2005年の読了本。
 イスラム教ベースのSF。イスラム世界の雰囲気を味わうつもりで読んだのですが、そういう感じはなかった記憶があります。火星らしさもなかったような。
 主人公が火星首長国のクローニング技師なので、まぁ、火星が舞台だったんだろうと思います。
 続編で『星々の教主』がありますが、アルファ・ケンタウリに亡命しているので、火星も登場したかは定かでなく。
 

ま〜

■「マース・ホテルから生中継で」 アレン・スティール
  収録『80年代SF傑作選
 2008年の読了。
 火星のアルシア基地で結成されたバンド〈マース・ホテル〉の物語。ドキュメンタリーっぽくなっていて、関係者へのインタビューの積み重ねで展開していきます。

■「魔法の村」A・E・ヴァン・ヴォークト
  収録『終点:大宇宙!
 2013年の読了。
 火星で生き残った男が、不思議な村で悪戦苦闘する話。村は無人で、全自動になってます。火星人に特化した装置を、地球人である自分のために奉仕させようと、あれこれ試します。

■「見えざる敵」ジェリィ・ソール
  収録『地球の静止する日』(SF映画原作傑作選)
 2011年の読了本。
 本作は、アウターリミッツの「火星その恐るべき敵」の原作。アウターリミッツは、アメリカの一話完結型SFテレビドラマです。
 映像作品の邦題に「火星」と入っているのでリストに入れましたが、原作で火星と明言されていたかどうかは、ちょっと記憶にないです。
 砂漠の惑星で探査隊が行方不明になる事件が発生。コンピュータ解析で謎を解こうとする主人公と、頭が固い司令官が対立します。いつの時代になっても、年寄りってやつは。
 

や〜

■「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」クラーク・アシュトン・スミス
 収録『影が行く』(ホラーSF傑作選)
 2006年の読了本。
 4万年前に火星のヨーヒ人が絶滅していて、そのヨーヒ人の廃墟ヨー・ヴォムビスを調査する話。ヨーヒ人の絶滅理由が「あまりにもおぞましく、常規を逸しているために、神話のなかでさえ口にするのをはばかった」と説明されていて、考えただけで怖い。
 

ら〜

■『量子怪盗』ハンヌ・ライアニエミ
 2014年の読了本。
 おフランスなSF、というイメージがあるのですが、作者はフィンランド人でした。
 大怪盗が隠した情報の鍵があるのが、火星の〈忘却の都市(ウブリエット)〉で、そこでは、精神誘拐が多発していて、探偵が捜査協力しています。
 アルセーヌ・ルパンを彷彿とさせるネタの数々が、おフランスっぽさを演出しているのでしょうね。ちょっと読む人を選ぶ内容で、選ばれなかったな、という記憶があります。
 実は三部作の第一部で、続刊の『複成王子』(地球が舞台でアラビアンナイト風らしい)は翻訳されましたが、最終巻の出版予定はないようです。

■『レッド・プラネット』ロバート・A・ハインライン
 2016年の読了本。
 旧題は『赤い惑星の少年』でした。
 主人公は、火星植民地に暮らす少年。火星は寒暖差がはげしくて、人々は、夏は南極近くで、冬は北極近くで暮らしてます。ちなみに、主人公のいる寄宿学校は、赤道にあります。
 資本主義の悪いところを阻止するために、大冒険する話……だったはず。

■『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン
 2008年の読了本。
 火星三部作の第一部。なんでも「壮大な火星入植計画をリアルに描きつくしてSF史に金字塔を打ち立てた」と評判の三部作だそう。この後『グリーン・マーズ』『ブルー・マーズ』と続きます。
 残念ながら合わなくて、続刊は読んでません。もしかすると、今読むと夢中になってしまうかもしれませんね。読書はタイミングですから。
 

わ〜

■「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション
  収録『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』(宇宙開発SF傑作選)
 2010年の読了本。
 顔立ちがロズウェル・エイリアンで、好奇の目にさらされながら成長した男の話。志した宇宙飛行士になり、火星に降り立ちます。
 宇宙人と言われつづけてきた人が、ついに宇宙人になるって、すごいですね。とにかくラストが印象的。ユーモアのある人だったな、と記憶してます。


 

 
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