書的独話

 
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02月28日 2020年、ベスト
03月01日 合言葉は【古代】
03月18日 英国辞書史の裏
05月15日 〈時間超越者〉
05月26日 言文一致体と夏目漱石
06月20日 合言葉は【火星】
06月23日 ようやく、2000
06月30日 中間報告、2021年
07月11日 理想のベートーヴェン
07月28日 簿記は世界を変えるのか
08月31日 本の持つ力
09月21日 アメリカの警察
11月23日 ある奴隷の一生
12月13日 バッタ博士の3年間
12月31日 総括、2021年
 

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2021年12月13日
バッタ博士の3年間
 

 ブログ「砂漠のリアルムシキング」の話題が耳に入ったのが、10月も終わりのころ。
 論文が【PNAS】に掲載された、というニュースでした。

 【PNAS】は、米国科学アカデミー発行の機関誌。
 【Nature】と【Science】なら、門外漢でもさすがに聞いたことがありました。【PNAS】は、それらと並ぶレベルの総合学術雑誌だそうです。

 そのブログ記事のタイトル
『バッタを倒しにアフリカへ』行き、必殺技を見つけてきました
 を見て「あぁ!」って思ったのは、前野ウルド浩太郎の『バッタを倒しにアフリカへ』を読みたい本のリストに入れておきながら、そのままにしていたから。
 これは早く読まねば……と思い、なんとか年内に読むことができました。

 手にしたとき驚いたのが、新書というサイズから想像していたより本が重たい、ということ。めくってみて重たさの理由が分かりました。本文にもカラー写真がたくさん使われていたんです。
 すごく気合いが入ってる……。
 というわけで、気合いをこめて読みました。

 前野ウルド浩太郎は、農学博士。専門はサバクトビバッタ。幼いころに出会った『ファーブル昆虫記』に感化されて、昆虫学者となりました。
 〈ウルド〉は、現地でお世話になったさる方に授かったミドルネーム。とても意味のある名前だそうです。

 執筆当時はまだ、昆虫学者を目指しているポスドク。
 日本での、屋内での研究を経て、はじめてのフィールドワークとして、モーリタニアに赴きます。滞在するのは、国立サバクトビバッタ研究所のゲストハウス。

 モーリタニアは、正式名称〈モーリタニア・イスラム共和国〉。
 アフリカ大陸、北西部。大西洋に面してます。隣国は、モロッコ(サハラ・アラブ民主共和国)、アルジェリア、マリ、セネガル。
 国境を越えると地雷原、なんてこともある砂漠が舞台です。

 モーリタニアはイスラム(スンニ派)教国ですが、宗教がらみのことはあまり出てきません。クリスマスの話題があったのが驚きでした。客人に対するもてなしだったのでしょうか。想像ですが。

 バッタの大量発生による被害は、日本にいても、たびたび耳にします。にもかかわらず、これまでフィールドワークがほとんどされてこなかった、というのに驚きました。

 本書では触れられていないのですが……。
 モーリタニアは旧宗主国がフランスで、白人はテロの標的になりやすい、というのが一因のようです。それに、欧米諸国で学んだ現地の人は指導者の役割を期待されていてフィールドワークに時間を割けない、というのも。
 もちろん、そういう事情を著者もご存知で、Webなどでは触れていらっしゃいます。今回はあえて外したのでしょうね。サバクトビバッタには人間の都合は関係ないですから。

 なお、モーリタニアは日本にタコを輸出しているそうです。
 現地の人はタコを忌み嫌っていて、まったく食べないそうですが。

 閑話休題。

 本書では、2011年からはじまるモーリタニア滞在の3年間が綴られてます。
 目的のサバクトビバッタがいなくて困ったこと、フランスに誘われたこと、日本に一時帰国したときのこと、バッタの大群が発生して緊迫した状況、などなど盛りだくさん。
 軽妙な語り口が、読んでいて楽しいです。

 昆虫が苦手な人は、多数のカラー写真がちょっときついかもしれません。写真は見なくても、文章だけでも理解できます。
 世界で起こっていることを知る一助に、いかがでしょうか?

 なんと『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』なるものが出版されてました。『バッタを倒しにアフリカへ』が文部科学省の「子供の読書キャンペーン 〜きみの一冊をさがそう〜」に選ばれたため、児童書としても出版されたようです。
 新書版をベースに、子供にも読みやすく、写真はカラーに、エピソードも2つ追加……だそうです。つまり、読んでないです。

著者のブログ砂漠のリアルムシキング
 本書を読む前と後で、受ける印象が変わってきます。
 当時は、ポスドクでした。研究費はなんとか獲得できたものの無職。現在(2021年)は、国際農林水産業研究センターに正式採用されてます。
 感慨深いです。

 また、文中で「プレジデント」および「ナショナルジオグラフィック」について触れられてました。
 Webで読めますので、併せてどうぞ。

PRESIDENT Online
前野ウルド浩太郎 記事一覧
 2013年(全13回)
 本人執筆。文章がうまくなっていくのが分かるのも、読んでいて楽しいです。
 本書で取り上げられた3年間と時期的に重なっているため、内容は少々重なってます。先にこちらを読んでおもしろかったら新書も読む、というのもありでしょう。
 なお、3ページ目以降は無料会員登録をしないと読めない仕様になっているようです。5回分だけ、途中までしか読めない記事がありました。(会員登録すれば読めます)

NATIONAL GEOGRAPHIC(日本版)
「【研究室】に行ってみた。」
 川端裕人による連載。
モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所 サバクトビバッタ 前野ウルド浩太郎
 2014年(全6回+番外編3回)
 本人が書いた文章とは違った角度から現地のようすを窺えます。


 

 
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