マラカイ・コンスタントは大富豪。全能者となったウインストン・ナイルス・ラムファードに未来を予言され、運命に歯向かった。そのために無一文となり、火星軍将校として火星へと渡るコンスタント。火星で記憶をも失って、操り人形と化してしまう。やがて、火星軍は地球に攻め込むが……。
翻訳したのが浅倉久志と知りながら、今まで手つかずでした。敬遠していた理由はただ一つ。
表紙タイトルが手書き文字だったから。
手書き風ではなく、正真正銘の手書きタイトル。2回でてくる「タ」の字が微妙にちがうから、間違いなく手書き。
理由は本人にも分からないのですが、どうもゾッとしてしまうのです。
たまに、新聞折込広告で手書きのものがあります。それは大丈夫。なんとも思わない。なのに、カバーになるとダメ。
忘れちゃうほど昔、とんでもない駄作をつかまされたのかもしれません。図書館通いをしていたころから、カート・ヴォネガット・ジュニアの本は手に取りながらも断念していた経緯があるので、そうとう昔からでしょうね、このトラウマは。
こんなにいい本を書いた作者なのに、他の作品に食指が動かしがたいなんて。
ところで、この本を読んでいて、アルフレッド・ベスターの『分解された男』がちらつきました。
一大産業王国の樹立を目論むベン・ライクは、最大のライバル、ド・コートニー・カルテルの社長殺害を企てる。しかし、街中にエスパーがあふれる時代。殺意を隠すことも一筋縄ではいかない。そして、夢にでてくる顔のない男……。ベン・ライクの計画はいったいどんな結末をたどるのか?
共通項は「金持ち」か?
ベン・ライクもマラカイ・コンスタントも会社を持っているものの、本質はまったく違います。少なくともベン・ライクは、油田の大盤振る舞いをしたりはしない。逆に、マラカイ・コンスタントは、予言された未来を避けるために下品な手紙は書けても、殺人までは考えない。
似ているぞ、という点で印象的だったのが、2人の頭の中をぐるぐる回る歌。無意味で必要不可欠な歌と、人間を人形たらしめる歌。
書かれたのが同じ1950年代というのも関係しているのでしょうか。片方だけを読んでいる方は、もう一つもぜひどうぞ。どちらも名作ですから。