世界のおわりについて考えたことがあるかね?
自らを“神”と名乗る謎の男・マモー。神の実験を1万年つづけてきたと主張し、ルパンが盗んできた“賢者の石”をぶんどっていく。その正体は?
……ではなくって“世界のおわり”が今回のテーマ。
なんでこのテーマになったかというと、この本を読んだから。
カート・ヴォネガット『猫のゆりかご』
ボコノン教に入信したジョーナは、世界の終末に立ち会っていた。思えば、ここにいたったのも『世界が終末をむかえた日』の執筆にとりかかったから。原爆をつくったハニカー博士について調べるうち、博士の遺児たちとその発明品を知るようになって……。
ヴォネガットの作品は、SFとはいいがたいものが多いけれど、これもその内の一つ。ただし、世界のおわりはほぼSFの独擅場。SFとは言いがたいものもとりあえずSFになっちゃう。その終末ぶりはすざまじい光景でした。
ところで、ヴォネガットには他にも、終末が取り上げられたものがあります。(“ジュニア”の有無は出版時期によるもので、親子ではなく、同一人物です。)
カート・ヴォネガット・ジュニア『ガラパゴスの方舟』
人類は100万年をかけて進化をとげた。“わたし”は100万年前に死んだ男の幽霊。あれは、豪華客船バイア・デ・ダーウィン号造船中の事故だった。“わたし”は、進化のきっかけとなった出来事を回想する。
こちらの終末は、終末を通り越した後(100万年後)から現在をふりかえっているため、終末感はうすめ。というのも、そもそもの目的が人類の進化にあったから。彼らを進化させるために島を隔離する必要があり、そのために島民以外の人類を滅ぼすことに……。終末は副産物だったのです。
ここまでに挙げた2作品も、冒頭のルパン三世でマモーが提起する“世界のおわり”も、それでも地球はまわってる状態。『猫のゆりかご』の地球はやがて死の星となるだろうけれど、依然として存在はしているわけだ。
もっと大きな終末といえば……地球の滅亡?
ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』
アーサー・デントは、バイパス建設のために自宅から立ち退きを要求されていた。抵抗するアーサーだったが、実は地球そのものも、銀河ハイウェイ建設のために立ち退きを要求されていた。地球は破壊され、なんとか難を逃れたアーサーは銀河をさすらうことになるが……。
元はといえば、イギリスのラジオ・ドラマ。ブラック・ユーモア満載ながらも、やや支離滅裂な印象はぬぐえません。映画化されましたけと、通しで最後まで一気に駆け抜けるより、一話ずつ、小出しに楽しみながら観たい気がします。
それにしても“世界”とはどこからどこまで?
人類が“世界”なのか、地球が“世界”なのか、銀河が“世界”なのか、宇宙が“世界”なのか。
ラリイ・ニーヴン&ジェリイ・パーネル『悪魔のハンマー』は、彗星が地球に衝突する話。おわりを迎えるのは、人類の文明。生き残った人々は協力しあい、文明の復興に当たります。いったんは崩壊した文明だけれど、けっして消え去ったわけではない。
大石 圭『出生率0』では、世界中で子供が産まれなくなり、ついには出生率が“0”となってしまった世界が舞台。あれから7年。地球は変わらないけれど人類は滅びゆくしかない。
ブライアン・W・オールディス『グレイベアド 子供のいない惑星』も同様の設定。あれから50年。こちらにはかすかな“希望”があったような気もしますけど、なにぶん記録が残ってないほど昔に読んだので内容はあやふや。
ラリイ・ニーヴンの《ノウンスペース》シリーズでは、臆病で慎重で狡猾なパペッティア人が、銀河の滅亡を知って逃走します。太陽系も含むこの銀河で生物という生物が死に絶えるまで、あと2万年。
文明の終焉、地球の破壊、銀河の衝突、いろいろあるけれど、宇宙そのものがおわってしまうのが、
スティーヴン・バクスター『虚空のリング』
人類は、太陽が死につつあることを発見した。この謎をさぐるうち、暗黒物質である生命体フォティーノ・バードの存在が見出される。彼らは太陽だけでなく、宇宙そのものをも滅ぼそうとしていたのだ。
暗黒物質と通常物質の正面衝突。もう世界は滅びるしかない。
ところで、この作品はバクスターの《ジーリー》シリーズの集大成。宇宙が消滅するところまではいかないんですが……と書くとネタバレのような気もしますが、ストーリーを読ませる作品じゃないので、ご容赦ください。
そして、もひとつ。
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』
考古学者ロンド・ヘシュケは、異星人・アムラックとの戦争で破壊された遺跡を調べていた。その過程でヘシュケは、逆行する時間を目の当たりにすることに。世界でなにが起きているのか?
時間が巻き戻されている世界と、正常な流れを持った世界とが正面衝突。もう世界は滅びるしかない。実は、結末覚えてないんですが。
最後に、もひとつ。
ジェイムズ・ブリッシュ『時の凱歌』
星間航法スピンディジーの開発によりニューヨーク市は地球を飛び立った。数多の冒険の果て、ニューヨーク市はある惑星に腰を落ちしかせる。しかし、そこへとんでもない知らせが舞い込んできて……。
正物質世界と反物質世界の正面衝突。それによって時間は終焉を迎えるのでした。もう世界は滅びるしかない。
当書は《宇宙都市》シリーズの最終巻。なんで宇宙都市の物語の最後がこれなの? というのが正直なところでした。
宇宙のおわりは、だいたい、なにかとなにかの正面衝突が原因のようで。それ以外の原因といえば……ポール・アンダースン『タウ・ゼロ』では、正面衝突なしに宇宙がおわってましたっけ。たしか。そうだったよなぁ……。
また再読したい本が増えてしまいました。<